第5話:やるものやったら逃げるが勝ち
ホクホクです。金品もいっぱいありましたが、一般人が多く持ちすぎていると疑われるので一部だけ袋に詰めさせてもらいました。
食料だけ少し別の場所に埋めておいて、最低限食糧難で身内争いが起きたように偽装して見せます。氷漬けの死体は別途穴掘って埋めて、証拠隠滅。残るのは切り裂かれて死んだ死体ばかりなので、身内同士で殺し合ったように見えなくもないでしょう。
いやあ、前世の知識が役に立ちます。役に立たない生活がしたいんですけどね私は。
魔力石ももらえたので、今後の魔女じゃない証明に役に立つことかと。
入手経路としては、女一人旅ということで知り合いから好意で譲ってもらえた体にしましょう。それなら、細かい詮索もされないことでしょうし。
楽しいですね。努力が実った結果というのは。これで将来の見通しが幾らばかりか明るくなりましたよ。平和な生活にまた一歩前進です。
それでは街道に戻ってきまして、懐も潤ったところで町を目指していきましょう!
っと、むこう側から馬に乗って誰か来ますね。どなたでしょうか。山賊の残りとかでないといいんですけれど。証拠隠滅が面倒くさいので。
近くに来るとどんな身分の方かわかり始めます。鎧を身にまとっているので、きっと騎士の方ですね。
「もし、お嬢さん。このあたりで誰か人を見なかっただろうか」
「いいえ。見てないですけれど……何かあったんですか?」
このあたりでは人は見てませんね。はい、何も嘘はついてません。
山賊の方々? 彼らは自然の恵みですから。
「いや、探し人をしていてね。この街道を通ったと思うのだが……見ていないなら仕方がない、情報提供感謝する、先を急がせてもらおう」
本当に先を急いでいたのか、それだけを言い残してさっさと私が向かっていた方向とは反対側へ向かって行ってしまいました。
騎士の人が探し人なんて何があったのでしょう。嫌なことが起きなければいいのですけれども。
「行った? 行ったわよね」
「わっ」
そんなことを思いながら騎士の方の背中を見ていると、街道横の木々の向こうから人が一人転げ出てきました。びっくりした。
「……ちょっと、ちょっとそこの貴女。ちょうどいいわ、私に付き添いなさい!」
「ええ……いきなり何なのですか」
「いいから! あいつが戻ってくる前に、早く町にたどり着かないと!」
なんだか嫌な予感がしますね。厄介ごとの予感です。
でも騎士の方が探してるとなると証拠隠滅するとまずい雰囲気がしますし、
「町に入るなら女一人より、女二人の方が怪しまれずに済むわ! 魔女扱いされたら嫌だもの」
「それは、そうですね」
「貴女も町を目指しているんでしょう? なら、私と一緒に行くことにデメリットはないはずよ」
「それも、そうですね」
私が受けるデメリットは狩りができなくなることぐらいでしょうか。魔女だとバレるのが嫌なので。
狩りはやり終わった直後なので、特に問題ないでしょう。
魔力石もあるので……あっ、そうだ。
「魔力石持ってるんですけど、ちょっと触ってみてもらえませんか?」
「なんでそんなもの持ってるのよ! まあいいけど」
「女一人旅という事で知り合いから譲り受けたんですよ。魔女だと疑われると危ないので」
「どんな知り合いよ……。ほら、これでいいでしょう」
魔力石には反応がなかった。この人は魔力制御ができない魔女ではないらしい。
これなら巻き添えをもらって魔女認定されることもないはず。よかったよかった。
「私はクラリス。クラリス・アンコスタ」
「私はグレイスです。えと、道中よろしくお願いしますねクラリスさん」
「クラリスでいいわ。その代わり、私もグレイスって呼ばせてもらうわね」
クラリスさんですか。いい名前ですね。
苗字の事を聞かれないのは助かりました。私に苗字はありませんからね、家がないので。聞かれていたら適当に名乗らざるを得ないところ。ありもしない苗字を名乗って変に疑われたら嫌な気分になるところでした。危ない危ない。
まあグレイスも偽名なんですけどね。本名名乗って実家バレからの魔女バレとか嫌ですし。
「ねぇ、グレイスはどうして一人で旅をしてるの?」
「私の事を知ってる人がいない場所でのんびり暮らしたくなりまして」
「そうなの!? 私と同じような感じなのね。私も家の事が嫌になって逃げだしたの」
家の事が嫌になって。先ほどの騎士の方はクラリスさんを探していたわけですか。
ならクラリスさんは結構な良家の方ってことになりますけれど、どうしてこんなに親し気にしてくれるのでしょう。
「ほら、さっさと行きましょうグレイス」
「あっ。はい」
私の手を引いてクラリスが走りだす。
私は足をもつれさせない様について行く。
なんだか少しだけ楽しい旅になりそうです。一人でないってこんな感じなんですね。
少しだけ、いやとっても、平和な日々って感じがしてきました。
いいですね。こんな感じの日常が続いて欲しいものです。
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