第43話 コンポタ味の思い出
リビングに入るなり、パン・パパンパーン! と破裂音がした。クラスメイトに嫌われすぎて、ついに銃撃戦を始めやがったかと身構えるが、もちろん俺の被害妄想だった。
「若林! 文化祭完走おめでとう!!」
破裂音の正体はクラッカーだ。今までの俺の人生では初めての登場なのでビビってしまった。
そんなことより、ちゃんとリアクションを取らなくては。
「お。おぉぉぉぉ。ありがとおォォ‥‥‥」
今、この瞬間、俺は役者にだけはならないことを誓った。
下手くそな喜びの演技に、みんな「あ、こりゃサプライズバレてたな‥‥‥」という表情を皆さん一瞬されたが、すぐにパーティのテンションを取り戻た。
こういう時、木崎のような明るい奴がいると助かる。
空気を本当の意味で読むってのは難しいことだ。一部だけが楽しんで、残りは白けているのに無理やり笑顔を作っている。それが世の中の集会であると思っていた。
しかし、この会はみんなが楽しんでいるように思えた。もちろん、俺も含めて。
常に全体を見て、浮いている奴がいないかと気にかけている木崎は、立派だ。だけど‥‥‥。
木崎自身は楽しめているのだろうか。
分かっている。これは木崎からしたら余計なお節介以外の何ものでもないと。でも、俺はそれをするお人好し達のおかげで、今笑えているのだ。
「‥‥‥木崎。あの、これ食うか?」
その結果、俺はキョドってうまい棒のコンポタ味を渡した。
こういうコミュニケーションのやり方が1ミリも分からなかったのだ。コミュニケーションを学んでこなかった弊害が、ここでも出た。
「‥‥‥そういうところか、好きだったよ」
聞こえるか聞こえないかくらいの声量で言った後、「ありがとう! アタシ、コンボタ味が1番好きなんだ!」
「‥‥‥おぉ」
そのことは知っていた。
小学生の頃、どちらかの親が駄菓子詰め合わせセットを買ってくれたことがあった。大きな袋に駄菓子がパンパンに詰め込まれている袋は、その当時の俺達からしたら宝箱レベルの貴重なものだ。
その中には、駄菓子の定番中の定番であるうまい棒もあった。全部で5本くらいあったのは覚えているが、何味が何本あったかまでは覚えていない。1つだけはっきり言えるのは、コンポタ味が1本しかなかったことだ。
当時の俺はうまい棒に対して「コンポタか、それ以外か」とかいうローランドみたいな考えを持っていたため、もちろんコンポタ味に手が伸びた。
しかし、それと同時に木崎もコンポタ信者であることを思い出す。
「‥‥‥ん」
「え? くれるの?」
「ん!」
『となりのトトロ』のカンタがサツキに傘を押し付けるシーンと瓜二つな若林少年。格好つけていても、男子なんかこんなもんだ。
女の子に良いところを見せたいが、プライドが邪魔をして変な奴になってしまう。
「ありがとう!」
受け取ってくれた木崎は、嬉しそうな表情をしていたと思う。何故曖昧なのかというと、恥ずかしくて木崎の方向を見れなかったからだ。
そして、今も俺は木崎を見れないでいる。
‥‥‥好きだったか。
過去形だったということは、今は違うんだろう。
俺もそうだよ。
小学生の頃、格好つけて言えなかったけど、俺は確実に木崎のことが好きだった。
でも、今は別の好きな人がいる。それはたぶん、木崎にも。
木崎レナさん。
明るくて優しく、少しだけ寂しがり屋な貴女のことが好きでした。
俺は脳内で勝手に告白した。
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