第8話

「遥…! 」


遥の父親は遥の名前を呼びながら、僕に向かって歩み寄ってきた。

彼は、鏡に閉じ込められた間、ずっと遥を心配していた。

そして彼は、鏡に閉じ込められていたことに、深い後悔を感じていた。


「遥を、守れなかった… 」


遥の父親はそう呟くと、煙のように静かに消えていった。


僕は、鏡を見つめながら放心していた。

鏡の中の父親を救うことが出来た。

でも、遥が消えてしまった。

多分、父親の代わりに鏡の中に飲み込まれてしまったんだ。


僕には、愛する遥を助ける術が無い。


すべてが終わった…そう思った。

その時だった。

鏡に映る自分の顔が、再び歪み始めたんだ。

そしてあの少年、いつきの顔が現れた。


「僕を… 置いて… 行かないで… 」


いつきはそう言うと、霧のように消えてしまった。

鏡に閉じ込められた少年・いつきは、まだそこにいた。

遥の父親では無かった。


彼は、まだ救われていない。

僕は再び、鏡に引き寄せられるような感覚を感じた。

しかし僕は、古民家から逃げ出した。

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