第42話 サプライズ

「知らない天井‥‥‥じゃない気がする」


 フカフカのベッドで目が覚めた時、エヴァごっこをしてみたけど失敗した。これは昔見た記憶のある。

 中学の頃、たまにお邪魔していた末永の部屋の天井だ。


「グゥー‥‥‥グゥー‥‥‥」


 左隣に目を向けると、椅子に座ったまま爆睡している、この部屋の主がいた。

 俺だったから、友達とはいえ他人を己のベッドに寝かせるのは抵抗がある。迷った末、リビングのソファとかを提供するに違いない。

 しかし、この末永という男は、そういった葛藤をすることなく、俺をこの軟らかいベッドをあてがってくれたのだろう。


「‥‥‥ありがとう」


 起こさないように、小声でお礼を言ってからソロソロと起き上がる。末永の部屋は2階だったはず。今日のところは1階にいるであろうご家族に挨拶して帰ろう。これ以上、親友に迷惑をかけるわけにはいかない。


 部屋から出ると、1階から複数の話し声が聞こえる。

 絶妙に聞き取りにくい声量だ。辛うじて分かるのは、女性の声が多めだというくらい。

 その声が、階段を降りるにつれ言語の形になっていく。


「若林少年は駄菓子大好きだから、それだけでも喜ぶと思うよ」

「安上がりな人っスね」

「フッ。若月さんの拓也情報はその程度か。あのね、拓也はピザも好きなんだよ」

「あ。じゃあ宅配しましょうか」

「‥‥‥少しは悔しがってよ」

「まあまあ、サユ姉。この人は基本的にはクールで通したい系だからさ。多めにみてあげて」

「たまにクールじゃない時があるみたいな言い方だな」

「実際そうじゃないですか」

「え! そうなんですか? 想像できないなぁ」

「あー。もう。急がないと若林少年が起きてくるぞ。サプライズするんだろ?」

「はーい」


 この世で、最も嬉しいことを皆さまはご存知だろうか。

 自分のいないところで、自分のために動いてくれていることを偶然知った瞬間である。


「‥‥‥」


 ヤバい。油断したら泣きそうだ。

 必死に涙を引っ込めて末永の自室に戻る。


 みんなに気づかれないように、抜き足忍び足で階段を上がる。このタイミングで俺がリビングに突撃するのはマズい。おそらく末永は変なタイミングで俺が起きた場合の時間稼ぎ要因だったに違いない。それにも関わらず、あんなに気持ち良さそうに爆睡していたのたか。我が親友ながら爪が甘い。


 ベッドを貸してくれた恩はしっかり返さなくてはならない。1階の連中の支度が終わるまでは狸寝入りすることにしよう。

 どうやら、音を立てずに移動するのは得意だったようで、無事にベッドまで戻ることができた。


「‥‥‥」


 末永のいびきはうるさいし、サプライズの高揚で眠れる気がしない。でも、明日の朝に怯えながら過ごす夜よりは、穏やかな気持ちで過ごすことができた。

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