『古事記』における「衣通姫(そとおりひめ)」伝説を元にした、恋愛小説です。
と、書くと、難しそうに思われてしまうかもしれません。
ご心配なく。
主人公カルノ(衣通姫)の視点で語られるこの小説は、少女の恋心に寄り添いながら、優しい筆致で語られてゆきます。
一番好きなことばは、ここ↓(本文から引用させてください)
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カルノの激しさに、大前小前宿禰はほっと息を吐いた。
「あなたのその激しさ、どこに隠されていたのでしょう。その激しさこそ、あなたが光り輝く王の証なのでしょうか。そうやってご自分を解放し、光り続けられていられたら幸せになれたはず。なぜ、あなたは太子を選ばれたのか」
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なぜに答えられるようなら、きっと少女は、お利口さんに安穏と生きられたでしょう。
けれども、少女は、おのれの激情を、ただ太子(禁忌の相手)へと、一途にささげたのです。
さあ、そんな少女の恋の行方は――!?
古代日本を舞台としたドラマチック・ラブストーリーです。
カルノとその兄の恋の物語。
二人は兄妹だし、兄の方は次の天皇に選ばれているし、恋愛をするにはかなり厳しい状況です。
上記に挙げた点だけでも大きな障害なのに、弟に天皇の座を奪われ、逃亡して、信じていた人に裏切られ、捕まって……と苦難だらけ。
カルノは島流しにあった兄に会いに行くのだけど、結局、二人は悲劇的な結末を迎えてしまいます。
救いのないエンドですが、そこに至るまでの過程が丁寧で、二人にしっかりと感情移入をさせられるので、読み終えると、悲しい気持ちはあるものの、この物語を読んでよかった、という満足感を得られました。
時折、挟まれる歌も、切なさをより感じさせられてよかったです。
万人受けはしないかもしれませんが、完成度の高い作品なので、是非読んでみてほしいです。
血を分けた兄と妹。幸せな結末は望めないと分かっていても、惹かれてしまう。人目を忍んでこそこそと愛し合うしかない2人の未来を暗示するかのような、暗闇の中の風音、雪。彼らの父たる帝の崩御後、もう1人の兄弟が皇位を得たことでその崩壊は確実な音を立て始め……。
応援コメントにも書いたのですが、古代の人々の歌を読むと、恋に命を賭けているような、そんな熱い情念を感じます。誰もが羨む至高の一族に生まれたはずなのに、誰もが忌避する禁忌に浸ってしまった。非難されても引き裂かれても互いへの想いを絶やさず、命と引き換えてでも愛を貫き通す……。相手のあるべき幸せを願って身を引くこともあるでしょうが、この2人はそうじゃない。だって貴方じゃなきゃ、幸せになれないのだから。
最初から失われた恋だからこそ、より美しく輝いているのかもしれない。そう思えば思うほど、2人の儚さが一層響いてきます。
※読み合い企画からのレビューです
皇族であるカルノと軽太子は、兄妹でありながらも愛し合っていた
しかし、弟の計略によって次期天皇の座を奪われ、二人は離れ離れになってしまう──という導入の本作品は、まるで教科書を読んでいるかのような歴史の重みを感じさせる一作となっている
カクヨムにはエンタメ小説が集まるため、基本的に読みやすい文章が奨励されるが、本作品は違う
一つ一つの文が芸術作品のように美しいのだ
多少好みの分かれる部分ではあると思うが、古書の甘い香りのするような本作品を、是非一度手に取ってみてほしい
他の作品にないものを得られることだろう