第23話:どうせなら目指そう。

 



 リディアと手を繋いで、フィフティタワー内を歩く。

 …………手。

 これ、いつ離したらいいのかな?

 ずっと繋いでてもいいのかな?

 なんか手汗が気になって来たけど、リディアはグローブはめてるから大丈夫かな? バレてないよね?

 ……あぁ、どうしよう。


「あ、アース・ドラゴン……小型だからA級マイナスね」

「そうだね」

「「…………」」


 自分からリディアの手を離した瞬間の、リディアの寂しそうな顔。それが、いやに心臓に刺さった。


「……行くわ」

「うん、お願い」


 リディアが、さっきのリンドヴルム戦の疲れなどないように、アース・ドラゴンを屠っていた。

 地形を隆起させたり、アース・メテオという小粒の石を雨のように降らせる技が得意……のはずだったけど、発動の隙を一切与えなかった。


 火力全開のファイアを剣に纏わせ、斬る。

 ……斬り刻んでる。


 妙な迫力があるのは、リンドヴルムを倒したという自信から来るものかな?

 返り血で血塗れになっているせいかな?

 いやにイライラしているように見えるのは、気のせいだよね?

 何か嫌なことがあったのかな?

 もしかして俺の手汗?


「ふぅ。はい、魔石」


 血塗れ姿でニコリと笑いながら、これまた血塗れの魔石を渡された。


 魔石が見えるほどに胸を切り開かれたアース・ドラゴンを見やる。

 ついでだからと魔石をもぎ取られてしまっていた。

 なんだろう……。

 オーバーキル感が凄い。


「きゅ!」


 ジーノが血塗れになっていたリディアに、ウォーター・ミストという洗浄魔法を掛けてくれた。


「あ……またアース・ドラゴン…………」

「チッ。リンドヴルムがいなくなったから、隠れてたやつらが出てきたのね」


 リディアが苛立たしそうに舌打ちをして、アース・ドラゴンに向かって走って行った。

 あ、魔獣が増えだしたから、イライラしてたのかな?

 たぶん、そういうこと、だよね?




 妙にイライラしているリディアと探索を続けていたら、いつの間にか夕方を過ぎていた事に気が付いた。

 三八階のセイフティーエリアを探し出し、今日はここで一泊することになった。

 ご飯を作っていると、リディアがピタッと横にくっついて来る。


「ん? どうしたの? お腹減ったよね、もうちょっと待ってね」

「うん。何作ってるの?」

「厚切りベーコンとバジルのペンネだよ」

「ペンネ…………ダンジョンで本格的に料理する人、初めて見たわ」


 ――――本格的!?


 ペンネを湯がいて、ベーコンとバジルソースで炒めるだけなのに、本格的だと言われてしまった。

 母さんが書いてくれた『ダンジョン内で簡単に作れるお料理リスト』に入ってたんだけどなぁ?


 メニューがパッと思い浮かばなくて困っていると言ったら、リストを書いてくれた。

 手持ちの食材と見合わせて作ったらいいので重宝している。


「バジルソースを持ち込んでいたのね……」

「うん。使い終わった瓶は煮沸消毒すれば採取したものの保管に転用出来るしね」

「……煮沸消毒」


 なぜか煮沸消毒にポカンとするリディア。

 鬼気迫る顔はちょっとだけ怖かったけど、こういう顔は凄く可愛らしい。

 バジルペンネは笑顔で美味しそうに食べてくれた。




「……おはよ」

「んーっ! おはようリディア」

「カフッ。ガゥ!」

「あはは、ムスタファもおはよ」


 大きなあくびをしていたムスタファを撫でつつ、朝ごはんの準備に取り掛かっていると、リディアが手伝うと言ってくれた。

 料理はしない、出来ない、と話していたのにどうしたんだろう?


「じゃあ、焚き火をとろ火気味にして、パンを焼いてくれる?」

「ずっと不思議だったんだけど、なんで焚き火で焼くの? ファイア使えば?」


 …………それは、消し炭になるのでは?


「ス、スープを掻き混ぜてて!」


 慌ててリディアに渡したパンを取り上げてしまった。

 なんとなく、怖くて。


 無事に出来上がった朝食を取りながら、今後について話し合うことにした。


「ワンフロアの探索に時間が掛かりそうだよね」

「ええ、きっちりと探索すると、丸一日消費する可能性が高いわね」


 それだと、最上階まで突き進むとなると、十日以上掛かる可能性がある。

 しかも、下りのことも考えないといけない。


「だからみんな長く潜ってるんだね」

「そうなのよ。人数が多いとその分荷物も増えるけど、長期攻略には向いているのよね」


 そう言われると、ここフィフティタワーで出会ったのは五人以上のパーティーだけだった。

 多いパーティーは十人以上いて、まるで軍隊のように行進していた。


「あそこは……またちょっと違うから」


 何かちょっと違うらしい。


「で、どうする? 俺的には今回行けるとこまでは行ってから、一旦戻って長期用に荷物を準備してから挑みたいかな」

「そうね。私もそうしたいわ。じゃあ、もう少しだけ進みましょ」

「うん」


 荷物を片付けつつ、上層階の話になった。

 フィフティタワーの完全踏破数は三回、たったの三回だ。

 最上層階には、ジャバウォックという竜がいる。

 S級の竜種。

 それだけしか公開されていない。

 使う魔法、得意な攻撃、全てが謎のまま。


「この前、ファウストパーティーが四五階から引き返したでしょ?」

「うん」

「今は、ここから上にはたぶん誰もいないのよね」

「リンドヴルムを討つために、だいぶ追い抜いてきたからね」

「私たちが引き返してまた戻るまでに、たぶん誰も踏破は出来ないわ」


 リディアが強気そうな顔でニヤリと笑った。

 こういうときのリディアは、物凄いことを考えている可能性が大きい。


「もしかして、四番目の踏破者を目指してる?」

「当たり前じゃない!」

「あはははは!」


 お父さんのことで気落ちして、最悪は冒険者を辞めてしまうかもなんて心配してたけど、全然大丈夫そうだった。

 辞めると言っても、リディアが決めたんなら止めない。

 でも俺は、リディアとしか組みたくないって思い始めていたから、ちょっとだけ怖かった。


「最後まで、二人で行こうね?」

「グワゥ!」

「ぎゅぎゅー!」


 ムスタファが頭突き、ジーノがポコポコと殴って来た。


「わっ! ごめんごめん。四人で行こうね?」

「グァウゥゥ!」

「きゅー!」

「もぉ、締まらないわねぇ」

「あははは」


 ムスタファとジーノを抱きしめて、リディアとクスクス笑いあった。

 


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