第41話 頑張った者には労いを

「みんな、本当にお疲れ様!!! おかげで舞台優秀賞が取れました!!!」


 やっと文化祭が終わり、実行委員がみんなに激励の言葉をかけている。ちなみに、彼女の言う「みんな」に俺は含まれていない。


「打ち上げ会場は、グループLINEで知らせた通りなので、各々の片付けが終わったらお店に集合ね!」


 万が一にも俺に参加させないようにと、具体的な店名を伏せている。もちろん、俺はグループLINEに誘われていない。

 まあ、最初から参加する予定もないけれど。


 疲れた。何しろ、やることも無ければ居場所もないのだ。どこかで本でも読んでいようと考えていたが、学校ってのは長時間1人きりになれる場所などない。おかげで、当てもなく校内を歩き続けるはめになった。


 旧ソ連のシベリア辺りで、一生懸命掘った穴を自ら埋める拷問があったそうだ。かつては「最もキツい拷問」と言われていたそうだ。

 現代の、表向きは平和な日本の若造に何が分かると怒られそうだが、今日はそれに近い拷問を受けさせられている気分だった。

 歩いても歩いても学校。派手な飾りつけがされており一見華やかだが、慣れてきたら特徴の無い住宅街と大して変わらない風景でしかなるなる。

 さらに、バイトや勉強と違って生産的なことができないことも辛い。

 足が重くなりながらも歩き続けた身体は、もうボロボロだ。


 その足を無理やり動かして、教室を出る。

 廊下でも達成感に満ち溢れた同級生達が視界に入る。


 さすがに、もううんざりだ。コンビニのおにぎりを1つしか食べていないのに、吐き気が催してくる。でも、小学校だろうが高校だろうが、学校のトイレで嘔吐するのはリスクがある。子供ってのは、体調不良の者を嘲笑うマインドを持っている怪物なのだ。


 家に帰るまで我慢しようと、気合いを入れ直して歩き続ける。何とか靴を履き替えて、フラフラと外に出る。


「‥‥‥」


 ダメだ。

 前を向いて歩かないと危ないのに、それすらできない。俯いて歩くしかなくなる。


「‥‥‥オェッ」


 あ。

 倒れる。

 自分の身体が傾いているのが分かるが、支えるだけの力が俺に残っていない。

 ここまで成長した人間がぶっ倒れたら、目立つだろうなぁ。きっと、俺が倒れたという情報は打ち上げのネタにされることだろう。

 ‥‥‥まあ、それもサービスにはなっているのか。俺は悪役としての役割を果たしたんだ。


「‥‥‥?」


 そろそろ、倒れた衝撃が襲ってきても不思議ではない時間が経っている。何故痛みを感じない?

 何なら、柔らかい感触さえある。


「ヤバいヤバい。若林限界っぽいですよ!」

「申し訳ないな‥‥‥私が格好つけて悪役を貫けとか言ったばかりに」

「俺ン家が近いんで、とりあえず、そこに避難させましょう」

「木崎さん。俺が抱えるから代わるよ」

「私も手伝うよ。お姉ちゃんだもん」


 よく知っている声が5つ聞こえる。

 騒がしいものだったが、自分を心配してくれていると分かったことで安心した俺は、無理をするのを止めて意識を手放した。

 


 

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