第5話 魔王、契約を交わす。
どうやら女神のなんやかんやの力でカイルがバハムートを召喚した姿は誰にも見られなかったようだ。
しかし、騒ぎがあった事実は消えず村の広場が吹き飛んだことには変わりはない。
そんな騒ぎが起きたことで村長は村に異変が起きていると勘違いし村人たちに外出を控えるように通達を出した。そのせいでカイルも不要不急の外出が許されず、家にこもって暇な時間を過ごしていた。
そして、その三日間、もちろん朝にはガチャを回した。回したというか女神が勝手に回している。
「今日も最低保証で~す。キャラ開放武器も出ませんでしたぁ。ざ~んねん。また明日ぁ」
その日も女神はよくわからないことを勝手にしゃべり勝手に念話を切った。いつものことながらなんと言うか、腹が立つ女神である。
そして、こいつも腹が立つ。
「おはよう、お母様」
「あらぁ、今日も来たの? 暇なのねぇ」
セリアリアだ。どういうわけかセリアリアは意味もなく村に滞在している。
「おはよう、カイルくん」
「失せろ」
「あらぁ、連れないわねぇ。そんなんじゃモテないわよ」
ここ数日、セリアリアは毎日カイルの家に訪問し、適当な話をして帰っている。本当に暇なのか、それとも何か企んでいるのかはわからないが、正直カイルは迷惑で仕方がなかった。
「お母様、少し席を外していただけますぅ?」
「冗談じゃないわぁ。あなたみたいな人と大事な息子を二人っきりにするわけがないじゃないの。叩き出されたいのかしら?」
「あらあら怖い怖い。ねえ、カイルくん。私、あなたのお母様に殺されちゃう」
本当にセリアリアは何をしにきているのかカイルにはわからない。わからないが、さっさといなくなって欲しい。本当に。
「まあ、別にいてもいいんだけどね」
そう言うとセリアリアは意味深な表情でカイルを眺めてニィッと笑って見せる。
「あれをどこで手に入れたかを吐いてくれたら、それでいいから」
「……母さん、こいつと話がある。心配しないでくれ」
あれ。それはあれである。
グリモワール・レプリカ。どうやらセリアリアはあれの出どころを探っているようだ。
「あらぁ、連れ込まれちゃった。何されるのかしらぁ」
「黙れ。それと、あれの話は母さんの前でするな」
「なら、教えてくれるかしら?」
さて、どうしたものかとカイルは考える。正直に、ガチャで手に入れました、とは言えないし言いたくないし教えたくもない。
「私なりにいろいろと調べたけれど何もわからなかった。あなた、あれをどこから手に入れたの?」
諦める気配はなさそうだ。セリアリアはグリモワール・レプリカの出どころを知るまで付きまとってくるかもしれない。くるかもしれないが、教えるのはリスクが高いだろう。
なにせこいつは信用ならない。今のところ信じられる要素がどこにもないのだ。
「すまないが出どころは言えない」
「そう、なら無理矢理にでも」
「追及しないのならこれから似たような物を手に入れたらお前に譲る」
「……どういうことかしら?」
興味を示してくれた。これならセリアリアを説得できるかもしれない。
「どこで手に入れたかは教えられないが、おそらくこれからも同程度の物を手に入れることになるかもしれない」
「なんだか曖昧ね」
「悪いな。俺にもわからんのだ」
そう、わからない。カイルはガチャと言うものが何なのか未だによくわかっていない。
(今度聞いてみるかな。こちらの話を聞くかはわからんが)
あの女神は本当に人の話を聞かない。質問しても答えてくれるかもわからないが、一度確認してもいいかもしれない。
「まあ、信じられないのもわかる。正直、信じてくれとも言えん」
「信じるわ」
「……信じるのか」
妙に物分かりがいい。何か企んでいるのでは、とカイルは警戒する。
「あんなとんでもない物をポンとくれるんだもの。信じてみる価値はあるわ」
「そうか。なら契約成立だな」
どうやらセリアリアはどうにかなりそうだ。
「じゃあ、さっそく」
「……なんだその手は?」
「くれるんでしょ?」
「今は……。まあ、いい」
まったく面倒な奴だな、とカイルはため息をつくと異空間に手を突っ込む。しかし、最近のガチャは渋くて良い物が出ていないので、セリアリアに渡せそうなものはなさそうだった。
なので仕方なくカイルはセリアリアに朽ち果ててボロボロの短剣を一本取り出してセリアリアに渡すことにした。
(レア度はSR? だったはずだから、どうにかなるだろう)
武器や防具などのアイテムにはレア度なるものがあるらしいが、カイルはまだよく理解していない。しかし、SSRの次にレア度が高いのがSRだというのはなんとなく理解していたので、SRであるボロボロの短剣を渡すことにしたのだ。
「今はこれぐらいしかないが」
「こ、これは……!?」
カイルからボロボロの短剣を受け取ったセリアリアはそれを眺めながらわなわなと震え始める。
「じょ、状態は良くないわ。でもこれは、こんなものを、どこで」
「追及はしないという約束だろう」
「そ、そうね。いいわ、今回はこれで」
セリアリアはボロボロの短剣を丁寧に布でくるむと大事そうに抱える。
「用は済んだだろう。さっさと帰れ」
「ホント、つれないわね。でもいいのぉ? こんな魅力的なお姉さんになにもしなくて」
「さっさと出て行け」
セリアリアはカイルに追い出されるように部屋から押し出される。
「それじゃあ、またね。バイバーイ」
「二度と来るな」
カイルは大きなため息をつく。やっとセリアリアが家を出て行って一安心だ。
「ごめんな、母さん。迷惑かけて」
「いいのよ。でも、あんまりひどいようなら、一度……」
一瞬、ミリアの表情が険しくなる。本当に一瞬のことだったが、まるで冷徹な殺人者のような表情をミリアは浮かべていた。
「か、母さん?」
「どうしたのぉ?」
「いや、なんでもない」
最近、なんだか母親が怖い。
「さ、お洗濯しましょうか。カイル、手伝ってね」
セリアリアが押しかけてきて面倒なこともあったが、その日もその後は平和に一日が終わった。
とりあえず、平和に終わったのだった。
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