第3話:これまたベタな山賊たち

 旅支度を終えて、さっそく旅に出ます。干し肉は作ったので、食料は少し余裕はあるでしょう。バックパックを背負って、幾つかの道具と食料を持って、水を入れる用の革袋も持った。


「再三の準備確認良し! 何事も準備の段階から結果は決まっている」


 前世での教訓です。悪事を働くときは、基本的に事前の準備で全てが決まります。いや、悪事を働く予定はないんですけどね? 別の事にも応用できる考え方ってだけですよ?


「それじゃあ新天地目指して、レッツゴー!」


 旅立ちは明るくいきましょう。

 さようなら小屋さん、ありがとうございました小屋さん。あなたのおかげでこれまで生きてこれました。涙なしに別れは告げられない。

 そんなこんなでよく利用する川沿いに進むことにしました。さて、ここで問題です。


「上流を目指すか、下流を目指すか、ですね」


 この森に流れている川は小川で、おそらく支流だと思います。なので、上流に遡っていけば、大きな本流に合流できると思ってます。こちらの問題は、この予想が外れていた場合、まるまる時間を無駄にしてしまうところ。


 下流に向かって進むのは、ここが上流の場合は本流に合流できる可能性があります。ただ、あんまり高所って感じがしないのでその可能性は低いと思われる。ただ、いずれ海には出るので海にさえ出てしまえば海岸沿いに進めば町は見つけられるでしょう。


 滝に出会っても何とかはできますからね。私魔女ですし。


「……よし、ここは上流を目指しましょう」


 下流を目指すのが安全策。ならば、リスクを取ってでもリターンが大きい方を取りましょう。

 人は緊急時になると安全策を選びがちになり、その結果危険に陥りやすいというのも前世の教訓。ここは大きくでるとしましょう。


 森の中の道を進みます。道中出てきた獣は魔法で殺し、持ってきた火おこし道具で肉を焼いて食べます。狩った分は感謝して糧としましょう。自然の摂理です。


 自然の恵みに感謝しながら進んでいくと、無事に本流へとたどり着きました! 私の予想は正しかった、またしてもこれにはガッツポーズ。

 しかも、本流には街道が整備されています。ここを通っていけば、迷うことなく町へたどり着くことができるでしょう。方向的に私が周知されている場所から離れていく方へ進むとしましょう。


「ちょっと止まりな女ぁ!」

「嬢ちゃんが一人で旅だなんて不用心だねぇ。悪いおじさんたちに攫われちゃうよぉ?」


 ——街道を進んでいたら、如何にもみたいな見た目をした山賊に絡まれました。三人ですか、少ないですね。多分私が一人でいるから人数が少ないのでしょうが。


 二人は手に剣を持っていて、私に向けてきています。武器を持っているからこんな強気なのでしょうか。まあ見るからに女性一人旅ですからね、油断もしますよね、しょうがないですよね。

 厄介ごとってどうして向こう側からやってくるんでしょう。放っておいてくれないですかね。

 いやいやここはちょっと冷静に考えてみましょう。プラス思考、大事。


「山賊がいるってことは、町にはまだ遠い。でも人通りは定期的にある。当たりですね」


 山賊からなら……奪ってもいいかな? どうせ奪って得た金品でしょうし、せっかくなので少し譲り受けましょう。町に着いたら何かと入用になるお金。調達できるときにしておきます。

 仕事を探すにしても、きっとその間食いつなぐ方法が必要になるはずですし。町に入るのにもお金が必要なはず。持っておいて損はないでしょう。


「……な、なあ兄貴。なんでこいつこんな落ち着いてるんだ」

「落ち着けよ兄弟。魔法石に反応はない。てことは魔女じゃないはずだ……」


 ああ、やけに落ち着いてると思ったら、魔女の可能性を考えてなかったわけではないんですね。むしろ魔女でないのが魔法石で確認できたからこそ強気だったと。


 そういえばなんか片手に魔法石持ってますね。魔法石は見た目が透明で、魔力に反応すると色が変わる性質を持っているので非常に見分けやすいです。高価なはずなんですけどね。奪った品でしょうか。

 でもごめんなさいね。私、魔力制御が完璧な魔女なので。


「ねぇねぇ、金品を置いて逃げるのと、私を拠点まで案内してくれるのどっちがいいですか? ついでにその魔法石もくださいな」


 私の提案に山賊の方々はようやく事態の異常さに気が付いてくれたみたいです。

 ついでにちらっと魔力見せてあげたりして。あっ、魔力石の色が青色に変わった。


「あ、兄貴! こいつ、魔女だ!」

「嘘だろ! なんでこんな街道ど真ん中に魔女がいるんだよ!」

「魔力石に反応しなかったんじゃないのかよぉ!」


 あらあら、阿鼻叫喚ですね。まあしょうがないですよね、魔女ですもん。

 これが本来あるべき普通の反応です。しょうがないですよね、魔女ですもん。

 私は平和に生きたいだけなんですけどね。


 逃げる山賊さんの後ろを追っかけて、拠点まで案内してもらいましょう。

 平和に生きるためには、先立つものは必要なのです。

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