第2話:さっそく役立つ悪い知識

 なんだかんだ抵抗せずに連行されまして。取り調べを受けてます。

 狭い石の部屋、取り調べ用の部屋ですかね。拷問部屋じゃなくて助かりました。

 なにせ、魔力を隠せるようになった私に怖いものなんてないのです。


 魔女の取り調べには、魔力に反応する魔力石という石が使われます。これがまた微量の魔力にも反応するから魔力を少しだけ持ってるだけの一般人にも反応する代物で。冤罪が結構あるそうな。怖いですねー。

 でも今の私は魔力を完全に隠すことができるほどのコントロール力を得ているので何も問題はない! と思ってました。


「魔女なんだろ! さっさと白状してしまえよ!」

「違います! 魔力石使ってみてください、証明できますから!」

「お前なんかに使う必要があるか? あんなところに一人で住んでいる女なんて、魔女であることは明白だろう」


 そう、魔力石を使ってくれないのである!

 最初から決めてかかってきている人を相手するのは無理なんですけど! どうしろって言うんですかこれ!

 実際魔女なんですが、だからこそ困るんですけど!


「私は魔女じゃないです。きちんと証明もできますよ」

「ほう、どうやって証明するというんだ」


 魔力石さえ使ってくれれば、すぐにでもと言おうとして止めました。


「証明さえできれば、解放してくれるんですよね?」

「ああ、証明さえできれば解放してやろう。で、どうするんだ?」


 念のための確認。言質取りましたよ。

 前世の記憶によると、こういう決めてかかってくる人物はそもそも結果を求めている傾向が強い。今回の場合は、私が魔女であるという手柄を求めている。

 つまり、別の結果を与えてやれば――


「——こういう、証明です」


 そっと、銀貨を一枚差し出す。

 銀貨を見た瞬間、目の前の男の目が変わる。確かめるように、私と銀貨を交互に見る。

 男は少し逡巡し、銀貨を懐に入れると、少しだけ険しい形相が柔らかくなる。


「——まだ証拠としては足りないな。魔女でないと言い切れないほどじゃない」


 この強欲さんめ! 私がどれだけ稼ぐのが大変な身だと思ってるんですか!

 でもここはぐっとこらえて。私の平和な生活のためです。

 すっと追加で銀貨を二枚出す。


「なるほど、確かに……魔女ではないかもしれんな」

「でしょう?」


 何とかなってしまった――

 出費自体は非常に痛いけれど、賄賂は悪いことだけれども、何とかなってしまった。

 前世と違って平和に生きるって決めた傍から、悪いことをしてしまった。


 いやいやいや、これは不可抗力、不可抗力ですから。やらないと魔女判定、魔女判定されたら終わりですよ私の平和な生活。


「いやはや、こちらの手違いですまなかったな」


 取り調べ官の方は追加のお金を懐に入れた途端、にこやかになって、私へ握手を求めてきました。


「いえいえ、お仕事お疲れ様です」


 私はこれまたにこやかに応じます。平和って大事ですよね。相互理解により世界平和に一歩近づきました。

 殺さずに済んだのは本当に良好です。


 無事、解放されました。これには思わずガッツポーズ。

 ありがとう前世。よろしく今世。一体これからどないせぇ。

 手持ちのお金は賄賂で殆ど使ってしまったので、必要な物資を買う計画が崩れました。

 日常品を多少買えるぐらいのお金しか残ってないので、大人しく帰りましょう。


 ただいま小屋。しばらくまたお世話になります。さよならじゃなくて助かりました。

 さてさて、立てていた予定が崩れ去って、何をしようか考えなおしましょう。

 お金は無くなった。元々あまりなかったのに。つまり次はない。味を占めてもう一度来ようものなら大問題。


 お金を稼ぐ方法を考えましょう。魔法で狩猟? 流石にバレる。薬草で薬を作る? 魔女のイメージそのまんまですね。これまで通り野菜を作って売るぐらいしかないですが、年単位で集めた分が一瞬で消し飛びました。


「つまり、お金を稼ぎ直すよりも、次が無いようにさっさと出て行ってしまう方がよい」


 考えがまとまると、選択肢が一気に狭まります。


 干し肉を作るのに数日消費されますが、昨日の今日で来ることは流石にないはず。保存食を作るぐらいの時間は稼いでくれるでしょう。銀貨三枚も払ったので。私の三年分のお金を使ったのですから数日ぐらいは稼いでくださいよ。お願いですから。

 これで今日とか明日にまた来たらちょっと……証拠隠滅の方法も考えないといけないかも。


「保存食の作り方は問題ない。畑……は愛着あるけど捨てていくしかない。服装も、一旦動きやすさ重視で」


 とりあえず肉を塩漬けにするところから始めましょう。

 できる事からさっさとやります。やってみせます。平和な暮らしのためになんでもやってやりましょうとも!

 前世からの悲願達成のために!


「やってやります。何でもやってやりますよ。今度こそ平和な生活を手にするんだから!」


 部屋の真ん中で生肉を片手に叫ぶ。

 とりあえず、旅支度の間に再度問題が起きることはありませんでした。よかった。

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