第12話:ファイア系を学ぼう。




 今日は二回目の訓練日だ。

 まだ一週間も経っていないのに、リディアとかなり打ち解けられている気がする。


「おはよう」

「おはようございます」

「今日はファイア系の様々な種類の魔法を試してみましょ」

「はい!」


 ファイア系は汎用性が高く、消費魔力が他よりも少ないと言われている。なので、俺みたいにMPが少ない人向けらしい。

 短縮詠唱でもある程度の効果が得られる為、戦闘では殆どの冒険者が使っているとか。


「ファイア・アローの詠唱はね――――」


 基本詠唱は『炎よ、矢になり、穿け。ファイア・アロー!』

 短縮詠唱は『穿け。ファイア・アロー!』

 完全省略は『ファイア・アロー!』


 ほかには、オリジナル詠唱もあるらしい。

 『炎よ、矢を形どれ。燃え上がり、爆ぜろ。ファイア・アロー!』や、『炎よ、分裂せよ。矢になり、敵を穿ち、滅せよ。ファイア・アローズ!』が有名だと教えてもらった。

 

「これは、自身が詠唱に対して感じている効果がそのまま現れるの。決まった詠唱でも、人によって効果はまちまちよ」


 まちまちだが、紡ぐ詠唱の言葉の多さと矢の数で、魔力の消費は比例するそうだ。

 効果も言葉の多さによって、ある程度は比例しているが、得意分野やイメージ力も大きく関わってくるらしい。

 この二つが、リディアの言う『人によって効果が違う』の部分らしい。


「ファイア・アロー」


 小枝よりも細くて短い小さな矢が、指先十センチのところにぷかぷかと浮かんでいた。


「わっ、出た!」

「ふふっ。魔力を込めて詠唱したんだもの、出るわよ!」


 リディアにくすくすと笑われてちょっと恥ずかしかった。

 一昨日もファイアを出してたじゃない、と言われたけれど、アローって攻撃魔法だから、格段にドキドキしてしまう。


「矢を射たい方向に向かって手を振り下ろすような、投げるような動作をしてみて。今はあの的ね」


 五メートル向こうにある、攻撃を当てる為の丸太のような木製の的。

 それに向かって手を振り下ろすと、指先から矢がヒュンと飛んで行った。


「わっ!」

「うん。まぁ…………当たりはしたわね」


 俺の人生初の攻撃魔法ファイア・アローは、ヒョロヒョロと飛んでいき、的に当たってジュッと消えた。

 貫くでも燃やすでもなく、消えただけだった。


「ステータスを確認しつつ、どんどんと飛ばしていくわよ」

「はいっ!」

 



 初めの頃は、頭の中でしっかりと炎の矢をイメージしながらだったけれど、何度も作り出す内にコツを掴んできたのか、そこまではっきりとイメージしなくても作り出せるようになった。


「炎よ、矢になり、穿け。ファイア・アロー!」


 詠唱にも段々と慣れてきた。

 炎の矢が的に深々と刺さり、パッと燃え上がる。

 この瞬間が結構気持ちがいいというか、ワクワクするというか……。

 ずっと憧れていた冒険者になって、『俺、魔法使ってる!』という実感が湧く。


「ウォーター」


 すかさずリディアが的に水をかけて、消してくれる。

 ちょっとだけしょんぼりするのは秘密。

 

「いい感じね。そろそろ完全省略でも同じくらいの矢は作り出せるようになってるはずよ」

「はいっ!」


 少人数パーティーでの戦闘では、悠長に詠唱している時間はない。そう断言するくらいに当たり前のことらしい。

 なので、完全省略をした技名だけで瞬時に魔法を発動させられるようにならないといけない。


「――――ファイア・アロー!」

「次はもっと早く」

「はいっ」


 基本詠唱時より少し細くて炎も弱まっていたけれど、初めて発動させた時よりも断然にしっかりとした矢が作り出せた。

 

 リディアに喝を入れられつつ、何度も何度も矢を放つ。

 途中でジーノにMPを回復してもらい、二時間発動し続けてやっとリディアに合格がもらえた。


 ちなみに、その間ジーノは何度かリディアの胸元に潜り込もうとして踏まれ、ムスタファは綺麗に丸くなって完全に寝ていた。

 時々寝返りを打ってお腹丸出しにしていたけれど、野生はどこに消えたんだろう?




「さ、次はファイア・ボムよ」


 リディアがそう言って、人差し指をピッと立てた。その指先には拳大の綺麗な球体の炎が浮いている。


「よく見ててね」

「はい?」


 的と魔法のどっちを? と思っていたけれど、炎の球はリディアの指から解き放たれてしまった。

 慌てて球を目で追う。

 ファイア・ボールがヒュッと勢い良く飛んでいき、ドフゥゥンという重低音を轟かせて的を粉々にした。


 俺が何度ファイア・アローを放っても形を保っていた的。

 所々焦げてはいたものの、リディアがウオーターで消化してくれていた的。

 それが、粉々。


「……凄っ」


 口からぽろりと漏れ出るほどに、凄かった。


「詠唱は、『炎よ、桎梏しっこくの力を解き放て、爆ぜろ、ファイア・ボム』よ」


 炎の玉の中に力が渦巻いているようなイメージをすると上手くいくわよと、教えてもらった。


「渦巻き、爆ぜるイメージ――――」


 何度も何度もイメージを繰り返して、ファイア・ボムを練習した。




 みんなでお昼ごはんを食べつつ、戦闘時にどう動くかなどの話し合いをした。

 ちなみに、母さんはなぜかリディアの分のお弁当まで用意していた。

 喜んでもらったから良かったけど、ご飯にピンクのふりかけでハートマークは入れないで欲しかった。

 えも言われぬ空気とはこれか! って実感した。


「ジーノにはウインド・シールドや回復をお願いしていい?」

「きゅきゅー!」


 リディアのお願いに、ジーノがぴょんぴょんと飛び跳ねていた。

 たぶん、オッケーなんだと思う。


「ムスタファはこの前と一緒で、アシストをお願いね?」

「ガウッ!」


 ムスタファも元気よく返事をしていたけれど、なぜかリディアのお弁当をジーッと見ている。

 あれ? 足りなかったのかな? とムスタファに唐揚げをひとつあげたら、また頭突きされた。


「お弁当が落ちたらどうすんの! 流石に怒るよ!?」

「グキュゥン」

「…………平和ね」


 俺的には全然平和じゃないのに、リディアは遠い目をしてウインナーを食べていた。

 

「午後からクリストフは短剣の訓練をしましょ」

「はい」

「それによって、ダンジョン内での行動や作戦も決めるわよ」

「分かった!」

「ふふっ。よろしくね」


 さ、午後も気合を入れて頑張ろう!



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