第11話:二回目のダンジョン。




「おはよう」

「おはようございます」


 ダンジョン探索の二回目の今日も、ギルド前でリディアと待ち合わせ。

 こういうのって、なんかいい。凄く冒険者っぽい。


「あはは! 君って、ほんと変!」


 なんでかわからないけど、リディアがずっとクスクスと笑っていた。


 今日も貸し切りの馬車だ。

 ムスタファに加え、ジーノも増えたので余計に色々と問題が起こりそうだったからというのもある。

 もういくつか利点があるねと話していた内のひとつが、帰り道だった。

 疲れ果てて、荷物も多くて、タイミングが悪いと何台も待ったり、ぎゅうぎゅう詰め。

 貸し切りだとそんなことはなく、馬車も御者も指定していた日付の間はダンジョンで待っていてくれるのだ。

 特にフィフティタワーはかなり広いので、一階層での宿泊用に簡易の小屋等や売店などが建てられている。

 ギルド職員も交代で常駐しており、彼らの休憩所も用意されている。


 ダンジョンに到着して御者さんに今日か明日で戻ることを伝え、審査ゲートのギルド職員さんたちに挨拶した。


「……チッ」


 トーマスさんには、舌打ちされた。

 リディアが申し訳なさそうにするので、気にしないでほしいこと、自身の力で信頼は勝ち取りたいと伝えると、頭をワシワシと撫でられた。


「わわわっ」

「ふふっ。さ、行くわよ」

「はい!」




 上級者向けダンジョン――フィフティタワーの探索は順調に進んでいる。というか、五階まではこの前と一緒で何も出てこなかったからだけれど。

 

 リディアが五階層のヒュージ・サーペントを危なげなく倒した。

 俺は魔石の取り出しと、素材になるアイテム採取。


「そう。その辺りにサーペント種の心臓があるわ。次は毒の採取よ」


 前回は瓶を持っていなかったので、毒線から毒を採取出来なかった。

 管牙の下に瓶を置き、サーペントの内上顎をグニグニと押すと、牙に開いている管を通って毒がボタリボタリと落ちてくる。


「わぁ! 採取すると、アイテムのステータスに採取者の名前が付くんですね」


 アイテム類は、ダンジョン内でのみ魔力を流すとステータス画面が出る。

 半透明の手のひらサイズの板みたいなものがピコンと浮かび上がるんだ。

 みんなはこれをステータスウィンドウと呼んでいるらしい。

 地上ではステータスを確認する為の機械があり、ギルドなどがステータスを確認して品質保証書を付けて販売したりする。




【サーペントポイズン(強)】

 ヒュージ・サーペントから採取された毒。

 中型動物であれば、一滴でも体内に入ると即死する。

 採取者:クリストフ




「数人で作業すると、連名になったり、作業量が格段に多かった人の名前になるわ」


 その場合の分け前等はパーティーの中で先に取り決めをしておくことをおすすめされた。


「あ……これ、リディアが仕留めたのに、採取者を俺の名前にしちゃった。大丈夫ですよ!? これは全部リディアのものですからね!?」

「あははは! 二人で山分けね?」

「え、いいんですか……」

「当たり前でしょ!」


 リディアの優しさと心の広さに感謝しつつ、採取に力を入れた。




 一昨日は六階までで止まっていたので、もう少し先を目指すことにした。

 探索は掛かっても一泊にしようと決めた。


 リディアのレベル上げとお父さんの捜索も兼ねて一つの階層をしっかりと探索する計画だけど、そうすると魔石やアイテムで荷物がパンパンになってしまう。

 なので、掛かっても一泊。


「人喰い馬、凄い出てきますね」

「あいつらはね……ほんと血の臭いに敏いのよ……」


 二十何頭目かの人喰い馬を倒し、六階の探索は終了した。

 七階層も人喰い馬がメインで出た。

 リディアは分かってはいたけどゲンナリ、といった様子だった。

 フィフティタワーでは、基本的に五階毎に特色が変わるそうだ。

 なるほど、だからわかっていたのか。


「本当はもっといろんな種類の魔獣がいるんだけどね……」

「あっ……うん、だよね」


 ムスタファが悪いわけじゃないけど、なんというかそこはかとなく申し訳ない。そんな気分だった。

 

 


 リディアが人喰い馬たちと戦っている間、俺は周囲の警戒と異常などの報告。

 どうやってもリディアの方が早く気付くと思うんだけど、戦闘に慣れること、状況を読む力を付けることが俺に必要だから、必ず報告をしてと言われた。

 それに、目の前の戦闘に集中していると時々気付くのが遅れるそうだ。

 

「リディア! 二時に二匹、距離三百」

「了解」


 時計の盤を方向に当てはめて伝えるというのを教えてもらった。

 十二時は本人が今向いている正面方向。

 東西南北だと、先ずダンジョン内でどっちの方向だっけ? となるかららしい。


「ファイア・アロー!」


 リディアが目の前の人喰い馬三匹と戦いつつ、近づいて来ている二匹に向かってファイア・アローを放っていた。

 基本、MPは温存しつつ戦っていたが、流石に五匹になるのは不味いので魔法を使うことにしたらしい。


「ムスタファ行かせる!?」

「お願い!」

「ガウッ」

 

 ムスタファが俺の横からタタタと走って、こちらに向かってきている人喰い馬の進路を塞いだ。

 ジーノは俺の肩に座って手をふるふると揺らした。


「え? 何これ……」


 透き通った薄い黃緑色の風のベールのようなものが俺を包んだ。


「きゅきゅ!」

「完全球体のウインド・シールド!?」


 リディアがこちらを振り返って驚いた瞬間、人喰い馬の一頭が後ろ脚で地面を何度か擦っていた。これは後ろの両脚で蹴り上げる攻撃をしてくる直前の動作だ。


「ジーノッ!」

「きゅーっ」


 焦ってジーノの名前を呼んだ。

 リディアが言った『ウィンド・シールド』という言葉で、防御出来る魔法なんだと気付いたから。

 俺的には、かなり早い判断だったと思ったんだけど、ジーノが可愛らしく鳴きながらリディアを指というか手で差していた。


「あ……既に」

「ありがと、二人とも!」


 お礼を言われたけど、完全にジーノのおかげだった。

 もっともっと洞察力や動体視力を鍛えないとなと反省。


「よしっ! そっちに行くわ!」


 リディアが目の前の三頭を倒して、ムスタファの方へと向かった。


「ガウ!」

「ムスタファも、ありがと」


 二頭を抑えていてくれたムスタファにリディアがお礼を言うと、フヒュンと変な声で返事をして俺の横に戻ってきた。そして、ジーノのかけてくれたウィンド・シールドを尻尾でベシッと叩いて消してしまった。


「え、ちょっ!?」

「グルゥゥゥゥ!」


 ムスタファは『もういらないでしょ!』みたいな態度でプイッと顔を背けている。

 もしかして、母さんの言うように嫉妬しているとか?

 

 七階、八階、九階と順調に捜索が済み、荷物がパンパンになってきた。


「やっぱり細かに調べて回ると半日が限界ね」

「そうですね」


 帰りはある程度の魔獣は無視して通り抜けることになった。

 このときも、ジーノのウインド・シールドはとても役に立った。

  



 無事に都市に帰り着き、ギルドで換金した。


「え…………?」

「あら、結構行ったわね」


 結構どころではなかった。

 まさかの、貸してもらっていた装備分が賄える金額だった。

 頭を下げながらしっかりきっかりお礼を言って、返済した。


「もう、いいのにっ!」


 リディアは、ちょっといじけたような顔をしていた。

 なんでだろ?


「俺、リディアとは対等でいたいから」

「っ! うん……」


 リディアの頬がなんだかピンク色に染まった気がするんだけど、ムスタファが横腹に頭突きをしてくるから視界がぶれてよく見えない。


「いたたたた。わかったわかった。お腹減ったんだよね?」

「グワァァウ!」


 ムスタファが大きな声で鳴くもんだから、近くにいた人たちがびっくりしていた。申し訳ない。

 そして、頭突きは止めてくれなかった。

 ジーノはリディアの胸元に避難していた。また地面に捨てられて踏まれてたけど。


「あんたら、わざとよね?」

「グワウ?」

「きゅ?」

「へ?」

「ハァ。もういいわ、お疲れ様」


 大きな溜め息を残して、リディアが颯爽と帰ってしまった。

 後ろ姿に「ありがとう!」と叫ぶと、振り返らずに右手だけを少し上げて、顔の横でふるふると振っていた。

 なんだか、とても格好良かった。


「さ、俺らも帰ろうか?」

「ガウッ!」

「きゅきゅー!」



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