第10話 お化けのロンくん


私(女性 34才)はベトナムの田舎、ダクラク省で生まれ育ちました。

ですから子供時代は、野原で遊び回った濃密な思い出が詰まっています。


大学一年生(18才)の時、休日に家族に会いに故郷に帰りました。


すると近所の子供たちが集まって、今夜「お化けのロン」のゲームをする事について話していました。


ちなみにベトナムでお化けの事を「マー(魔)」と言うので、「お化けのロンくん」は「マー・ロン」と呼びます。


それで私は子供たちに、「私も一緒に参加させて」と頼みました。


しかし「幽霊に会うためには、子供じゃなくてはダメだよ。なぜなら、缶を動かす幽霊は通常、過去に路上で死んだ子供たちだから。大人はダメなんだよ」と反論されました。


さらに「子供の幽霊は生きていた時にやった遊びが大好きだからね」と断られました。


そこで彼らは「参加はダメだけど近くに立って僕たちの写真を撮ってよ」と私にゲームの撮影係を任命してきました。


その夜、4人の男の子と1人の女の子を含む5人の子供たちのグループが、ロンくんの幽霊を探しに行くため準備しました。


だいたいゲームの場所は夜は人が少なくて静かな場所を選びます。


そのために、今回は家の裏に大きなほら穴とお墓があるリンさんの家を選びました。


夜の12時近くになると、彼らは全員がリンさんの裏庭に集まりました。


そして準備しておいた以下の道具を取って、ゲームを始めました。


塩と米が入った小さなアルミ缶 1 個。

アルミの空き缶 1 個。

タバコ 1 本。

線香 3 本。

お菓子。


さあ、準備ができたら魂を呼び出す呪文をみんなで唱えます。


呪文の内容は「ロンくんの魂は今どこにいますか?こちら遊びにきてください。ここには大好きなお菓子がありますよ」という意味です。


子供たちは、呪文を3回4回と大声で唱えました。


唱え終えると、全員がアルミ缶の周囲約3メートルほど離れたところに立って静かに待ちます。


しばらくして、線香が15~20分ほど燃え続けたとき、突然アルミ缶が「カタカタ」と軽く揺れ始めました。


私はこの光景をさらに離れたところから写真を撮りました。


その後缶がさらに大きく揺れました。


子供たちはそれぞれ恐怖を感じ始め、そして耐えきれないのか一斉に「ワー」と逃げ始めました。


彼らは走りながら、「ああ、ロンくん。ロンくん…」と大声で叫びました。


すると缶が振動して倒れて、走る子供たちに向かって地面を転がり始めました。


女の子のマイちゃんは「ロンくん、許してください、許してください…」と泣きながら逃げていきました。


転がるアルミ缶とは別に置いていた、塩と米の入った缶がいつの間にかなくなっていることに気づきました。


私はマイちゃんを追いかけると、振り向いた彼女は青ざめた顔で私に走り寄り「助けて…助けて」と私の手を強く引っ張ったのです。


私は彼女を安心させるため「あれは幽霊なんかではないよ」と嘘をつきました。


私たちが安全圏の交差点まで走ると、トゥーくんが突然地面に横たわり、体をけいれんさせて地面を転がり始めました。

彼の足には青い打撲キズがありました。


彼らが言うには「逃げるトゥーくんにアルミ缶が迫って来て、足を3回直撃した後、トゥーくんは容態がおかしくなった」と言いました。


その後、彼の目は後ろに反り、白目だけが現れ、口から煙の筋を吐き出しました。


これを見た全員は、さらに恐怖を感じて地面にひざまずきました。


私は昔の記憶をたどり、「たしか幽霊は線香を引き抜くか、準備した物を蹴散らすと消えてしまう」ということを突然思い出しました。


急ぎ元の場所に走って戻り、すべて準備したものを蹴り、煙の立ち上がる線香を半分に折りました。


私が子供たちのもとに戻ってきたとき、トゥーくんが静かに横たわっているのが見えました。


どうやら落ち着いたようです。


しかし周りの子たちは恐怖のあまり、顔が青くなるまで泣きじゃくっていました。


私はトゥーくんを家に連れて帰り、子供たちに「二度とこのゲームをしないように」と言いました。


子供たちも、ひどい経験をしたので、誰もこのゲームをしようとは思わなくなったでしょう。


トゥーくんの両親もまた、子供たちが夜に集まったり外出したりすることを固く禁じました。


さらにトゥーくんの母親は、子供たちがゲームをした現場に行って、トゥーくんにさらに危害を加えないように祈りながら、お菓子や果物を供え手を合わせました。


その結果、 1週間後にはトゥーくんの足は回復したそうです。

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