第24話 ちゃんとするから
夜。
この時間に好きだ。夜を楽しむために朝や昼と戦っていると言っても過言ではない。
「なんで、こんなに夜に惹かれるんでしょうねぇ」
コンビニ飯をあらかた食べ終わり、もうそろそろ太陽が顔を覗かせる気配を見せる午前3時40分。
このまま、また朝を迎えるのに抵抗を感じて、その原因はどこからくるのか不思議に思っての質問だった。
「‥‥‥電気が存在しない時代はさ」
ボーっとしていた俺だったが、真面目な話が始まりそうだったので聞く体勢を整える。
「夜は暗いからって、行動に制限をかけるしかなかったと思うんだ。で、やることが少ないから、さっさと寝る」
「はい」
「でも、エジソン大先生が電気を発明してからは話が変わるわけだ。これからは夜も活動することができるぞってさ。たぶん、これが夜更かしの始まり」
「楽しかったでしょうね」
「うん。特に喜んだのは、私達みたいに昼に適応するのが下手くそな人だろうね。その1日に満足できないから、夜を引き延ばす不器用さん達」
1日に満足できない。
その表現に、俺は強い既視感を覚えた。
若月さんに出会う前の俺は、正にそう感じていた。
学校へ行き、勉強して、家に帰って、寝る。
特に不満は無いが、満足はしていなかった。
もっと、誰かと話したかった。真面目な話でも、下らない話でも何でも良い。誰かと言葉を交わして笑い合いたかった。
その欲求に応えてくれていた姉さんとは、もう昔のように話せない。
決して嫌いになったわけではない。でも、社会に深く傷つけられた姉さんの手を煩わせるのには気が引けた。
そうして、物足りない生活を続けた結果、不眠症になった。
そして、この人と出会った。
「私も、その不器用さんの1人なんだよ。昼間に楽しむことのできない決壊品。太陽が怖い。人混みが怖い。朝、ある程度の覚悟を決めないと外に出れない。不安の化物に首をゆっくり絞められてる感覚っていうのかな‥‥‥。ごめん。意味分かんないこと言っちゃって」
「分かります」
「え?」
「分かります」
丁寧に、同意する。
「俺も同じです。家っていう安全地帯から出ることへのハードルが高い。外にいる知らない人達に、危害を加えられないかを考えてしまいます」
そんな心配は杞憂に終わることなんて分かっている。でも、俺は、俺達はこの世界を信頼できていないのだ。
比較的に平和な日本だって、おぞましい事件はたくさん起きている。人間なんて、思えば大した生物ではないのだ。一時の感情で殺す可能性は十二分にある。
今日のクソ利用者のような人間は特に。
「意味分かんなくなんてありません。この会は、夜更かしの会は、そういうことも話せる会じゃないですか」
「若林くん‥‥‥」
油断すると、聞き逃してしまいそうなほどの小さな声。でも、俺の耳にはしっかりと届いた。
[意味が分からない]
俺達の感覚は、世間ではそう切り捨てられる。
でも、この場くらいは話すことを許してほしい。
不器用で、変な人間同士が傷を舐め合うことを、どうか許してほしい。
終わったら、ちゃんとするから。
明日の昼も、ちゃんとするから。
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