第4話 魔王、召喚獣を手に入れる。

 朝が来た。


「5時で~す。ガチャを回しましょ~」


 カイルは声を無視して布団に潜り込む。


「回さないのぉ?」

「うるさい」

「回さないのぉ?」

「だからうるさ」

「じゃあ回しま~す」


 やはり女神は人の話を聞く気がないらしい。


「う~ん、今日はSSR無しみた~い」


 残念そうにそう言うと女神は勝手に黄色い石に触った。


「あらぁ、虹が隠れてたわぁ。なにかしらなにかしらぁ」


 全く言っている意味が分からない。そして眠い。


 とにかく眠い。というのも昨夜は宴が開かれたからだ。一応、成人の儀式はまだだが年齢的に成人を迎えたカイルも宴に連れ出され、夜遅くまで付き合わされたからとても眠いのだ。


「じゃじゃ~ん、召喚石『バハムート』を手に入れましたぁ。すご~い。じゃんじゃん召喚してみてねぇ」


 本当にまったく何を言っているんだか。


「じゃあ、またあ~した。バイバーイ」


 女神の声が聞こえなくなる。


「これで、ゆっくり眠れる……」


 さて、二度寝しようとカイルは寝返りを打つが、眠ることは出来なかった。


「そういえばぁ」

「寝かせろ!」


 カイルはバッと起き上がり天井に向けて声を張り上げる。


「うるさい黙れクソ女神! こっちは夜遅くまでジジイどもの昔話に付き合って」

「バトルのチュートリアルがまだだったわぁ」

「話を聞け!」


 やはり女神とは会話が成立しないらしい。


「まずはパーティーの編成をぉ」

「だから話を」

「カイル、朝から何を騒いでいるの?」


 ミリアがカイルの声を聞きつけて部屋の扉の前にやってきたようだ。


「な、なんでもないよ、母さん。少し、そう、少し怖い夢を見ただけだから」

「そうなの? ならいいけれど」


 カイルは慌てて弁明した。ミリアはどうやらそれを信じたようで、部屋の扉の前から人の気配が消えた。


「クソッ、お前のせいで」

「もう、パーティーを編成してよぉ」

「こいつ……!!」


 本当に本当にマイペースというか神様と言うか。


「……もういい。で、パーティーを編成するにはどうしたらいいんだ?」

「今、パーティーに編成できるのはこの人たちねぇ」


 セイルの目の前にパーティーに編成できるメンバーの名前とその姿が映し出される。


「……こいつだけなのか?」

「そうよぉ」


 目の前に現れた一覧に記載されている名前は一人だけだった。


 暗黒大魔導士セリアリア。セイルがパーティーに編成できるのは今のところ彼女だけのようだ。


「……どうしても編成しないといけないのか?」

「まあ、別にいいけど。一人で大丈夫? 魔物と戦うんだけど」


 大丈夫か、と問われると大丈夫ではない。今のカイルは前世のような力はないので魔物と戦えるとは思えない。


 思えないが、セリアリアとパーティーを組むのはどうしてもイヤだった。


「わかったわぁ。今回は一人でやるのねぇ。じゃあ次に武器や防具を装備してねぇ。今装備できるのはこれ」


 とりあえずパーティー編成はすっ飛ばして次に移った。今度はカイルの目の前にパーティー編成の時とは別の画面が浮かび上がる。そこには今現在持っているアイテムや装備が一覧表で記載されていた。


「……面倒だから適当でいい」

「は~い。じゃあ、適当にやっとくわねぇ」


 女神に任せて装備を済ませる。どんなとんでもない装備になるかと身構えたカイルだったが、特に変な物を装備されることはなかった。


「短剣に皮鎧か。まあ、こんな物か」


 勝手に体に装備された武器や防具を眺めてカイルはホッと胸をなでおろす。普通でよかったと安堵する。


「じゃあ次は召喚石を装備してねぇ」

「召喚石? そんな物もって」

「勝手に装備するねぇ」

「おい」


 これも女神が自動で装備してくれた。


「……バハムート? そう言えばさっきのガチャで手に入れたな」


 よくわからないがなんとなく強そうだ。本当によくわからないが。


「本当はジョブの選択もできるんだけどぉ、今はソルジャーでいいわよねぇ? それしかないしぃ」

「それでいい。とにかく早く終わらせてくれ」


 そう、さっさと終わらせて欲しい。まだ早朝で、できるなら今すぐにでも寝たいのだ。


「じゃあ、バトルのチュートリアルに入るわねぇ。魔物、カモ~ン」


 嫌な予感がした。そして、その嫌な予感は当たってしまった。


「魔物だーー! 魔物が出たぞーー!」


 カンカンカン! と村に危険が迫っていることを報せる鐘の音が早朝の村に響き渡る。それを聞いたカイルは天井に向かって怒鳴りつけた。


「お前は何を考えてるんだ! さっさと魔物を」

「早く魔物を倒してねぇ。じゃないとチュートリアルが終わらないわよぉ」

「クソッ」


 カイルは苛立たし気に舌打ちをすると自分の部屋から駆け出し家の外へと向かった。


 家の外に出ると村は大騒ぎになっていた。そして今回は危険がすでに村の中に侵入していた。


 村の広場に灰色の狼のような魔物が一頭。他には見当たらないが、それだけでも小さな村にとっては脅威の対象である。


「じゃ、あれと戦ってみてぇ」

「ふざけるな。俺はただの人間で」

「じゃあなんでパーティー組まなかったのぉ?」

「ぐ、う……」


 それを言われると何も言い返せない。言い返せないが、どうしてもセリアリアとはパーティーを組みたくなかった。


「というかセリアリアはどこにいるんだ! あいつがいればこんな魔物」

「あ~、寝てるんじゃな~い?」

「クソがっ!」


 絶対に絶対に女神が何かしたに違いない。カイルは悪態をつきたくなる気持ちを抑え、とにかく目の前の魔物をどうにかする方法を考えることにした。


(どうする? 武器は装備したが、戦えるとも思えない。だとすると、使えるものは――)


 武器、仲間、召喚石。カイルは召喚石の存在に思い至り、それをどうやって使えばいいのかをすぐに女神に確認した。


「召喚石は天に掲げて名前を呼べば使えるわよぉ」


 と説明されたのでカイルは異空間から召喚石を取り出し、それを高く掲げて名前を呼んだ。


「バハムート! 俺に力を貸せ!」


 カイルがバハムートの名を呼ぶと召喚石が光を放ち始め、その光が天に昇っていく。すると空が分厚い雲に覆われいきなり暗くなり、雷鳴がとどろき始め、その雷鳴と共に空から漆黒の巨大な竜がカイルの頭上に飛来してきた。


「バハムート! こいつを蹴散らせ!」


 カイルはバハムートにそう命じる。バハムートはその命令を受け、その口から激しい光の激流を吐き出し灰色の狼の魔物を広場ごと吹き飛ばした。


「はーい、討伐完了。チュートリアルしゅ~りょ~」


 こうしてカイルの最初の戦いが終わった。成人の儀式のために飾り付けられた広場を跡形もなく吹き飛ばして魔物に勝利したのである。


「……寝よう」


 カイルはその被害の大きさを目の当たりにし、考えるのをやめた。

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