20.初仕事はゴミ回収(3)

 あれから3回ほど回収とゴミ捨てを繰り返して仕事は終わった。どの路地でも色んな人に声をかけられて、ちょっと恥ずかしかったな。でもどの人もいい人ばかりで本当に良かった。


 みんなで小屋に移動して台車を片づけて、そこで仕事は終了。すると班長さんが現れた。


「今日もお疲れ様。報酬渡すから並べー」


 そうだ、報酬があったんだ。他のクエスト受給者が並んだのを見て、私も急いで列に並ぶ。一人ずつ手渡しで報酬を渡しているらしい。楽しみだな、町の外で稼ぐよりも多くの報酬を貰えるのは嬉しいな。


 そんなことを考えているとあっという間に順番がきた。


「初仕事お疲れさん。どうだった、大変だったか?」

「ちょっと大変でしたけど、皆さんいい人で元気もらっちゃいました」

「そうかそうか。クエスト見たら是非受けてくれよ。ほい、報酬の6000ルタだ」

「ありがとうございます」


 手渡しで渡される銀貨6枚。こ、こんなに銀貨をもらえるだなんて夢じゃないよね。早く硬貨袋に入れないと、落としちゃいそうで怖いな。ふふふ、こんなに稼げるなんてなぁ、嬉しい。


「ねーねー、リルー」

「はい、なんでしょう」

「そのお金ってどうするの? 家族に渡したりするの?」


 カルーが不思議な質問をしてきました。そっか、こっちの事情をカルーは知らないもんね。話しても大丈夫かな。


「私、家族に見放されちゃったんです。だからこのお金は自分のために稼いだものです」

「えぇ、そうなんだ。なんか悪いこと聞いちゃったかな」

「ううん、いいんです。私ももう割り切ったことですから」


 うん、このお金は自分のために使おう。あとは集落のためにも使おう。親に知らせたら全部取られそうだからね、大事に隠しておかないと。それにしても、カルーは何を聞きたかったんだろう。


「カルーは孤児院のために使うんでしたよね」

「そうそう。でも、一部は自分のために使っているのよ。そうだ、これから一緒に遅い昼ごはん食べに行かない。いい場所知っているのよね」

「昼ごはん!」


 朝早くから昼過ぎまで働いて、お腹がペコペコだ。集落に戻ったら食べるものはないし、川に行って魚を食べるっていう手もあるけど……町のごはんすごく気になる。このお金は自分で稼いだものだし、自分のために使ってもいいよね。


「ぜひ、連れてってください!」


 ◇


 カルーに連れられて町の中を歩いていく。色んな人が行き交う町はにぎやかで、ついつい色んなものを見てしまう。いいなー、私も早く町に住んでみたいな。


 すると、いい匂いが立ち込めてきた。肉の焼けた匂いに、スープの匂いも混ざっている感じだ。


「ここだよ」


 カルーが指差した場所は一軒のお店。そのお店は扉のない構造をしていて、座席が外まで広がっている開放的な場所だった。そのお店の中からは色んな料理の匂いがたちこめて、お腹がキュルルと鳴く。


「リルもお腹ペコペコ?」

「えへへ、はい」

「ここは私に任せて。おじさーん」


 二人で笑い合うとカルーは店の中に入って行く。


「おう、カルーか。今日も食べていくか?」

「うん。今日は連れがいるから、いつもの二つね」

「二人か、珍しいな」

「同じクエストで一緒になってね」

「そうかそうか。好きな席で待っててくれ」


 二人の話が終わると、カルーが手招きをした。私はそれに釣られるように店の中に入り、カウンターに二人で座る。


「ここはね安いのに量もあるし美味しいし、私の一番のオススメなんだ。しかも、注文した品は500ルタ!」

「へー、そうなんですね。あんまり物を買ったことがないので、安いかどうかは分かりませんが、カルーがいうなら間違いないんでしょうね」

「うんうん。違う店も見てみると、ここが一番安いって気づくことになるよ。今度、色んな店に行ってみてよ、そしたら絶対にここに戻ってくることになるからね」


 500ルタが安いのか高いのか分からない。でも、孤児院のカルーがいうんだから間違いはないんだろう。


 二人でおしゃべりしながら待っていると、肉の焼けるいい匂いが漂ってきた。この世界で初めて嗅ぐ、肉の焼けた匂い。どうしよう、美味しそうすぎてよだれが止まらないよ。


「どう、美味しそうな匂いでしょ」

「……はい。もう、我慢できません」

「ふふ、もうちょっとだから我慢してね」

「うー」


 早く食べたい、早く食べたい。お腹と背中がくっついちゃうよ。


 もうしばらく待ってみると店主がプレートを持って近寄ってきた。


「はいよ、お待ち!」


 きたー!


 目の前にプレートが置かれる。そこには串に刺さった香ばしい匂いのするお肉、白いスープ、小さなパンが4つ。


「パンがいつもより2つ多いね」

「新しい子を連れてきたお礼だよ。食ってけ食ってけ」


 どうやらパンを2つオマケしてくれたらしい。なんていい店主なんだ、ありがとう。


「「いただきます」」


 私は早速食べ始めた。まずはやっぱり、アツアツのお肉から。串を手に持つとずっしりと重く、顔まで近づけると顏と同じ長さで驚いた。こぶしくらいの肉が4つもついていて食べ応えがありそう。


 息を吹きかけて少し冷まして、かぶりつく。


「~~~っ」


 じゅわっと溢れる肉汁の旨味がすごい! 噛めば噛むほど肉汁が溢れ出して、ほのかな甘みがとてもいい。噛むと弾力が強いのに、プツリと簡単に嚙み切れる絶妙な固さ。ん~、美味しい!


 あっという間に一つのお肉を食べてしまった。次にこの世界で初めてのパンを食べてみる。手で割ってみるとちょっと固い。そっか、スープにつけて食べるんだ。


 一口サイズにパンを千切って、スープに浸して食べる。パンが柔らかくなってジュワッとスープが滲み出す。優しい味が口一杯に広がって、口の中に残った肉汁を洗い落としてリセットされていくようだ。この二つだけで無限に食べられそう。


「リル、どう?」

「とっても美味しいよ! こんなの食べたの初めて!」


 思わず声が出てしまった。でもカルーは気にすることなく笑って食べ進める。


 この日、私は初めてお腹いっぱいのご飯を食べることができた。

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