ジーノ:楽しそうだし、一緒にいよ。

 



 ……くそ。

 変なのに見つかってしまった。

 やめろ……潰れるだろ。

 やめろやめろ! 甘噛みすんな!


「ぬいぐるみなんて食べたら…………温かい? え? 生きてる!?」


 あ……人間に見付かってしまった。

 ほんと、最悪…………。

 



 三十年くらい前だったかな。

 はちみつでおびき寄せられて、人間に捕獲されたの。

 見世物小屋にある魔導具のカゴに入れられてさ、ただただ見世物になるだけの日々。

 食べ物ははちみつを薄く溶いた水と野菜のみ。

 可愛く振る舞わないと、鞭で打たれたり、魔導具の雷電が出る棒で叩かれた。


 他の動物たちの扱いも酷かったんだよね。

 ついこの前それがバレて、見世物小屋が領主によって摘発された。

 人間はさ、対応が遅すぎるよね?

 カゴから出された瞬間に、他の動物たちに魔法かけまくったよ。みんな無事に自由を手に入れたかなぁ?


 ベアーも全力で逃げたよ。

 いっぱい魔法使ってさ、人間の国を何個も通り過ぎたんだ。

 もう人間などと関わるもんか! って思いながら。

 



 ――――思ってたんだけどなぁ。


 魔力切れ起こして、草むらで寝てたらこのザマだよ。


「あれ、よく見ると、なんか……すごく汚れてるね」


 そう言いながらベアーをそっと撫でてくれた人間の手が、とっても温かくてさ。

 悪い人間もいるけど、優しい人間もいるんだよね、ってちょっとだけウトウト……。


「ガウッ!(ぼくの!)」


 ……そういえば、このデカいのいたな。

 何なんだよコイツ。何で涎垂らしてんだよ。

 食われるかと思ったよ。


「駄目だってば!」


 人間が黒いデカいのを怒ってる。

 あ、従魔なんだ?


「クキュゥ?(ぼく、ほしい。だめ?)」

「だーめっ」


 ん? この黒いのと人間は言葉が通じてるのか?

 この黒いのに与えるのだけはやめてくれ。

 断固としてベアーは反対だぞ。

 そんな気持ちを乗せて腕にしがみついたら、人間の小僧がぷるぷる震え出した。

 大丈夫か? トイレか?


「お…………お前も、従魔に……なる?」


 ……従魔か。

 魔力切れて頭クラクラするしなぁ。

 まぁ、ベアーはまだまだ長生きするし、人間の一生くらい付き合ってやってもいいかなぁ。

 お腹減ったし。

 もう動きたくないし。


 こくんと頷いたら、魔力を首に向かって飛ばしてきたから避けた。

 首に繋がれたらさ、裏切ったとき首が飛ぶじゃないか。

 治癒できるとこじゃないとね?

 まぁ、悪いやつじゃ無かったら、裏切らないけど。




 人間に抱っこされての移動って楽だなぁ。

  

「きゅきゅ。きゅー。(この人間といるの、楽しそうだな。あと、はちみつ持ってそう)」


 人間の小僧の家に着いた。

 小僧の母親が、ベアーの大好きなはちみつをくれた。

 二人でお風呂に入って、名前つけてくれて、綺麗に洗ってくれて、トリートメントっていうのまでしてくれた。


「ジーノ、これは母さんのだから、内緒だよ?」

「きゅ、きゅきゅっ(オッケー。お前はジーノの主人にふさわしそうだな)」

「ガウッ! グカァァァゥ!(ぼくのご主人さまだぞ、よこどり、だめだぞ!)」


 黒いのが煩いが、まぁコイツも悪いやつじゃなさそう。


「きゅ……きゅきゅきゅーきゅ?(へぇ……ご主人さま、ジーノの可愛さにメロメロになってるけどね?)」


 黒いのがご主人さまに嗜められてしょんぼりしてた。

 面白いヤツ!


「きゅ、きゅきゅん(ま、よろしくな黒いの)」

「グァァウ! ……ガゥ(ムスタファなの! ……よろしく)」 


 ほんと、これから楽しくなりそうだし、一緒にいてやろう。



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