第15話:一緒に行動してみる。

 



 ヴァスコさんのパーティーとダンジョンを下りつつ、魔物の討伐について取り決めを行った。


 ・出会った魔獣は交互に倒す。

 ・倒せそうにないときは協力する。

 ・協力した際のアイテムは折半。


 十八階に到着したところで、ダンジョン内の様子が明らかに可怪しいと気付かれてしまった。


「何か変よね。魔獣がかなり少ないなと思っていたけど、気のせいじゃないわよね?」

「あー……す、すみません」


 ムスタファがいることで、ある程度のレベルに達した魔獣しか出てこないことを伝えた。


「「あー」」


 異様に納得された。

 どうやらダンジョン内で似たような現象があるらしい。

 中級者向けダンジョンの時みたいな反応を受けてしまうんじゃ、ってドキドキしていた。


「妙に強いフロアボスとかが生まれると、雑魚が消えたりな」

「「あるある」」

「へぇ! そんなことがあるんですか」


 五階層ごとにいるフロアボス、たまに一匹だけとかだったけど、あれはレアな魔獣だったんだろうか?

 ムスタファがいるから弱いのが隠れてたのか、ボスが強かったせいなのか、どっちかよくわからない。


「あー。下の階ではそうだろうなぁ」

「上の方はどんな魔獣が出るんですか?」


 ワクワクとしてヴァスコさんに話しかけたら、ケタケタと笑って頭を撫でられた。


「なんか懐かしいなぁ。ちびっことかがよくこんな風に話しかけてきてたなぁ」

「え? 最近はないんですか?」

「「ブフーッ」」


 ヴァスコさんのパーティーメンバーさんたちが、吹き出したり爆笑したりしているので、何なんだろう? と首を傾げていたら、アミタさんが声を震わせながら教えてくれた。


 昔は割と細身だったものの、この数年で筋骨隆々になって、幼い子どもたちが近寄って来なくなったそうだ。

 確かに、ヴァスコさんは大きい。

 俺より顔半分くらい背が高くて、腕とか太股とか俺の倍くらいありそうだ。


「クリストフくんは十六だっけ?」

「はい」

「年齢にしては背が高い方よねぇ」

「うーん。たぶん?」

「身長も体格もそれくらいにしておいてね? ムキムキマッチョとか、可愛くない!」


 アミタさんがよくわからない力説をしていたけど、リディアもうんうんうんと激しくうなずいていたので、なにか解るものがあったらしい。 

 後で二人になったときに聞いてみようかな。




 大型の熊の魔獣、ナンディ・ベアと遭遇した。

 ムスタファと変わらないくらいの体長で、体格は三倍近そうだった。


「そっち行くぞ!」

「りょ」


 ヴァスコさんたちが戦う姿を見詰める。

 前線で活躍しているパーティーの動きを、こんな間近で見るチャンスなんてないわよ! 戦闘の組み立て方などをしっかりと見ておきましょう、とリディアに言われた。


「アミタ!」

「アイス・ストーム」


 見ていて驚いた。

 殆ど指示が飛ばない。

 アミタさんなんて、名前を呼ばれただけで攻撃魔法を発動させていた。

 大量の氷の粒が竜巻のように回転しながら、ナンディ・ベアを襲う。

 すかさずヴァスコさんが大剣で一閃。

 ズウゥゥンという重たい音を立てて、魔獣が倒れた。


「す、凄い! 凄いです!」


 聞いてみると、基本は戦い方の流れを決めているそうだ。

 鳥型、猫型、犬型などで分類しているのだという。


「なるほど。先にそういったことを決めておくと、断然戦いやすそうですね」

「クリストフくんはわかるのね! この筋肉ダルマったら、全然理解しなかったのよ!」

「うるせぇ! 筋肉ダルマ言うな!」


 リディアがボソリと筋肉ダルマと呟いて、クスッと笑ったのを見逃さなかった。

 リディアって、わりとこういうノリ好きなんだ? 新たな発見だ。




「へぇ! ドラゴンタイプ!」

「あぁ、三十階を超えたあたりから襲って来るようになるぞ。マジで気をつけろよ?」

「やっぱり、火とか吐くんですか!?」

「吐く吐く! ブレス系はマジで厄介だぞ」


 ヴァスコさんたちから、上層階の魔獣の情報を聞きつつ次の階層に入った時だった。


「ブグルルルルァァァ」


 二つ頭の巨大な犬が突進してきた。

 ムスタファより少し大きい。


「オルトロスよ! リディアちゃん、クリストフくん、だいじょ――――」

「グガァァウ!」


 俺の横をトテトテ歩いていたムスタファがシュンと駆け抜けて行った。オルトロスに向かって。

 そして、よくわからない魔法を使い、オルトロスを地面にめり込ませた。

 グチャリ、とかなりえげつない音と見た目。


「「……は?」」


 全員がポカンとした。

 ムスタファはというと、ルンルンとした調子で俺の前に来て、脇にズボッと頭を差し込んできた。

 いつも通り、身体がぶわりと持ち上げられる。


「あー、はいはい。いい子いい子」


 ポンポンと頭を叩いて落ち着かせる。

 たぶん、俺がヴァスコさんたちとばっかり話していたから嫉妬したんだろう。


「嫉妬!? 嫉妬だけでグラビティ発動させてたの!?」

「嫉妬でオルトロスをぐちゃぐちゃ……」

「グラビティ?」

「「そこ!?」」


 グラビティの説明と、ちゃんと待てを覚えさせて! と皆に滾々と説教されしまった。



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