第4話:証拠が残らないならやったもん勝ち

「助けてくれお頭ぁ!」

「魔女だ、魔女が出やがったぁ!」


 酷い言われようです。こっちだって産まれたくて魔女に産まれたわけではないのに。

 酷い世界ですよね。そう思います。前世に比べたら自由意志が許されている分流石にマシだと思いますが。

 そんなことを考えていたら山賊たちの拠点までやってきました。村一つを占拠したんですかね。民家などがそれっぽいです。そうなると、結構規模も大きく、やってることも幅広いでしょう。

 魔女は怖がりますけどね。


「そんな怖がらないでくださいよ。ちょっとお願いしただけじゃないですか」

「お願いじゃねぇ、脅しって言うんだああ言うのは!」


 確かに。今後は脅しにならないように気を付けましょう。人と付き合う上でのマナーですものね。平和に暮らす上でマナーは大事です。

 山賊に言われたくはなかったですけれど。


「じゃあ脅しでいいので、ちょっとばかし物資分けてくださいな」


 マナーとは人と交流するうえで、相手を尊重するためにあるのです。つまり、尊重する必要がない相手なら気にしなくて良し! 山賊相手なんて何しても許されるでしょう! だって魔女には何しても許されるんだもの!

 非人道的行為を行う人間は、非人道的行為を行われる覚悟を持って行うべきです。


「魔女だからってビビってんじゃねぇ。こんだけの数を見て、なんとも思わねぇのか、女」

「はい? ……あら、まあ」


 気が付いたら、ここは山賊の拠点のど真ん中。私を囲うように大勢の山賊が立っています。三十人くらいでしょうか、そこそこ多いですね。

 目の前にいる偉そうな人は山賊の親分さんでしょうか。

 うーん、ちょっとばかり困りましたね。人が多すぎます。面倒くさい。


「確かに、困りますね。この数は」

「だろう? 大人しくしとけば見逃してやらんでもないが――」

「だって、逃げたり隠れられたりしたら、ちゃんと全員殺せたかどうか数えられないじゃないですか」


 悪いことをするときの鉄則。目撃者は全員消すこと。

 やると決めたなら、やりきりましょうが鉄則です。中途半端が一番よくありません。


「『氷牢結界』」


 私は魔女。魔法を意のままに操る魔女。この程度の人数、物の数に入りません。

 なので真っ先に逃げ道を封鎖します。ちょっと目立つのが嫌ですが、逃げられる方が嫌なのでこの拠点の周囲を氷の壁で覆いつくし、逃げられないようにしてあげます。


 これで最悪のケースは防げますと。拠点の外に山賊残ってたら嫌ですけどね。探さないといけないので。


「な、なんだぁ!」

「お頭! 周囲に氷の壁ができやした!」

「見ればわかるわそんなこと!」

「『氷槍』」

「ぶべらっ」


 氷の槍を作りだし、飛ばす。山賊のうちの一人の頭が消し飛びました。

 うーん、もうちょっと効率よく狩りたいですね。一人一人殺していくのは効率が悪すぎます。


「う、うわあああああああ!」

「逃げろ、逃げろぉ!」

「殺せぇえええええええ!」


 一人が死んだだけで阿鼻叫喚の地獄絵図。瞬く間に山賊たちの統制は崩れて、逃げるものと私にかかってくるものに分かれます。


「『氷刃』」


 近づいてくる人たちは氷の刃で切り刻み、返り血が着かない距離で殺します。町に入るときに服が汚れていたら嫌なので。


「誰か、誰か助けてくれぇ!」

「あっ、壁には触らない方がいいですよ」


 発狂して何と私が作り出した氷の壁を剣で叩き始めた人も出てきました。

 あーあ、触らない方がいいって言ったのに。


「なんだこれ、何なんだよぉ! たすけ――」


 氷の壁に触れた傍から体が凍り付いていき、最終的には全身が氷漬けになってしまいます。

 氷牢結界はそういう魔法なんですよね。危ないので境界線側には近づかない方がいいですよー。

 まあどっちみち殺すんですけど。


 粗方片づけ終わったかなと周囲を見回してみると、親分さんが立ってた場所に腰ぬかして倒れてました。逃げることもかかってくることもしなかったんですねこの人。

 基本的には手下たちに全部やらせてたってことなのでしょうか。なんて卑怯な人なんでしょう!


「な、な、な——」

「な?」


 親分さんが何か必死に言おうとしてます。遺言ぐらいは聞いてあげましょう。覚えていられる保証はないんですけれど。

 それが人としての道理というものです。


「なんで、なんでこんなことができるんだよ」

「なんでって――」


 そんな、当たり前のことが遺言でいいんですか? 聞きたいことはそれだけですか?

 まあいいです。答えてあげましょう。


「平和に生きたいからですかね」

「なっ――」


 私の言葉に親分さんは言葉も出ない様子。まあ人として当然の欲求をとやかくいう事はできませんものね。平和に生きたい。きっとみんなそう願っているはずです。願いが叶うかどうかは別問題として。


「それでは、自然の恵みに感謝して――」


 私は周りにもう生きている人が親分さんしかいないのを確認して、親分さんに向かって両手を合わせて頭を下げます。

 日々これ感謝の精神です。自然の恵みに感謝しましょう。


「——私が平和に生きるための糧になってくださいね」


 親分さんの首が飛びました。これで、目撃者はゼロ人です。

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