第21話 ゲームをする理由

 ゲーム機に触れたのは中学時代ぶりだった。

 別に「ゲームなんか子供のやることさ」なんて時代錯誤なことは言わない。高校生になった今も、ゲーム配信を観ることをするくらいには好きだ。

 しかし、配信者がプレイしているのを観ているだけで満足してしまっていた。


 それは何故かと、眠れない夜に考えたことがある。

 どうせ眠れないのだからと、ダラダラと思考を巡らせること2時間、俺はこの結論に辿り着いた。


 コスパを気にしているのだ。


 ゲームというのは、ある程度巧くないと楽しめない。最初のボスキャラすら倒せないままでも楽しいと言い切れる奴は存在しないだろう。

 それでは、巧くなるにはどうするか?

 答えは単純明快。練習するのだ。

 自分の分身であるキャラクターに寄り添って、新しい技を覚えたり素早く動けるようにする。

 しかし、不眠症が最も酷かった頃は、その努力をする気力がなかった。指を動かすのすら面倒くさい。しかし、新作ゲームには興味がある。

 そんな、わがままに付き合ってくれるのがゲーム配信なわけだ。彼らは、華麗なプレイや面白いプレイを魅せてくれる。

 ただ、それだけで満足だった。時間さえ注ぎ込めばエンディングまで連れていってくれるのだから。


 すっかり「観る専」になった俺だったが、2023年7月27日現在、再びコントローラーを握り、迫真の演技をしている時の藤原竜也並の雄叫びをあげていた。


「ァぁァァァァぃァゥァァァァァァァァァァァァ!!!」

「はーい! ザーコ!!!」


 本気で悔しがる若林拓也と、本気で煽る末永俊の姿がそこにはあった。


 プレイしていたのは、誰もが知っている格ゲーだ。

 様々な作品の人気キャラ同士で乱闘する、あのゲームである。


 俺は、使いやすさで言えばNo.1であろう、ピンクの丸いキャラを使っていた。対して末永は、デカい亀に何度も誘拐される姫を使っていた。こいつの操作性は難しいと動画内でも言われている。

 そんなアドバンテージがあったのにも関わらず、俺は負けた。末永のゲージを半分も削れなかった。


「もう1回! もう1回!」

「良いけど、万が一にもワカが俺に勝てることはなーい!」

「ムキー!!!」


 人間という生き物は、悔しさと楽しさの極限までいくと「ムキー!!!」と口に出してしまうと判明した。

 学会で発表したら何かの賞を取れるだろうか?

\



「‥‥‥おい。このゲームいくらだ?」


 3時間ほど、ひたすら戦いひたすら負け続けた俺は、静かにそう聞いた。


「んー‥‥‥正規で買ったら8000円くらい?」


 末永もさすがに疲れたようで、ダルそうに答える。煽りすぎたのか喉が掠れた声をしている。まあ、おそらく俺もなんだが。


「そうか。1ヶ月後、またやろう」

「‥‥‥いいよ」


 目を瞑っているし、口も動いていなかったが、末永が笑ったのが分かる。

 初給料の掴み道が決まった瞬間だった。

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