第3話 初LINE
ほぼ寝ないで学校に登校していたら、初対面の女性にLINEを聞く自分の行動がキモくなかったかと不安になってきた。
(キモかったか? いや、絶対キモかったな。若月さんも断った時の身の危険を考えて教えてくれたんだろう。そうだ。そうに決まってる。うわー。申し訳ないことしたな)
顔がひきつってくる。
今日が雨で良かった。この酷い顔を傘で隠すことができる。
昔から雨が嫌いだったが、生まれて初めて感謝したかもしれない。これだったらズボンの裾がずぶ濡れになっても寛大な心で受け入れることができる。
赤信号で足を止めると、ほぼ無意識にスマホを見てしまう。
動画サービスから2件、LINEから1件受信していた。
俺にLINEを送ってくるとしてら、家族くらいだから、対して心の準備をしないでメッセージを確認する。
<ヤッホー! 初めてLINEだね! 深夜の愚痴大会だけど、来週の金曜日とかはどう?>
「‥‥‥」
慌てて送信者を確認する。
リラ。
本名で登録するタイプだったか。
心臓がバクバクしている自分を誤魔化すために、わざとどうでもいいことを考えてみた。思春期は面倒臭いのだ。
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何でも二度目は楽だ。
家族が寝静まった深夜1時。物音ひとつ立てずに家から出ることに成功した。
両親は共働きで、大変な目にあった姉さんの睡眠時間を削るわけにはいかない。この時間は朝や昼間に稼働するためにスヤスヤ寝ている健全な人達だ。俺の徘徊のために、その貴重な睡眠時間を削らせるわけにはいかない。
昼間は降っていた雨は上がっていて、心地よい風を感じながら歩き出す。
寝ることができないから、話し相手が欲しい。
そんなワガママを押し付けることが許される女性に会いにいくために。
\
「こんばんは」
中池袋公園の岩ベンチに、若月さんは既に座っていた。
今日は黒い半袖の上に白いカーディガンを羽織っている。下は紺色のロングスカートだ。
「こんばんは。えっと、お待たせしましたか?」
「大丈夫。今きたところだよ」
少女漫画のイケメンみたいなことを言う若月さん。前回の酔いどれネエさんの面影はなく、ちゃんとした大人みたいだ。
知らない人なのではと疑うレベルだったが、岩ベンチに置いてある3本の缶チューハイを見て、やっぱり若月さんだと安心する。
ゆっくりと、俺も腰を下ろす。
「前回はさ、私の話ばっかりだったから今回は若林くんの話を聞かせて? どんな話でもどんとこいだよ!」
なるほど。
確かに、前回は俺の話はできなかった。それをこの人は気にかけてくれているらしい。
「優しいですね」
「‥‥‥若林くん。これくらいで優しいって感じるのは良くないよ」
褒めたつもりだったのにダメ出しされた。
「私もクソ彼氏と付き合っていた時は、普通の人がすごい良い人に見えたから分かるよ。でもね、それは徐々に幸せの許容量が減ってきちゃうからね」
話の内容より、彼氏というワードに引っかかってしまう。
そりゃ、若月さんの年代でお付き合いの経験が無い可能性は低かったが、クソ彼氏とやらに嫉妬心が芽生えてしまう。
「私は特に優しくないよ。普通。もっと優しい人は世の中にもっといるからね」
「はい。気をつけますね」
そう答えたが、若月さんへの好感度は高いままだった。
「説教くさいこと言ってごめんね。さて本題だ。若林少年は何に悩んでいるのかな?」
キリッとした表情でそう聞いてくる。
前回とのギャップを感じてちょっと面白かったが、ここで笑ったら性格が悪すぎる。
相手が真剣に話を聞いてくれる気でいるのなら、こちらも真剣に話すべきだ。
「えっと‥‥‥」
俺は、高校での居場所が無い愚痴を話し出した。
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