第22話:――――さぁ、行こう!
準備は万全。
しっかりと訓練した。
きっちりと休んだ。
「――――さぁ、行きましょう」
「うん!」
リンドヴルム戦に集中するため、三八階まではムスタファとジーノに丸投げで倒してもらうことになった。
そして、ムスタファとジーノだけの戦闘ではなるべく俺が指示するようにした。
二匹だけだと、過剰防衛というか、過剰戦力というか……とにかく色々と過剰すぎる。
特にジーノ。
回復や補助系の魔法が得意なはずなのに、ガンガンに攻撃魔法を打とうとする。
「ムスタファ、ジーノ、魔法はなしだよ!」
「ガウッ!」
「きゅー……」
「ジーノ、いじけないの!」
ジーノがムスタファの頭の上でチェッというような動作で、ムスタファの耳をペコンと蹴っていた。
ムスタファがブルブルと頭を振ってジーノを振り落としていた。
「あんたたち……仲良いの? 仲悪いの?」
「グァウ!」
「きゅ!」
ジーノがムスタファの頭の上に戻って、力こぶを作るようなムキムキポーズをしていた。よくわからない。
「ほら、来るよ!」
そんな感じで気を張り詰めすぎずに、どんどんと魔獣たちを倒して行く。
気付けば三五階のフロアボスを倒し終わっていた。
三七階のセイフティーエリアで一泊し、三八階へ。
「……来た」
地を這う騒音。
近付いてくる強者独特の圧。
たぶん、前回と同じ個体のリンドヴルム。
倒されていなかったらしい。
ここまで来れるのはS級冒険者でも一部のパーティーくらいなので、ファウストさんたちが倒さないでいてくれただけかもしれない。
「ムスタファ、ジーノ」
名前を呼ぶだけで、二匹がリディアの援護に回ってくれる。
俺は予定通り全体を見て弱点や隙を見つける役割。
何が何でも、前回みたいな不意打ちの攻撃は自力で防いでみせる。
リディアが全力でリンドヴルムと戦えるように。
ムスタファとジーノが、全力でリディアをサポート出来るように。
「ジーノ、全員にウインド・シールド」
「きゅ!」
「リディア、ムスタファ、先ずは手足から!」
ウインド・シールドが展開されたことを確認し、リディアとムスタファがリンドヴルムに向かって走って行った。
リンドヴルムの後ろに回り込み、先ずは足。
尾は丸太よりも太く、重たい。なのにリンドヴルムはそれを靭やかに、そして軽やかに動かし攻撃に使う。
「来る! 避けて!」
前回、ずっと見ているだけだった。
戦闘を見続けて色んなことに気づいたけれど、それをどう活用するかなんて考えていなかった。
訓練して、理解した。
「ムスタファ、グラビティ!」
「グアォ!」
「リディア、たぶん数秒しか持たない」
リンドヴルムの身体が大きすぎて、グラビティがそこまで効果を出せない。
リディアがコクリと頷きリンドヴルムのお腹の下に滑り込む。
そして、一閃。
煌々とした炎をまとった剣が、リンドヴルムの左足を切り落とした。
「ギギャァァァァァ」
フロア中に響き渡るかのような叫び。
ビリビリと感じる殺気。
「離れて!」
鳴り響く雷鳴。
それでも俺たちは怯まない。
「ジーノ、ウインド・シールド多重! 重ねれるだけ!」
「きゅきゅー!」
避けても追いかけてくるサンダー・ストームの雷撃は、ジーノの魔力の多さでやり過ごす。
嵐が止んだら、俺たちの番。
「さあ、確実に一本ずつ行こう」
「ええ」
何度も何度も落ちてくる雷撃を掻い潜りながら、残っていた右足を切断。
リンドヴルムは大きな生命の危機を感じると、サンダー・ストームで周囲の敵を殲滅しようとする。
つまり、大きな攻撃を受けないと、発動させない。
それだけ魔力消費が大きいのだろう。
「後ろから来る! 避けて!」
リンドヴルムが身体をしならせて、尾を大きく動かした。
それがリディアの後ろに回り込む。
「っ――――! ありがと!」
ムスタファがリディアに体当りして背中に担ぎ、ジャンプをした瞬間だった。
リディアの身体よりも太い尾が地面を抉った。
なぎ払うような攻撃だと思っていたけど、途中から叩きつけるような攻撃に変わった。
「……まだまだ、元気なようね?」
「リディア、右手を落とそう」
「ええ」
基本はさっきまでと同じ。
サンダー・ストームに気をつけつつリンドヴルムを攻撃。
足のときと違うのは、攻撃に噛み付きなども加わってくること。
恐ろしく尖った歯は、間違いなく肉食獣。
あれに噛まれれば、一巻の終わりだろう。
「ジーノ、ウインド・シールド三重できる?」
「きゅ!」
ここからは常に三重で掛け続けていてほしい。
ジーノの魔力量ならまだ大丈夫。
安全に安全を重ねて戦うことが、俺たちに向いている戦い方だと思う。
「リディア」
「行くわ!」
リンドヴルムに向かっていくリディアの背中は、どこか楽しそうだった。
両手足を切り落とされ、地に這いつくばるリンドヴルムの姿を見ても、未だに気を緩められないのは降り注ぎ続ける雷撃のせいだろう。
リンドヴルムが頭を高く上げて咆哮するたびに、サンダー・ストームが荒れ狂っているのだ。しかも五分以上もそれが続いている。
それに混じってサンダー・スピアも飛んでくる。
サンダー・スピアは貫通力が高いので、受け流さずに各々で避ける。
「しつこい! クリストフ大丈夫!?」
「大丈夫!」
耐えること二十分。
ビタリと止んだ嵐は魔力が尽きた証なのか、何か奥の手があるのか。
リンドヴルムの目は、なんとなく力がない。
「行くわ」
「ジーノ、ムスタファ、リディアに付いて!」
「ガウ!」
「きゅ!」
俺は自分でウインド・シールドを展開し、三人に指示を送る。
「ムスタファ、グラビティ!」
リンドヴルムの噛みつきをグラビティで抑え込んだ瞬間、リディアが右目を潰した。
ドスッと剣を刺し、ファイア・ボムで追撃。
「ギュギャァァァァァァァ――――」
ムスタファのグラビティを跳ね除け、リンドヴルムが頭を高く上げた。
響き渡る叫び声と荒れ狂うサンダー・ストーム。
声が萎むように小さくなり、リンドヴルムの頭がゆっくりと傾く。
地面を揺らし倒れ込んだリンドヴルムの右目からは光が消えていた。
「ふぅ…………終わったわ」
「凄い、凄いよリディア!」
前回の戦闘とは全く違った。
息は上がっているが、それは興奮からに近かった。
余力はたっぷり残っていた。
でも、なんだか表情が暗い。
「――――ねぇ、このまま最上層を目指そうか?」
「え……でも、約束は?」
リディアが不思議そうな顔をした。
元々は、お父さんを探すことと、お母さんの死の真相を探る約束だった。
「たしかに、剣はあったけど、お父さんのだったけど。真実はわからないよね? お母さんのこともわからない。最後の最後まで進んでみようよ」
「…………うん、行く。行きたい!」
――――良かった。
リディアの目に力が戻った。
さっきまで、とても暗い目だったから、少し不安だった。
お父さんの剣とマントが見つかったことで、お父さんが亡くなっている可能性が濃厚になった。
そうすると、お母さんのことももうわからない。
たぶん、お父さんの敵であろうリンドヴルムを討てたことで、フィフティタワーに挑んでいた目標が消えてしまったからなんじゃないかと思った。
「前に、進も?」
リディアの手を取って笑いかけると、キュッと握り返してくれた。
「うん!」
――――本当に良かった。
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