第17話 サービスエリア
「ちょっと一休みしようか」
2時間ほどバイクを走らせていたお姉さんは、とあるサービスエリアでバイクを降りた。
「とりあえず、トイレに行こう」
膀胱がパンパンになっていた俺は、お礼もそこそこに男子トイレへダッシュした。
すぐに用を足してサービスエリアを見渡すと、女子トイレに行列ができていた。
クリスマスイブの午後9時過ぎのサービスエリアは、そこそこ混んでいた。極論、男はペットボトルとかで済ませれば良いが、女性はそうはいかない。
行列の沿って、お姉さんと木崎を探す。人気ラーメン屋の昼時よりも長い列に圧倒されながら歩き続けると、中間辺りに2人を発見した。
「お! 少年!! こっちこっち!」
お姉さんに大声で呼ばれることで、周りの女性が一斉に俺に視線が向く。
「私達、もうちょっと時間かかるから、これでなんか買って時間潰しといて」
150円を渡された。
お姉さんも、お金に余裕がないはずなのに。
「ありがとうございます!」
すっかり子分体質になっていた俺は、身体を直角にしてお礼を言う。周りの女性がクスクス笑っているのに興奮しながら自販機に向かう。なんだこのガキ。
ちなみに、俺は自販機が好きだ。
あの、商品が出てくる時の「ガコンッ」というという音が癖になる。あれのASMRがほしいくらいだ。
何より、人の話さずに飲み物などが買えることが嬉しい。
この小学生時代、俺はコンビニの店員さんに舐められていた。もちろん、人によっては丁寧な接客をしてくれるが、客として認めていない雰囲気をずっと感じていた。
例えば、父さんと母さんと一緒に買い物をしていて、俺が自分のお小遣いでお菓子を単独でレジに持っていった時と、父さん達が会計をしている時とでは、列記とした差があった。
その時の俺は、人間という生き物は人によって態度を変えることを学んだ。
だから、舐められないようにイタズラなんかをして自分を大きく見せていたのだろう。
今思えば浅はかな思考だが、この時の自分を褒めてやりたいのは、そいつらのご機嫌取りをしなかったことだ。
そういう奴らを怖がらずに、子供ならではの無鉄砲さで社会と戦っていた。中途半端に世間を分かった気になって小さくまとまっている高校生の俺よりは人生と向き合っている。
そんな、馬鹿だけど人間味はあるショタ若林は、りんごジュースを買ってお姉さん達の元へと戻る。しかし、列に並び続けている2人が見えた。
再度、声をかけるのはクドいかと、近くのベンチに腰を下ろすことにした。
止まったからか、忘れかけていた冷気を感じてしまう。りんごジュースも冷たいので、さらに寒さに拍車をかける。
気を紛らわそうと、お姉さん達に目を向ける。周りが比較的静かなため、2人の話し声が少しだけ聞こえてきた。
「木崎ちゃん。無理に私と仲良くしようとしなくて良いからね」
最初は、ケンカをしているのかと思って焦ったが、お姉さんの声は穏やかだった。
「知らない場所で知らない人に心を開けないのは、そりゃそうだよ。だから、無理しなくてもいい。でも、若林少年とはいつも通りにいてあげて」
大切そうな話の最中に、急に自分の名前が出てビビる。
「あの子。頑張って明るく振る舞ってるけど、やっぱり怖いと思うんだ。話してるだけでも、私なんかよりも賢いことが分かるし。知らない人と接触するリスクも理解してる」
「‥‥‥うん」
せいぜい2時間ちょいのはずなのに、久しぶりに木崎の声を聞いた気がした。
「ありがとう」
そこで、俺は勝手にお姉さんが木崎の頭を撫でるものだと思った。たぶん、少し前に見たドラマで、そんなシーンがあったのだろう。
しかし、お姉さんはそれをしなかった。
自分が他人でしかないのだと理解している、誰よりも優しい女性なのだ。
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それから、池袋まで俺達を送り届けてくれたお姉さんは、さっさと帰っていった。
「私がいると、親御さんが余計に混乱するでしょ」
そう言って去っていったのを、名残惜しい気持ちになったのは俺だけではなかったと信じている。
\
そんな思い出を共有する木崎との再会に、俺は柄にもなくはしゃいでしまった。
「ホント久しぶり。何? 若林、図書館でバイトしてんの? 格好いいじゃーん」
「ぜんぜんだって。木崎もなんか‥‥‥派手になったな」
「あはは。褒め方下手かよー」
先ほどよりも、声を落として再会を喜び合う。
「あ。てかごめん。バイト中だよね。LINEだけ教えて。後で連絡するわ」
「おー」
久しぶりなのに、スラスラと会話ができる。時間が経っても友達なんだと思えて、なんだが嬉しい。
「若林くーん。配架終わった?」
そんな中、若月さんが声をかけてきた。
「すみません。すぐに仕事に戻ります」という言おうとしたが、木崎の絶叫にかき消される。
「え!!? バイクのお姉さん!!!!???」
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