第6話 6月17日

 告白。

 それは、尊いと同時に面倒ごとを持ってくる行為でもある。


 世間では、告白する側を讃えることが多い。「好意をぶつけるのって勇気がいるよね! よくやった!」とかね。

 たとえ断られたとしても周りがフォローしてくれる優しい世の中だ。


 しかし、告白された側、特に断った者への風当たりは強い。

「あんな良い子をなんで振ったの」「その気が無いなら中途半端に優しくしないでよ。あの子、繊細なんだから」

 そうやって、外野に攻め立てられるのは気分が悪い。誰だお前? 俺と彼女の問題なんだから、関係ないだろう。


 そんな本音も言えずに暴言を受け入れるしかない時間を、今でも思い出して眠れない夜がある。

 だから、この告白が受けいられなくても、俺は決して若月さんを悪く思わないと誓う。人にされて嫌だったことは人にするなと両親に教えられたんでな。


「‥‥‥ここで、ちょっと考えさせてとか言って答えを保留にするのは、失礼だと思うから、正直に言うね。私は若林くんとは付き合えません」


 何を言われても動じない覚悟を決めていたけど、こうまでキッパリとフラれると心にくる。しかし、この場で確実に殺してくれるのは、やっぱりこの人は優しいのだなと再認識する。


 そして、先程の酔っ払いモードから一変して、理路整然と物事を語る社会人モードになることができることを尊敬する。

 マズイな。フラれたというのに、さらに好きになってしまっている。ストーカー化だけはダメだと自分に言い聞かせる。


「でも、勘違いしないでほしいのは、君のことが嫌いってわけでは決してないってこと。むしろ好きだ」

「お」


 恋愛的な意味ではないと分かっているのに、嬉しくなってしまう。もしかしたら、顔が赤くなってしまっているかもしれない。どうか夜の暗闇でバレていませんように。


「付き合えない理由の一番大きい理由は、君が未成年ってところなんだよ。だから、若林拓也個人に問題は無い。身も蓋もないことを言っちゃえば、時間が経てば解決するっていえる」

「ん? じゃあ、3年経てば可能性あるってことですか?」

「そうだよ」


 夢物語が現実的になってきた。


「じゃあ、20歳になったらまた告白して良いですか?」

「良いけど、その時には気持ち冷めてると思うよ」

「あん?」


 自分の気持ちを軽んじられたようで、つい良くない言葉遣いが出てしまった。でも、これは若月さんが悪い。俺の気持ちが3年なんぞの年月に負けると言ったのだから。


「気持ちは分かるけど、10代の3年ってすごい濃度だよ? 激動の時期に私なんかより魅力的な女の子が若林少年を好きになることがあるかもしれない」

「無いです。若月さんより魅力的な同年代なんてありえないです」


 そもそも、俺は年上好きなのだ。チンチクリンの女子高生に興味などない。

 経験豊富のお姉さんにリードされたい。

 早い話が可愛がられたいのだ。

 こっちがリードしなければならないし、可愛いと定期的に言わなければならない同級生や後輩を好きになることは決してない。


「絶対に大丈夫です」

「す、すごい自信だ」


 性癖という若林拓也を構成する大きな要素に自信を持って宣言する俺に引き気味になる若月さん。


「分かった。そこまで言うなら3年後の今日。6月17日にもう一度告白してきなさい。そうしたら、私も君の全てを受け入れる」


 よし。言質をとった。

 敵は時間。

 そんなものに俺の恋心が負けるわけがない。圧勝してやろうじゃないか。

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