第7話 その一本、五万円なり
クソTにリセット信号不備の報告が行く。
クソTはただちに手を打った。
基板を改版に出したのだ。
クソTの動きは早いが方向性が完全に間違っている。
リセットが間違っているような回路なのだ。どれだけの間違いがあるのか分からないから、まず回路図全体をチェックする必要がある。基板改版はその後だ。
クソTの思考速度は大変に遅いので、この動きの早さはパニックの結果と見てよい。火事のときに方向を見定めずにとにかく飛び出すアレだ。
二三日で基板は改修されてきた。
四層基板の改修はジャンパ線を飛ばすぐらいでは済まない。四枚の平面の回路が重なっていて、一番上が5V、一番下がGNDの回路が張り巡らせている。これらの間はエポキシ基板が3枚挟まっている。だから回路を改修する場合は、この挟まっている0.5ミリ厚のエポキシ基板の中を0.3ミリのドリルで掘り進んで配線を構築していく。
これはまさに職人技であり、やっているのは熟練工のおばちゃんだ。さほどに日本のおばちゃんたちの実力は高い。
その分値段は高価で、信号を一本改修するのに五万円の費用が請求される。
こうしてリセット信号は動くようになったが、搭載しているRAMもROMもその他のチップもうんともすんとも動かない。
また回路図を見て、またおかしな所を見つける。
LED点灯マトリクスがおかしな結合になっているのだ。どこかで見たような回路だなと眺めていると思い出した。初めて会社に入った頃にトランジスタ技術という雑誌のフレッシュマン養成講座に載っていた失敗例そっくりだ。一見動きそうに思えるけど通電するとショートする回路だ。
恐らくカンボジア人の技術者(?)に向こうの会社の社長が勉強しろとトラ技を押しつけた。ところが日本語が読めなかったそいつは失敗例の回路をそのまま引き写した。
そんなところだろう。
ここらでもう馬鹿のテンコ盛りだ。
またクソTがおばちゃんに回路修正を依頼する。
だから手順がおかしいだろ。間抜けめ。そう思うが顔には出さない。向こうはどれだけ馬鹿でもクライアントだ。資本主義の世の中は金をその手に握った者だけが偉い。
またもや三日が飛ぶ。
こういうことが五回ほど繰り返された。そのたびにA社に呼び出される。
私の交通費と時間だけが失われる。怒りを面に出せばこういうことも無かったかもしれない。人生で一番大事なのは演技力である。
ようやく業を煮やしたクソTがどこかに回路調査を依頼した。
合計17のミスが見つかったという。その中には3.3V基準のCMOS系チップと5V基準のTTL系チップを直結した例もあったという。(小学生でもやらない行為)
ここまで行くと設計は完全に失敗だ。かけた設計と基板作成と載せたチップなどかけた費用と工数がすべて無駄となったのだ。
これはプロジェクトの成否自体が危うくなるほどの大失態であった。
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