第7話 魔王、パーティーを組む。

 魔眼の射手シャルエン。遥か彼方の空に彼女がいるはずなのだが、カイルの目では彼女を確認することができない。


 ただ、矢が飛んでくる方向から村の西の方角にいることはわかる。


「か、母さん!」

「今は白騎士よ。まあ、母さんでもいいけれど」

「どっちでもいいだろそれは! それよりどうするんだよこれ!」


 無数の矢が雨のように降り注いでくる。それを白騎士の姿となったミリアが剣で切り払い、叩き落している。


「ごめんなさいね。さすがにこの距離だと私の攻撃は当たらないわ。防御で精一杯」


 それは見ればわかる。凄まじい量の矢だ。この量をどうやって打っているのか理解できないほどの量である。


「……召喚獣を呼ぶしかないか」


 カイルは召喚石を取り出す。しかし、敵の位置がわからない。攻撃する対象がわからなければ召喚獣に指示を出すことは難しいだろう。この一帯を更地にすることもできるかもしれないが、それでは被害が大きすぎるし犠牲が出ることは免れないだろう。


「あらぁ、困ってるみたいねぇ」

「セリアリア!」


 カイルたちが困っているとセリアリアが姿を現した。彼女は防御魔法で矢を防いでいるようで、降り注ぐ矢の中で平然としていた。


「さっさと助けろ!」

「どうして? 私、あなたの仲間でもなんでもないのよ?」


 そう、その通り。セリアリアは仲間ではない。彼女とはただ魔導書の出どころを追及しないかわりにアイテムを渡すという約束をした相手に過ぎないのだ。


 だが、今は彼女の力が欲しい。彼女の魔法ならこの状況をどうにかできるかもしれない。


「頼む、力を」

「イヤよ。なんだか、力になりたくない気分なの」


 セリアリアはふふんと鼻を鳴らすと意地の悪い笑みを浮かべる。


「まあ、どうしてもって言うなら助けてあげないこともないけど」


 腹の立つ顔をしている。しかし、彼女の力を借りたいのは事実だ。


 ならば、とカイルは頭を下げようと地面に両手をついた。


 その時だった。


「そんなことをしなくても大丈夫よぉ」

 

 頭の中に声が響いた。


「パーティーを組めば仲間になるわぁ」

「パーティー……」


 そう言えばそんなことを言っていたな、とカイルは頭の中に響く女神の声で思い出す。


「さあ、パーティーを組むメンバーを選んでぇ」


 目の前にパーティー編成画面が浮かび上がる。カイルは女神の指示に従いそこに白騎士とセリアリアを登録した。


「登録かんりょ~。じゃ、がんばってねぇ」


 声がブツッと途切れる。いつものように唐突に念話が切られた。


「さあ、どうするのかしら? 私の力がいるの? いらないの?」


 カイルは両手を地面から外すとセリアリアの方へ顔を向け真っ直ぐ彼女を見つめた。


「……頼む、力を貸してほしい」

「あら、そんな顔もできるのねぇ。男前じゃない」


 セリアリアは楽しそうに笑う。そして、それから片手を高く掲げ魔法を発動した。


「『グラビトン』」


 ズンッ、と何か重たい音が響く。その次の瞬間、降り注いてでいた矢がすべて何かに押さえつけられるように落下し地面に押さえつけられた。


「重力魔法よ。この状況で飛べる矢なんて存在しないわ」


 そう説明するとセリアリアは次の魔法を発動した。


「『シャドウミスト』。これで私たちのことが見えなくなったわ」


 黒い霧のような物が発生しカイルたちを包み込む。


「これは魔眼でも見通せないのかしら?」

「大丈夫よ。魔法による透視も防ぐことができるわぁ」


 シャドウミスト。セリアリアが発生させた黒い霧はどうやら光も遮るようでカイルの周りは真っ暗になり何も見えなくなる。


「おい、これじゃあこっちからも」

「問題ないわ。私は目をつむってても相手の位置がわかるから」


 セリアリアは得意げな顔で敵がいる方向へ顔を向ける。


「さあ、這いつくばってなさい」


 セリアリアは重力魔法を発動する。


「捕まえたわ。見に行きましょうか」


 カイルたちの周囲に発動されていた重力魔法が解除された。しかし攻撃は来なかった。雨や霰のように降り注いでいた矢は止んだ。


「かなり離れているみたいだから飛んでいくわよ。『フライ』」


 あっけなかった。あっという間に終わってしまった。


(こいつ、見た目と性格はアレだが実力は本物なんだな)


 痴女のような露出の多い服装に気持ちの悪い言動をしているが、セリアリアは魔法使いとしては一流のようである。ようなのだが、なんとなくカイルはその事実を受け入れられなかった。


 そんなカイルたちはセリアリアの飛行魔法で敵、魔眼の射手シャルエンがいる場所まで飛んでいく。


「……信じられない。この高重力下で立っていられるなんて」


 シャルエンのいる場所に到着したセリアリアは驚愕していた。普通の人間なら指一本動かすことができない状況のはずなのだが、シャルエンは重力魔法の影響を受けながらも立ち上がり、しかも弓を構えようとしていたのだ。


「こいつがシャルエンか……」 


 シャルエンは亜人だった。背の高い黒ウサギの亜人の女性で、頭にはウサギのような黒く長い耳、顔立ちは人だが鼻はウサギのような黒い鼻をしていた。目は左右で色が違い右目が赤で左目は紫色をしており、その瞳孔は獣の物だった。


 そんなシャルエンを重力魔法に抗い立ち上がろうとしてきた。それを見たセリアリアはさらに重力を強くする。するとさすがのシャルエンも耐えられなかったのかその場に膝をつき動けなくなった。


「化け物ね、八天衆って言うのは」


 重力に押さえつけられ身動きの取れないシャルエンだったがその目は死んでいなかった。シャルエンは鋭く力強い目でカイルたちを狙っていた。


「久しぶりね、シャルエン」

「み、り……」

「しゃべることもできないのね。セリアリア、魔法を解いてあげて」

「いいのぅ?」

「大丈夫。この距離なら私の方が速いわ」


 ミリアは兜を外して素顔を晒す。シャルエンは重力魔法から解放され、激しく咳き込みながらも立ち上がる。


「……ミリアルデ」

「誰の指示? 狙いは私?」

「自分の意思だ。狙いは、お前じゃない」


 シャルエンはミリアの後ろにいるカイルに目を向ける。


「それが、器か」

「違う。この子は……」


 ミリアは後ろに振り返り、辛そうな目でカイルを見つめる。


「この子は、失敗作よ」


 カイルに視線を向けながらそう言ったミリアは苦しそうに顔をしかめ唇をかみしめていた。

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転生魔王はガチャを回す。 甘栗ののね @nononem

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