第14話:赤髪の冒険者。




 ムスタファやジーノ、リディアと出逢って一ヶ月。

 時々休みを挟みつつ、ダンジョンを攻略し続けた。

 捜索が終わった階層は最短ルートで突き進み、二十階層まで来た。


「そろそろ戻らないと。このあたりまで来ると、日帰りは難しくなって来たわね」

「ですね。次は何日か籠もるようにしますか?」

「そうねぇ。明日は持ち込む荷物の選別をしましょうか」

「はいっ!」


 ぴょんぴょんとムスタファの上を飛び回るジーノと、それを追いかけてグルグル回りながら吠えるムスタファを眺めつつ、のんびり休憩。


「きゅっ、きゅきゅー!」

「グォアァァ、ゴァゥ、ゴァゥ、ゴァゥ!」


 ムスタファが吠えまくるもんだから、魔獣たちが全く近づいて来ない。

 助かるけど、耳が痛い。


「もぉーっ。煩いよー? そろそろ遊ぶのやめなさーいっ!」

「君、鈍感よね……」

「え!? 何でですか」

「ムスタファ、物凄く殺気出しまくってて、肌がビリビリするわ」


 殺気と言われても、実はいまいちわからない。

 敵だとなんとなくわかるようにはなってきたけど。

 そもそも、ムスタファとジーノっていつもあんな感じだしなぁ、なんて考えていた。


「おいっ! お前たち大丈夫か!? 他の仲間はもう殺られたのか!?」


 後ろから声をかけられ振り向くと、赤髪で短髪の冒険者さんを先頭に、彼のパーティーメンバーだと思われる人たちがいた。


「わっ! もしかして、A級のヴァスコさんっ!?」

「あら、ホントね。君、そういうことは知ってるのね」

「えへへ」


 褒められて照れていたら、「褒めてないわよ」とバッサリ切られてしまった。


「は? ギルド長!?」

「ヴァスコ! ダークネス・レオパルドよ! 気を引き締めて!」


 A級冒険者の六人パーティーに剣や弓を向けられてしまった。 

 ムスタファはお尻と尻尾を高く上げジリジリ、ジーノはムスタファの頭の上でシャドーボクシングをしていた。

 俺から見ると、ただただ可愛いだけだったけど、ムスタファは完全に牙を剥いていたので慌てて止めた。


「こらっ、だめだって! 人を襲ったらだめっ!」

「ガウゥ?」

「きゅー!」


 ムスタファは『えー?』とでも言うように首を傾げて戦闘態勢を解いていたけれど、ジーノは未だにムスタファの頭の上で、シャドーボクシング。


「こら、ジーノ! 煽らないの!」

「「……は?」」


 場が騒然としていた。

 A級冒険者さんたちは何やら言い合い、リディアはこめかみを揉みつつ、ヴァスコさんに説明をしていた。

 主に、ムスタファとジーノのせいらしい。

 本当に申し訳ない気分だ。

 二匹ともシュンとしたので、頭を撫でつつ先頭にいたヴァスコさんに力いっぱい頭を下げた。


「本当に申し訳ありません! ふたりには言って聞かせますので、どうか剣を収めてもらえないでしょうか」

「え、いや…………は? 本当に、じゅ、従魔なのか?」




 ヴァスコさんパーティーも戻る途中だということで、一緒にダンジョンを下りながら話した。


「まじか。上層階を攻略している間にそんなことが……」

「何階まで行かれたんですか?」

「今回は三八階だ」

「そこで戻り分の食料になっちゃったのよ」


 シスターのような白い服を着た女の人が、残念そうに言いながらも、指をワキワキと動かしていた。

 彼女はアミタさんといい、治癒系の魔道士らしいけれど、攻撃魔法も多少出来るとのことだった。

 アミタさんの目線がなんとなくジーノに向いている気がする。


「えっと……撫でますか?」

「いいのっ!?」


 物凄く、前のめりで食い付かれた。


「はい、どうぞ」


 ジーノの両脇を持ってアミタさんに渡すと、ジーノは見るからにデレデレしていた。

 ジーノって撫でられるの好きだから大丈夫だろう。


「ソイツ、ほんと女好きよね」


 リディアが舌打ちでもしそうな顔をしていた。

 ヤキモチかな? こういうところ、とっても可愛いなと思う。


「は!? あんなエロ熊、好きじゃないわよ!」

「あははは」

「な、なぁ、本当にこのダークネス・レオパルドは従魔なんだよな?」

「はい。ムスタファですよ」


 ムスタファは、俺の横をとてとてと歩きながら、すり寄って来ては俺が歩くのを完全に邪魔していた。

 すり寄るのいいんだけど、ムスタファの力加減が雑すぎて、横からの衝撃が大きいからフラフラしてしまう。


「……凄くツヤツヤしてるな」


 ヴァスコさんは、ムスタファの方が撫でたかったらしい。

 みんな、わりともふもふ好きなんですね? なんて言いながらムスタファを差し出したら、ヴァスコさんが恐る恐る撫でていた。


「うわっ……すげぇサラサラ。程よく潤いもあって、温かい…………え、どうしよ、凄げぇ可愛い」

「グォォン!」

「うおっ!?」


 ムスタファが吠えたら、ヴァスコさんたちが素早く距離を取って戦闘態勢になっていた。

 A級冒険者さんたちの動きが凄すぎてポカンとしていたら、リディアがまたこめかみを揉みながら説明をしてくれた。


「は? 『可愛い』に抗議しただけ? 『カッコイイ』と言って欲しい?」

「ええ。ただそれだけなの。そうよね? ムスタファ」

「グアッ!」


 ムスタファがちょこんとお座りして、可愛く返事をしていた。


「何だよそれ。可愛…………カッコイイ、じゃねぇか」

「グァゥ!」

「ウゴッ!?」


 ムスタファがカッコイイに満足して、ヴァスコさんにスリッとすり寄っていた。

 ヴァスコさんでもムスタファのすり寄りでふらつくんだ! とくすくすと笑っていたら、パーティーの他の人たちもムスタファを撫でたり、ジーノを抱きかかえたりして、思い思いに楽しんでいた。


「それにしても、ここ敵が全然いないわね。貴方達、二人でかなり探索したのね」

「……えぇ、まぁ。そうとも言うわね」


 リディアがあははと乾いた笑いを出していた。

 なんか申し訳ないなぁと思いつつも、時々来るムスタファの頭突きを躱しながらダンジョンを下った。



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