第6話 ついに基板が

 基板がついに届いたと連絡が来たのでまたA社を訪れた。


 机の上に大きな基板がでんと載っている。

 持っていたノートパソコンを開きICEの準備をして待つ。

 素の基板なのでこのままでは動かない。電源を接続し、CPUがほどほどに動くことをハード屋が確認してからこちらに渡して貰うのが手順だ。


 だがいつまで経っても相手のハード屋が動かない。横目で見ると自分の机の上で別の仕事をやっている。

 おいおい、まさか立ち上げまでこっちでやれというのかい?


 実際にはこういう話だったらしい。

 このハード設計はカンボジアの会社に設計を頼んでいた。この会社は日本人技術者がカンボジアに行って立ち上げたものである。設計自体はカンボジア人が行い、後でこの日本人技術者が来日して手直しするという話になっていた。

 もうこの時点でおかしな話である。回路図のチェックが抜けている。

 結局この約束は守られず、何のチェックもされないままにアートワーク作業まで進み、基板までできてしまったのだ。


 わざわざ人を呼んでおいて放置かい。どうして私が出会う人間はこう失礼な連中ばかりなのだろう。

 それともこれが人間のデフォルトなのだろうか?

 だとすれば私は人間から一番遠い位置にある。


 いつまで経ってもハード屋が動かず退屈だったので、回路図とCPUマニュアルを貰う。

 怒りは心の内に秘めて回路図を眺める。

 ええと、CPU周りはっと・・これか。

 POR信号というのが目についた。どこにも接続していない。

 嫌な予感がした。

 マニュアルを探る。

 POR=PoerOnReset。

 やはり思った通りだ。これリセット信号線だ。

 大問題である。リセット信号はCPUを起動させるための基礎となる信号であり、これがどこにも繋がらないCPU回路はこの世に存在しない。いや、存在してはならない。

 向こうのハード屋さんに話して、二人でへらへら笑った。

 虚脱状態である。この回路図、爆弾の塊であることが確定したからだ。


 これはもうここにいても意味がないとその場で帰った。

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