第24話:踏破に向けて、再挑戦。
「よし。引き返そう」
笑顔で頷きあい、歩き出す。
戻り道も自分たちの力を、技を磨くために、しっかりと魔獣と戦いながら。
二日半掛けてフィフティタワーを下り、一日だけ休みと準備の日を取った。
「行ってきます!」
「頑張って来い」
「リディアちゃんを守るのよー」
父さんと母さんに見送られつつ、足早に出発。
いつものようにリディアと馬車に揺られて、またフィフティタワーに戻ってきた。
「準備は完璧ね?」
「うん!」
最近は、タワーの審査口にいる職員さんたちともよく話すようになった。
「頑張ってねー」
「はい、ありがとうございます!」
「リディアさま、ご無事をお祈り申し上げます」
「あぁ、ありがとう」
トーマスさんは、やっぱり俺を睨みつけるし、リディアにしか話しかけないけど。
たぶん、悪い人じゃない。
「体力温存しつつ、行けるとこまでは行きたいんだ」
「ガウッ!」
「三人とも、オーバーキルになるような無駄な攻撃や魔法を使って消耗しないでね?」
「…………何でこいつらの中に私も入れるのよ」
リディアが唇を尖らせてイジケているけど、数日前を思い出してほしい。
「アース・ドラゴン」
ぽそりとつぶやくと、リディアが肩を跳ねさせて視線を逸らした。
「リディア? 約束、ね?」
「っ――――わかってるわよっ!」
フンッとそっぽを向く向くリディアが可愛くて、クスクスと笑いながら、上階に進んだ。
ムスタファに横幅五メートルを超す巨大蟹――カルキノスの後ろに回り込むように伝えた瞬間、カルキノスの大きな
「ツメが来る! 避けて!」
カルキノスのツメはムスタファよりも大きい。
固い殻に覆われたツメが勢いよく振り下ろされると、地面に大きな凹みが出来た。
当たれば絶対に無傷では済まない。
幸いなことにそこまでの速さはないので、簡単に避けることができるけど。
「ジーノ! ウインド・シールドお願い」
四十階のボスであるカルキノスはとにかく防御力が高かった。そして、広範囲攻撃が地味に面倒なタイプのS級魔獣。
獣なのかな? とは思うけど、それも気にしたら駄目らしい。
ファウストさんからは戦いづらいよと聞いていた。
「また来るわよ!」
カルキノスが五センチほどの泡を大量に吐いては飛ばして来る。
さっきそれがリディアの篭手を掠った瞬間、触れたところが少し溶けた。
あれが肌に触れていたらと思うとゾッとする。
「あーもうっ! 全然傷が入らないし、魔法も効きが悪いし、泡はウザいし! 面倒っ!」
戦闘を開始して三十分以上。
効果的な攻撃が全く入っていない。
ムスタファの爪でやっと殻の表面を傷つけられるていどだった。
リディアのイライラが頂点に達したらしい、急に剣を横に構え、左手を剣先に添えた。
「炎よ――――」
「ムスタファ、グラビティ! 時間稼いで!」
「――――収束せよ。対象の中でその力を解き放て。全てを滅せよ。フレイム・エクスプロージョン!」
カルキノスの全身を炎が包む。
ファイア系はカルキノスの殻を突破できなかったのに、何か秘策があるんだろうか?
リディアの詠唱が終わると同時に、カルキノスを包んでいた炎がだんだんと小さくなり、消えたように見えた。
「ジーノ! ウインド・シールド、多重展開!」
「んぎゅゅゅぅ!」
なんだか嫌な予感がした。
以前魔法を教えてもらったときに、内側から爆発させたりも出来るとか、そんな事を言っていたような…………。
カルキノスの隙間から、光が漏れ出し、ちょっとだけ神々しさを醸し出していた。
そして、カッ!と目が潰れそうな程に光った瞬間、ドウゥゥンとバシュンの間みたいな、なんとも言えない爆発音のあと、粉々になったカルキノスの残骸が俺たちを襲った。
「うわぁ……」
「っはぁ。魔力が四分の一になっちゃった。今日はここで休みましょ?」
「…………う、うん」
確実に上級魔法であろうフレイム・エクスプロージョンをくらい、粉々になったカルキノスからは、あり得ないほどに美味しそうな匂いが漂っていた。
「がうっ、がうぅぅ、んにゃむ」
「……今ちょっと猫っぽかったね」
「…………美味しいものね」
あまりにも美味しそうにムスタファが食べるので、ホールトマトとカルキノスでパスタソースを作ってみた。
四十階のフロアに広がる惨状は何とも言えないけれど、美味しい。
驚くほどに、美味しい。
「蟹、だもんね」
お腹いっぱいになったあとは、まだまだ散らばっているしっかりと焼かれた蟹身を集めた。
明日のムスタファのご飯にする予定だ。
「ぷきゅきゅきゅきゅ!」
「どうしたの?」
ジーノが叫んでいるところに向かうと、三十センチくらいの水色の魔石が壁にめり込んでいた。
「凄い…………めり……込むんだね」
「あら、魔石あったのね。割れてなくて良かったわ」
リディアが冷静な顔でサラッとそんなことを言っているけど、俺はちょっとだけ納得できなかった。
確実にオーバーキルだし。
でも少しだけ耳が赤いし、さっきから視線が合わないから、たぶんやらかしちゃったとは思っていそう。
今回は何も言わないことにした。
「あはは。とりあえず、掘り出そう?」
「ええ!」
笑って話しかけたら、リディアがパッと明るい顔になってこっちを向いてくれた。
「っ、あはははは! 俺、怒ってないよ」
リディアの反応が面白すぎて、お腹を抱えて笑ってしまった。
ムスタファが『絶対にここから動かない!』という謎のワガママを発動したので、カルキノスというか、焼きガニ臭の中で一泊した。
朝は簡単にサンドイッチを用意して、再出発。
四一階に上がる坂道を歩いていると、パラパラと細かな石や砂が降ってくる。
ズゥゥンズゥゥンと妙な振動も。
「絶対に、入口近くに何かいるわね」
「いるね」
ムスタファの尻尾が妙に膨れてるし、ジーノは得意のシャドーボクシングをしてる。
四一階に何かいるとかはファウストさんからは聞いていなかった。
「希少種が湧いたみたいね……」
「うん。気をつけて行こう」
――――次は、何が待ち受けているんだろう?
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