第17話:装備の点検と手入れ。

 



 休みの日は家の手伝いをしたり、ムスタファと出逢った山に散歩に行ったりしている。

 だけど今日はいつもとちょっと違う。


「ねぇ、変じゃない?」

「大丈夫よぉ。ほら早く行きなさい!」

「はぁい」


 灰色シャツの上に、少しダボッとしたカーキ色のジャケットを着て、タイトな黒いパンツを穿いた。

 最近はこういう大人っぽい服が流行ってるんだ、と友達に言われて買っていたものの、ずっとクローゼットにしまい込んでいた。

 本当に大丈夫なのかな?


「ほらっ! 遅刻するわよ!」

「あっ!」


 悩んでいたら、本当にギリギリな時間になっていた。

 ムスタファとジーノを引き連れて慌てて、家を飛び出した。

 荷物はムスタファが咥えて運んでくれた。




「おはようございます!」

「よぉ。はよぉさん」


 ギルド長室に入ってゼストさんに挨拶しつつ、室内を見回していたら、ゼストさんがニヤニヤとしていた。


「リディアならまだ来てねぇぜ」

「良かったぁ!」

「……チッ。つまんねぇ反応だなぁ」

「え?」


 なんでもねぇよ、とゼストさんに手をシッシといったふうに振られた。


 今日はギルド長室を借りて、リディアと装備類の点検や整備をする予定だ。


「ゼストさん、なんかげっそりしてますね」

「ギルド長なぁ、くっそ書類仕事が多いんだよ。あの女、こんな面倒な仕事を押し付けやがって……」

「わぁ……お疲れ様です」


 ゼストさんが執務机に突っ伏していたら、ギルド長室のドアが開いた。


「おはよう、クリストフ。ゼスト、何サボってるの?」

「……マジで、ヤな女だぜ」

「あはは」

「なによ?」


 リディアがムッとしていたけど、そんな顔もかわいいなぁ。

 いつもはかっちりとした髪型をしているけど、休みの日はシニヨンに纏めた髪をおろしている。

 いわゆる『ゆるふわ』な髪型で、シルバーブロンドのロングヘアーが太陽に煌めいて眩しい。

 格好もズボンを穿いているけど、凄く凄く女の子らしい。


「リディアの髪って、凄く綺麗だね」

「っ!? あっ、ありがと」


 何でかリディアの顔が真っ赤になってしまっていて、プイッとそっぽを向いてお礼を言われた。

 それを見たら、なんでか俺も妙に顔が熱くなってきた。


「…………なぁ、お前らさぁ、何しに来たの?」

「整備よっ!」

「整備です」

「…………さっさとやれや。ムスタファ裏返って寝てんぞ」


 ムスタファを見ると、ギルド長室の床で裏返り、両手両足を上下に伸ばしてだるーんと寝ていた。

 ジーノはムスタファのお腹の上で同じ格好をして遊んでいた。

 二匹ともすっごい寛いでいた。


「さ、始めるわよ」

「はい! お願いします」

 



 メタルポリッシュクリームを使い金属部分を磨いたり、革部分をブラッシングし、スポンジでオイルを塗り込んだりした。


「ふぅ。これくらいで大丈夫でしょ」

「毎日、汚れ落とししてたつもりだったけど……」

「クリームやオイルで凄く綺麗になるでしょ?」

「はい!」


 床に広げていた装備類を片付けつつ、今後の話し合いをしていた。


「そろそろ中層より上をメインに動きましょう」

「そうだね――――」


 ――――きっとお父さんは上層部にいるだろうから。


 そろそろ何日が潜ったりする方向で考えて行かないと。装備も今のままじゃいけないよね? 何を揃えたらいいんだろう?


「ゼストさん、何がおすすめ?」

「んなの、上層攻略組に聞けや。知り合ってんだろ?」


 そういえば、ヴァスコさんに自分たちの拠点に遊びに来いって言われてたなぁと思い出した。


「訪ねてみますか?」

「いいわね。行ってみましょ!」




 荷物はギルド長室に預けてヴァスコさんたちの拠点を訪ねた。

 ゼストさんが何かやんやと言っていたのは、まるっと無視でいいらしい。いいの?


「わぁ、ここって凄く高いホテルだよね?」

「スイートルームが拠点よ」

「スイートルーム……」


 上層攻略組って、本当に凄い収入があるんだなと実感した瞬間だった。


 フロントに行くと慇懃に挨拶され、ヴァスコさんに確認を取ったあと、執事さんみたいな人が部屋まで案内してくれた。

 部屋の広さにポカーンとしていたら、ヴァスコさんが指をワキワキと動かしながら近づいてきた。


「よぉ! お、ムスタファ撫でさせろ!」

「はい、どうぞ?」


 とりあえず、ムスタファを撫でるらしい。

 ムスタファはソッと首筋を差し出して鼻を少しだけ上げていた。ちょっと嬉しいらしい。


「そいや、お前たちファウストが探してたぜ?」

「え……俺、この前のときに失礼なことしたからかな……」

「はぁ? 何やらかしたんだよ」

 

 パーティーメンバーの誘いを断った話をすると、何だそんなことかよと呆れられた。


「合う合わないもあるし、目的が違うことだってあるだろ。パーティーを組むのは実力の他にも色々と要因があるから大丈夫だ」

「そうなんですか?」

「そうなんだよ!」


 ヴァスコさんの言葉は何だか説得力があって、物凄くストンと落ちてきた。


「とりあえず、ファウストのところに行ってこいよ」

「はい! 急に訪問してすみませんでした」

「いいって。んで、装備はファウストに聞け。アイツ、いいとこ知ってるけど紹介ないと無理だから」

「何から何までありがとうございます!」



 

 教えてもらったファウストさんたちの拠点を見上げて、さらにポカン。

 巨大な白いお屋敷。

 まるで貴族のお城だった。


「やぁ、待っていたよ」


 ヴァスコさんから連絡が来ていたらしい。

 ドアノッカーを鳴らすと、すぐにファウストさんが出て来てくれた。


「先日のお礼がしたかったんだよ」

「そんな……」

「いいからいいから。ほら、入って」


 サロンという接客用の部屋に案内されて、物凄く美味しいケーキとお茶を食べつつ、上層階の情報をもらってしまった。


「い……いいんですか、そんなこと教えてもらって」

「いいんだよ。君たちにはもっともっとお礼をしたいんだから。知りたいことは他にはないかい?」


 一番知りたいことは、リディアの両親についてだ。

 聞いてみたけれど、お父さんとは最近ダンジョン内で遭遇していないと言われてしまった。


「私が協力できそうなことは、装備だね。とりあえず、ここに行ってみるといいよ」


 上級者しか入れない武器店への地図を手渡された。

 ちょっと小難しい店主だけど、頑張って粘るようにと言われた。



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