21.穴の掃除
翌日、朝の配給を食べて後片付けをしたらすぐに町に向かった。今日はゴミ回収がないけど、運が良ければ穴の掃除ができるかもしれない。聞いたからにはどんな仕事なのか気になってしまっていた。
一時間の道のりを経て町に辿り着き、またギルドまでの道のりを歩いていく。そして、ようやくギルドに辿り着いた。
朝早いのかギルド内は閑散としていて静かだった。ギルドの受付も開始したばかりなのかカウンターには半分くらいの人しか座っていない。私はその中の一つに並んだ。
「難民の方でしょうか」
「はい。冒険者証です」
「お預かりします。Fランクですね、少々お待ちください」
昨日とは違うお姉さんとやり取りをする。
「今日のお仕事は庭の草むしりと害虫駆除、4000ルタ。子守り、4000ルタ。ゴミ回収の穴掃除、6000ルタ。以上となりますが、どれにしますか?」
あ、穴の掃除がきた! 今日は運が良かったのかな、他の報酬に比べるとそれが一番高いからそれにしてみようっと。
「ゴミ回収の穴掃除でお願いします」
「はい、では説明いたしますね」
どうやら今回は担当者がいないようだ。どんな説明になるんだろう。
「ゴミ回収後の穴の掃除についてですね。昨日の内に焼却が終わっていますので、燃えカスの中からガラスや鉄を探して見つけるお仕事になります。見つけた物は専用の箱が近くにありますのでそちらにお入れください」
「燃えカスはどうすればいいですか?」
「燃えカスはそのまま穴の中に放置でいいです。先ほども言ったガラスと鉄だけで結構ですよ。多ければ多いほどいいので、できれば丁寧に探して頂けると助かります」
そうだよね、拾った物がお金になるんだからね。ここを頑張ると領主さまのためになるのかな、少しでも恩返ししたいから丁寧に探してみようっと。
「必要な道具は箱の近くにあるので自由に使って下さっても構いません。穴の場所は分かりますか?」
「はい、大丈夫です」
「それでは作業が終わりましたら、こちらまでお越しください、報酬をお渡しします。なお、後で現場を確認することになっていますが、作業が雑ですと罰金とかありますので気をつけてくださいね」
そっか、そういうのがないとわざと手を抜く人も出てくるよね。私はお姉さんにお辞儀をしてギルドを後にした。新しい仕事、頑張るぞ!
◇
歩いて数十分、昨日来た穴の近くまでやってきた。穴の中は黒焦げになっていて、ゴミが跡形もなく消し炭になっている。ここまで燃やせる火の魔法、見たかったなぁ。
「えーっと、箱……あった!」
素材を入れる箱を近くに発見した。近寄って箱を見てみると、片方にはガラス、もう片方には鉄が入っている。なるほど、ここに入れておけばいいんだね。
箱の隣を見ると、バケツが2つ、農作業に使われるフォーク、大きな長靴、はしごが置いてあった。フォークの隙間の間隔が狭いのは、きっと素材を見つけやすくするためだよね。
私は早速長靴に履き替え、はしごを持って穴に設置した。穴の深さは3mはあって、はしごがないと上り下りができなくなっている。
次にフォークを穴の中に落とし、その次にバケツを2つ落として準備完了だ。あとは私が穴の中に降りるだけ。
はしごに手をかけてゆっくりと降りて行く。はしごに体重をかけるとちょっとだけ沈んで驚いた、ちょっと冷やっとしちゃったよ。
一番下まで到着してはしごから降りると、ちょっとだけ沈んだ。ちょっとだけフカフカな消し炭ってなんだか珍しいな。
「さてと、やりますか」
腕まくりをして、フォークを手に持った。フォークはちょっと重くて扱いにくい。これから重労働もありそうだし、少しずつ体を鍛えていければいいな。そしたら色んな仕事ができるはずだから。
私はフォークを消し炭の中に差して、ゆっくりと持ち上げて揺すってみる。うーん、ここにはないか。
今度は違うところを差して、持ち上げて揺すってみる。あ、フォークの先から音がした。一度フォークを置き、先まで近寄ってしゃがんでみる。消し炭の中を手で探ると固いものが手にあたった。
「これは……ガラスだ」
少し溶けかかったガラスを発見した。これ、いくらくらいで売れるんだろう。小さいから1ルタとか、そんなものなのかな。うーん、この物の値段も勉強しないとね。色々とやることがあるなぁ。
ガラスをバケツに入れて、再びフォークで消し炭を漁っていく。カン、と音がして持ち上げてみると不思議な形をした鉄が現れた。これも火の魔法で変形しちゃったのかな。
そのままバケツに入れてどんどん掘り起こす。ガラス、鉄、鉄、鉄、ガラス。黙々と素材を拾っては入れてを繰り返し、あっという間にバケツの半分くらいまで埋められた。
あんまり重いと持ち上げるのが大変だから、このあたりで一度箱に入れておこう。まずは鉄のバケツを手に持ち、はしごを登っていく。登ると鉄の入った箱にバケツの中身をぶちまける。これでよし。
ガラスも同じように入れておいてっと。結構上り下りが大変だった。
フォークを手に持ち、消し炭の中を漁っていく。またカンと音が鳴って持ち上げると、小さな金属が見えた。なんだろう、と見てみると硬貨の形をした何かだった。
「まさか、硬貨がゴミの中にあるわけないよね」
カルーが言っていたけど、半信半疑だった。消し炭まみれになっていた金属を手ではらってみる。なんだろう……銀?
「こ、これ……小銀貨だ」
えぇ、まさか小銀貨を拾うとは思ってもみなかった。というか、小銀貨を間違ってゴミの中に捨てるとか、あり得るのかな。とっさのことで落としてしまったのかな。それにしても100ルタ、手に入っちゃったよ。
「悪い気もするけど、ありがたくいただきます」
思わず呟いちゃった。硬貨袋を取り出して、チャリンと中に入れる。こんな幸運一回きりだよね、だよね? うぅ、ちょっと欲張っちゃう気持ちがでちゃうね。こういうのは無心でやらなければ。
私は一心不乱にフォークを突き刺して揺すっていく。鉄、鉄、ガラス、ガラス、硬貨……硬貨? また拾っちゃったよ。今度は……銅貨だ。
ま、まぐれだよねまぐれ。絶対にそうだ。首を横に振って邪念を吹き飛ばす。深呼吸をして、気持ちをリセットする。
フォークを持って突き刺して、持ち上げて揺する。ガラス、鉄、鉄、鉄、鉄、ガラス、ガラス、硬貨……えぇ!?
ドキドキしながら消し炭をはらっていくと、銀色が見えてきた……小銀貨だ。うそぉ、こんなに硬貨って捨てられちゃうものなの? 信じられなくて頬をつねって見る。いたたた、夢じゃないみたい。
なんでこんなに見つけられるんだろう……そうか、運がBあるからだ。こういう時に役立つステータスなのかな。そういえば、穴掃除のクエストも受けられたし運のお陰なんだよね。運様、ありがとうございます。
その後もせっせと素材を沢山見つけたり、硬貨を見つけたりした。硬貨は全部で432ルタになり、ちょっとした臨時収入にはなったみたい。
仕事も早めに終わって、今日は時間ができそうだ。残った時間を何に使うか……三階の図書室に行ってみよう。早速、文字の勉強もしないとね。
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