第13話 ラーメン最高

 家系ラーメン。

 味がとにかく濃く、ほうれん草とノリの組み合わせが白ごはんに合う種類のラーメン。


 若月さんに、そう説明されるまでは、文字からの連想で、家庭的な味のラーメンなのだと勘違いしていた。さすが若月さん。何でも知っているな。


「何で家ってつくんですか?」

「知らない」


 前言撤回。何でも知っている人間などいるはずがないのだ。そんな重い期待をしてはいけない。


 大ヒットアニメのヒロインの1人に、「何でもは知らないわよ。知ってることだけ」という名台詞を持っているキャラクターがいる。

 彼女は、その期待を背負うだけの能力があったが故に、どうにもならないことにも1人で立ち向かう強い女性だ。

 しかし、その強さが悲劇を生むことになる。

 あの、猫に取り憑かれた委員長に、目の前の若月さんの姿が重なる。


 うかうかしていたら、遠くへ行ってしまうのではないかという不安を誤魔化すために、目の前のラーメンに向き直る。


「いただきます」


 まずはスープを頂く。


「‥‥‥ッ!」


 男子高校生。

 それは、味が濃ければ濃いほど美味いと感じる生き物である。


 濃い。聞いてはいたけど予想の倍は濃い。しかし、嫌な濃さではない。暴力的なまでの旨みに舌が躍る。今までなら太らないか気にしていただろうが、労働後の対価と自分に言い聞かせる。


 お次は麺だ。


 ‥‥‥おいおいマジか。こんなに美味い食い物がこの世に存在したのか。

 ズルズルと、人によっては下品だと思われるくらいの勢いで啜る。


 隣にいる若月さんには、余裕のある男を演出したかったが、これは無理だ。


 食欲のままにラーメンを喰らう。

 今日は服装は白のTシャツだ。スープが飛び跳ねてしまったら目立つ。しかし、そんなことはどうでもいいと思わせる魔力が、このラーメンにはあった。


「少年少年」


 すっかりラーメンの虜になり、周りの声が聞こえなくなっていた俺だったが、若月さんの声は辛うじて拾うことができた。


「白メシも忘れずにな」


 そういえば、ラーメンより少し早く白ごはんをもらっていた。でも‥‥‥。


「すみません。若月さん。俺、今はこのラーメンのことしか考えられません」

「いや。そのラーメンと一緒に食べるんだよ。ちょっと見てな」


 若月さんは、自分のラーメンに向き直り、ほうれん草と海苔を白ごはんに乗せた。


「!」


 海苔は言うまでもないが、ほうれん草も白ごはんとの相性は悪くない。

 その時点でも涎が出そうだったが、次の瞬間、とんでもないことが起きた。


 レンゲでスープを少量入れたのだ。


「!!!」


 程よく汚れたごはんを、海苔とほうれん草と一緒にかき込む若月さん。

 そんなの美味いに決まってんじゃんよ‥‥‥!


 すぐに真似をした。

 スープの攻撃力を知っている分、こいつがごはんとのコラボでどうなるのか期待が高まる。

 口に運ぶ。


「‥‥‥ッッッ!!!」


 期待とは、基本的には超えてはこない。

 予告を観て面白そうだと思った映画を実際に観て、どれだけ期待を裏切られてきたことか。


 しかし、こいつは期待を軽々しく超えてきた。

 スープだけだったら、クドい仕上がりになっていたかもしれないが、海苔とほうれん草があることが良いアクセントになっている。


 もっと。これを食べたい。あ。でも、こればっかり食べていたら麺が伸びてしまう。先に麺を完食するべきか。

 軽いパニックになりながら、スープまで飲み干した。


「‥‥‥ふぅ」


 幸せだ。

 もしかしたら、今までの人生で一番幸せかもしれない。


 家系ラーメン最高。

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