第5話 犯人登場

 クソTに呼ばれてかなり遠くのA社へ連れていかれる。

 ここがハード基板の設計を受け持っている所である。


 連れていかれて向こうのハード屋に会わされたがそれだけだ。

 何の打ち合わせもないし、議題もないし、雑談の話題すらない。

「それじゃこれで」

 15分も経たない内にクソTが消えた。

 おい。なんで私をここに連れて来たんだ?

 2時間待ったが何も起きない。いい加減にしろ。

 私をこの仕事場に放り込めば勝手に進めてくれるとでも思っているのか。

 私はソフト屋であってハード屋じゃない。問題の基板を渡されてからが私の仕事だ。だからこの段階ではやることがない。

 基板が上がったら改めて呼んでくださいと言い残して私も帰る。


 あああ、時間の無駄だ。

 たった40万円のしごとでもう四か月潰されている。自分の我慢強さに呆れる。

 私は誰にも大事にされたことがないので、相当ひどい目にあってもそれが普通だと思ってしまう悪い癖がある。


 怒ればよいのである。怒鳴り散らせばよいのである。

 怒りっぽい人間は誰もが礼儀正しく扱ってくれる。

 腕が太い人間は殴られたくないので他人に大事にして貰える。

 我慢強くて誠実な相手には、人間はありとあらゆる悪い点を見せて来る。

 そしてそれに耐えられなくなって最後には縁を切る。

 だから私には友達というものがほとんどいない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る