鳥屋野潟
あらいぐまさん
第1話 鳥屋野潟
ある日、ウッちゃんから、一本の電話が来た。
その電話は、「灯し日の会」を、4月9日に、ケンが計画しているという話だった。
善行は、そこで、早速、ガンちゃんにも電話をして、詳細を聞くことにした。
電話をかけて、つながると、善行は、ガンちゃんに話し始めた。
「ガンちゃん、元気?」
「うん、元気」
ガンちゃんは、相変わらず元気な様子だ。
「ケンが、交遊会を計画している様なんだけど……」
「知ってる、僕も、行きたいんだけれども、グループホームでの用があって行けないんだ」
「そうなんだ……」
「僕の代わりに、楽しんできてね」
「ああ、分かった」
善行は、そこで、電話を切った。
灯し日の会は、ケンとウッちゃんと、善行の3人で行くことになった。
ケンからメールが来て、その内容から、今回は、湖のある公園に行って桜を見に行く計画だと知った。詳細は、分からないが、取りあえず、10:30に、中央駅の南口のお店のニャンデュウ入口前で、落ち合うことがわかった。
最近買った、デェルマスターのカード・ゲーム用のカードの山を持ってくるようにとの、注文が追加されていた。
当日、善行は、いつもより早く出て、中央駅行きの電車に乗った。電車に揺られながら、久しぶりの再会に、善行の胸が躍った。
辺りは、4月前半なのに、まるで5月の終わりの様な、晴天の日となり、桜を見るには、絶好の日となった。テレビを見ていると、ウクライナの情勢が、中国が、アメリカが、どうのこうのと言う話が流れている。
……日本は、平和だな……
善行は、待ち合せの場所で待っていたが、集合時間が、押してくると、不安になった。
……本当に来るのだろうか、待ち合わせの場所は、此処でいいのだろうか? ……
その時、ケンの声がした。
「ヨッチャン、こっち、こっち」
ケンとウッちゃんが、大喜びで、善行と合流した。
ケンが善行に声をかけた。
「お久しぶりです、あぁはは……」
「ケンは、元気そうだね」
「ハイ、元気です」
二人の様子を見ていた、ウッちゃんが、善行に言った。
「カード、持ってきましたか?」
「うん、持ってきたよ、スマホでやり方を見たけど、実際にやってみないと、理解できないね……」
「公園で、やりましょう!」
「はい」
話が盛り上がると、ケンが、今日の予定を発表した。
「今日は、これからバスに乗って、湖のある公園前のバス停まで行きます。そこで降りて、公園で、ゆっくりします。そこで、カードゲームをやったり、桜を見たりしたりして過ごします。その後、楽しんだ後、タクシーに乗って、丸外ラーメン屋で食事して、帰りのバスに乗って中央駅前にいき、近くのマックに行って、軽食を食べて終わります……」
「おお」
ウッちゃんと、善行は驚いた。
ケンの堂々とした様子や、サプライズのタクシーの利用などあって、どうなるのか? という未知の体験に心が躍った。
「先ずは、バスに乗りましょう」
そういって、鳥屋野潟方面の公園行きのバス停に向かった。
3人は、バス停で待っていると、何分もしない内に、バスが滑り込んできた。
「それじゃ、行きましょう」
ケンは、そう言って、バスに乗り込んだ。
3人は、バスに乗り込むと、バスは、建物が林の様に林立している中を、突き進む様に、走っていた。
ふと、ケンが言った。
「私、ここら辺の事をよく知っているんですよ、仕事場がこの辺にあって、毎日、通っています、はい……」
善行は思った。
……ケンは、こうゆう所で、生活しているんだな……
善行は、彼が、都会的な人間であることに、改めて気づかされた。
バスは、急に右にまわり、そのまま、一直線に市民病院の方へ、向かっていった。
この頃になると、バスの景色は一変して、建物も、まばらになって、箱物の大きな建物だけが、やけに目立っていた。
……中央地域とは、デカイところなんだな……
やがて、市民病院の近くに来ると、湖のある公園前のバス停に着いて、3人は、バスを、降りた。
3人は、それから公園に隣接する業務用スーパーに行って、公園で飲むためのドリンクを買いに行った。
それぞれ、1本買って、公園を目指した。
工事中の柵を乗り越えると、一行は、湖のある公園の中に入った。
「桜は、まだ、満開じゃないみたいだね」
「ほんと、桜って、満開になると、今より、ふっくらしてボリュムがあるからね」
ケンと善行は、桜を愛でた。
ウッちゃんが、カード・ゲームをしようと言うので、ケンは、ウッちゃんが、ゲームが、出来るような場所を探し始めた。
やがて、小屋のような所を見つけて、3人は小屋の中に入った。
小屋に入ると、ウッちゃんは、早速、デッキを出して、善行に戦いを挑んだ。
ウッちゃんは、昔から、やっていて、デッキも最強にカスタマイズされていて、善行が、勝てる見込みはなかった。
ドリンクを一口飲むと、戦いが始まった。
ケンは、その様子をじっと見ていた。
ジャンケンをして、先行と後行を決めると、山札から1枚ドロー(捲って)して、マナ・ゾーンに置いた。戦いが進む、善行のバトルゾーンにあった、クリチャー・カードは、ウッちゃんのカードにやられて、カードの捨て場(墓地)に送られていった。
バトル・ゾーンにあるカードで、シールド・カードを、全て破壊されると、ダイレクト・アタックが決まって、何回やっても、善行は、ウッちゃんに、勝つことはなかった。
ケンは、その様子を見ていたが、ウッちゃんとは、戦うが、善行とは、戦う事がなかった。
善行が言った、デュエルのやり方が、スマホで見られる事を、知らなかったからだ。
ケンは、それを見て、ルールを知ってから、納得づくで、善行をやっつけたいと、考えている様だった。
……こわいなあぁ、でも、ケンには、負けたくないぜぇ……
ゲームを終えると、ケンは、みんなに言った。
「ラーメン食べに行きしょう、今、タクシー会社に電話します」
善行は思った。
……サプライズのタクシーか! …
「お金は、私が払います」
「いいの?」
善行が、ケンに聞くと、ケンは、笑いながら頷いた。
公園に入ってきた、入り口に戻って工事の柵の前で待っていると、タクシーの車が来た。
「行きましょう!」
3人は、タクシーに乗って丸外ラーメン屋を目指した。
……いやぁ、楽だな……
5分くらいで、丸外ラーメン屋に着いた。
しかし、丸外ラーメン屋は、休業中だった。
皆はびっくりしたが、ウッちゃんと善行は、ケンに任せておけば、大丈夫と楽観していた、一方の、ケンと運転手は、善行とウッちゃんの考えと違って、もっと、深刻に感じて、これから、どうすればいいのか? それを、決めなければならず、困惑していた。
ケンは、スマホをいじって、この辺のラーメン屋を探した、急場なので、どこでも、良いという感じで、丸内ラーメン屋に決めると、善行とウッちゃんに、「丸外ラーメン屋じゃなくて、丸内ラーメン屋に変えていいですか?」と、聞いてきた。
二人は、「いいよ」と言った。
そこで、タクシーは、丸内ラーメン屋に向かって、走り出した。
この辺りが、普通の人と違う、どんなに慌てても、仲間である、彼らの事を忘れない……。
タクシーが、丸内ラーメン屋に着くと、丸内ラーメン屋は営業していて、3人は、そこで、タクシーを降りた。
ケンの「では、中に入りましょう」の一言で、一行は、食事にあり付ける喜びを、感じながら、店の中に入っていった。
ラーメンを注文すると、3人は会話を始めた。
「最近テレビを見ないんだ……」
ウッちゃんが、2人に言った。
「そうね、私は、ネットで見るからね」
そう、ケンが言うと、善行も、「私も、音楽ばかり聞いていて、テレビを見ないんだ」と言って、あまりテレビを見ないことを伝え合った。
それが、良いことなのか、悪いことなのか? 善行には、判断できなかった。
善行と、ウッちゃんのラーメンが、テーブルに運ばれて、二人はラーメンを食べ始めた。
遅れて、ケンのラーメンが運ばれて、遅い昼食になった。
ケンは、予定が狂ってしまって、これから、どうやって、中央駅に帰ろうかと、心配しながら食べていた。二人は、そんな、ケンの様子に、気付くことはなかった。
ケンは、ラーメンを、食べながら思った。
……これからどうしよう、どうやって、中央駅に帰ったらいいんだろう、歩いて帰るのには遠すぎる、3人分のタクシーの運賃は払えない、バスしかないんだが、バス停が、何処にあるのか? あったとして、何時、バスが来るのか? 分からない……
ウッちゃんが、「薬を飲むから待って」と言って、薬を出して、それを飲むと、3人は、ラーメンを食べ終わった。
ラーメン代を払って、店を出るときに、ケンは、何処に行った良いか分からず、堪らず、店員にバス停の場所を聞いた。
すると、店員は、「右に曲がって、そのまま、真っすぐ行けば、バス停がある」と言った。
ケンは、ひと安心して、2人を連れて、バス停を目指すことになった。
迷いながら、歩いて行ったが、一向に、バス停が見つからず、ケンは、不安だった。
そんな気持ちも知らず、二人は、「ケンに任せておけば大丈夫」と、能天気に考えていた。
歩きながら、3人は、通りの景色を見ていた。
整備された歩道を、緑が木々に生えてきている様子や、その一方で、錆びれていく建物の間を歩いて行った。
一向に、バス停が見つからず、さすがに、善行やウッちゃんも、ケンの様に不安になってきた。
善行は思った。
……この道で、大丈夫なのだろうか……
3人は、目的地のバス停の分からない道を、不安を感じながら、ただひたすら、バス停を目指して歩いて行った。
そこにかかった、時間は、彼らにとって、長く感じた。
突然、ウッちゃんが叫んだ。
「あれ、バス停じゃない!」
「ホントだ、バス停だ」
3人は、バス停まで行くと、時刻表を見て、40分位したら、バスが来ることを知った。
「これで、帰れるね」
善行が言った。
二人は、コクリと、頷いた。
その後、バスに乗って中央駅に帰ってきた。
ウッちゃんのたっての希望によって、マックで、軽食を皆で食べると、善行は、2人と、別れて、帰りの列車に乗って帰ってきた。
列車に揺られながら、今日の出来事を振り返っていた。
……スケジュールの発表は、相変わらず、上手いなぁ。今日は、肝の桜が見れてよかった、ケンのタクシーは、サプライズだったな、まっ、休業日に重なったのは、困ったけれども、ケンが、上手くやってくれた……
ケンは、自分の事を嫌っているのかと思ったが、会ってみると、そんな感じはなかった。ガンちゃんが来なかったのは、残念だが、次回が期待できる。
善行は、楽しかった。
それは、ケンのお陰である。
善行は思う……。
……ありがとう、ケン…
ただ、この幸せが、桜の花が散るように、無くなりはしないかという、精神病特有の感じ方が、彼の心になかった訳ではないが、それを、上回る程の幸せを、色あせることのない、幸せを、善行は、感じていた。
アパートに帰って、一人で、リキュールを一杯やった。すると、ほろ酔い気分になって、いつの間にか寝入っていた。
次の日の早朝、目を覚ますと、善行は、作業所に行く準備を始めた。
2022,4,10
鳥屋野潟 あらいぐまさん @yokocyan-26
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