第9話 雷に打たれた死体
ベトナムには、雷に打たれて亡くなった人の墓は、かなりの深さの墓を掘らなければならないという古くからの習慣があります。
そしてその他に必要なことは、頑丈なお墓を建てて、100日間墓守りに守ってもらわなければなりません。
なぜなら、墓を掘り返して死者の体の一部を盗む泥棒が常に狙っているからです。
昔から、落雷で亡くなった人の体には何らかの「魔法」の力があると信じられていました。
何百年間、「もし泥棒が金持ちになりたかったら、そのためには何とか落雷で亡くなった人の墓を探してそれを掘り起こし、死体の手を切り落として持ち帰れば夢は叶う」という迷信が広まっていました。
もし「死人の手」があれば、今後犯人は他人の家に盗むに行く前に、仏壇に行って祈るだけで盗みはうまくいくそうです。
つまり犯人は現場に「死人の手」を携えて行くだけで、盗みは必ず成功すると言われています。
それどころか、「死人の手」を使って盗みに入ってもし運悪く家人にそれを発見された場合でも、家人の顔の前で「死人の手」を見せるだけで良いのです。
つまりそれを見せられた家人は、静観して泥棒にすべての持ち物を盗ませるしかないのです。
なんと盗みの「免罪符」です。
また手だけではありません。
死んだ人の歯を抜き、焼いて細かく砕いて飲めば、あらゆる病気が治るという迷信もあります。
また死んだ人の手や足や膝の骨をすりつぶして飲むと、多くの病気が治るといううわさもあり、特に精神疾患のある人は、水に溶かして飲めればすぐに治るらしいです。
あるいは、「天の雷」に打たれた人の背椎をお守りとして首から下げている人は、たとえHIVであっても病気になることはありません。
こういう数々の「御利益」があるために100日間は厳重に警備しなければならないのです。
逆に100日が経過すると、地下では魔法が消去され、かりに遺体を回収されても奇跡は起こらないと考えられているからです。
それが本当かどうかはわかりませんが、誰もがそれを信じていることだけは確かです。
そしてこの話は親から子へと脈々と受け継がれていきました。
さて今から語る話は、私が中学 2 年生の時の事です。
私の村に、不幸にも畑仕事中に雷に打たれた男性がいました。
その日は雨が降っていて、人々はさんざん危ないと忠告しましたが、男がまさに仕事を終えようとした時に「ピカッ」と稲妻が光り、直撃を受けた彼は倒れて即死してしまいました。
そのため前述の迷信により、村全体で手分けして「彼の墓を守る」という重大任務が発生したのです。
最初の日は非常に重要なので、まずは屈強な若い男性が数名で墓を守りましたので何も起こりませんでした。
翌日はやや中年の男性たちがやって来ました。
しかし当日は気温がかなり低かったため夜はみんながお酒を飲んで体を温めることにました。
この日も無事でした。
それから寒い日が続きましたので、墓地を守る男は常にたき火を焚いてお酒を飲みながら墓を守りました。
しかし100日間はとても長いです。
ついに彼らの緊張の糸が切れました。
45日後のことです。
誰かがもち酒を持ってきて、なんとグループ全員が酔って眠ってしまったのです。
そこで、寝たのを確認した泥棒たちがやって来て、墓を掘り返しました。
彼らは頭と腕を切り落として運び去ったのです。
朝、みんなが起きた時にはすでに墓は荒らされて手遅れでした。
死体が無くなった墓を見て家族は大声で泣きました。
墓守りたちは酒を飲んで寝てしまった自分を責めました。
死体を取られてしまったことに罪悪感を感じ、家族に恥ずかしいと感じました。
彼らは毎日お墓に行って許しを乞いました。
約2週間後、私は母から、見知らぬ2人の男性が墓にやってきて、ひざまずきながら口に土を入れ、無気力な目で墓石を見ていると聞きました。
それは非常に奇妙な様子でした。
彼らを何度も追い払っても行かなかった。
そのため、村の人々は彼らに疑問を抱き始めました。
後でわかったのは、彼らが前日に墓を掘りに行った4人のうちの2人だったことです。
彼らは毎日ひざまずき、土を食べるようになったのです。
食べては吐く、食べては吐くの繰り返しです。
村のお年寄りたちは「死者の霊が復讐しに来た」と言っていました。
そして、一人が痙攣して倒れ、雷に打たれた人の墓の前で即死した。
残された人は恐怖に陥りました。
彼は「家族の助けを求めるため家に帰る」と言いました。
そして1週間後、生き残った人の家族は供物と金と一人の仏僧を連れて墓の前にやってきた。
彼らは礼拝し、経文を唱え、亡くなった人の霊に許しを請いました。
村中が好奇心で見に行くので、私も行っていいと親に聞きみました。
墓の前でひざまずいて泣き叫ぶ姿を目にしました。
年配者はお互いに言いました。
「善行を行い、欲深くならずに、他人の死体を掘り起こして富を得ようとする者は、結局は必ず報いを受けることになる。この世では因果応報が常に存在するのだ」と。
それ以来、村の人々は雷に打たれた人の体が神聖であることをますます信じるようになりました。
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