第23話 やっぱり可愛い

「なんか、久しぶりな気がするね」

「確かに」


 中池袋公園。若月さんと俺が出会った場所であり、夜更かしの会の会場でもある。


 直近で夜更かしの会をしたのは2週間くらい前だったか。

 若月さんが、働き出した時の俺を気遣って開催を先送りにしていたことに加えて、俺が小学時代と中学時代の友人と再会したりして、妙に忙しかったことも原因の1つに挙げられるだろう。


「今日はコンビニ飯パーティだ! どんどん食べていこう!」

「はい!」


 特大のサイズのレジ袋が3つある。その中には、弁当やおにぎり、カップラーメンやスイーツなどのカロリー過多な商品がギュウギュウに入っている。


<今日は食べよう>


 若月さんがそう言っていたのは、例のおじさんの件の1時間後の午後3時頃だった。


「良いですね。何食べに行きます?」

「うーん‥‥‥ガッツリ食べたいからラーメンが良いんだろうけど、この間行ったばっかりだもんね‥‥‥そうだ! もう今日夜更かしの会をやっちゃおう! そのお供でコンビニメシを大量に買ってさ。朝まで語り明かそうよ!」


 若月さんの話し方の特徴の1つに、話ながら思考を整理して結論を出すというのがある。

 感情が先走りして、とりあえず口を開くのだが、細かいところは決めていない。しかし、少し待てばブツブツと独り言を言って魅力的なお誘いをしてくれる。

 この誘い方は結構ワクワクするもので、我々は夜という安全地帯に向けて歩き出した。

\



「え。あの小説、アニメ化されてるの?」

「はい。10年以上までに」

「マジか!」


 油そばとガリガリくんの異色のコラボを楽しんでいる若月さんに、話題に上がったミステリ小説のアニメの話をしてみたら、映像化の話は知らなかったようで驚かれた。

 ちなみに、俺はチャーハンとエクレアを同時に食べている。午前3時を過ぎた夜更かしの会は、意味の分からない組み合わせのメシを食うフェーズに移っていた。


「えっと。どうしたら観れる? レンタル?」

「レンタル‥‥‥でも観れるでしょうけど、今観れますよ」

「?」


 不思議そうな顔をする若月さん。まさか、サブスクを知らないのか‥‥‥? いや、それはさすがに馬鹿にしすぎだ。この人は20代。スマホ普及率が俺達の次に高い世代のはずだ。

 軽く首を振ってアニメ作品が多いサブスクを開き、件のアニメを検索する。


「あった。1話観ちゃいましょうか」


 再生して物語が始まる。主人公が数々の部活動の勧誘をスルーする場面が流れる。この場面だけで主人公がクール系だと分かる、俺の好きなシーンだ。


「え? アニメが? スマホで観れる?」


 しかし、若月さんは混乱している。

 ドラえもんの道具に驚くのび太みたいな反応を見て、俺は先ほどの予想が当たっていたのを悟る。


「わ、若林少年! これは噂に聞く[いほうあっぷろーど]とかいうやつではないのか!? 大丈夫か? もうすぐ捕まるらしいぞ!」


 違法アップロードの発音が怪しいのが、メチャクチャ可愛い。もうしばらく、この可愛い生き物を観察していたいが、無駄な心配をかけるのは俺の本懐ではない。


「大丈夫です。公式さんが許可して出品しているサブスクなので」

「さ、さぶ、さぶすく?」


 我々が初めて、きゃりーぱみゅぱみゅという芸名を聞いた時並みの困惑顔が、そこにはあった。


「えっと‥‥‥」


 それから、サブスクというシステムを理解してもらうために、たっぷり1時間かかった。


 あぁ。本当に可愛いな、この人。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る