第6話 ヒロインのカラクリ
お母様が帰宅したので応接室へと執事に声をかけられ、お兄様とブランシュ様と移動する。
正直、どんな話が行われるのか私には全く検討がつかないけど、お兄様の諦めたような困ったような表情にいい予感はない。ブランシュ様は淑女の微笑みで何も読み取れない、流石すぎる。
「お待たせしてごめんなさいね」
「ご帰宅早々に無理を言い、申し訳ございません」
綺麗に頭を下げるブランシュ様にお母様も気にしないで、とそれぞれソファに座る。
「早速ですが、リリアナにお義母様のご実家、ミラナ伯爵家について説明が必要な時期かと思いまして・・・。
他家のことに口を挟む無礼をお許し下さい」
「そう、やっぱり始まってしまったのね。
ブランシュ様、お気遣いありがとうございます。また嫌な役目をさせてしまって、ごめんなさい」
「いいえ、そんな!タイミングを見ていらっしゃったかもしれないのに、私が不躾に口を挟んだのです」
「ふふ、リリアナもジャスティンも大事にしてくれてありがとう。
あなたが私の娘になってくれる日が楽しみだわ」
ブランシュ様もお母様も優しい笑顔でほっこりしていると、お母様と目が合った。
「リリ、あなたに今まで話してなかった私やあなたの祖母の話をこれからするわ。
色々戸惑う内容もあると思うけど、しっかり聞いてね」
何時になく真剣なお母様に、否が応でも緊張が高まる。
「私の実家が伯爵家なのは知っているでしょう?
でもお父様は男爵家、違和感を感じたことはなくて?」
「爵位が・・・」
「そう、婚姻で爵位の差がある事は珍しくないけど、男爵と伯爵や、子爵と侯爵などあまり差がある家同士が結びつくことは無くはないけれどとても珍しいことね。
これは知っての通り受ける教育も、求められるマナーも違うからよ。
でも、私はお父様に嫁いで来たし、あなたやジャスティンも男爵家で必要とされるよりも高い教育がされて来ているの。
なんでだと思う?」
「高い教育が必要、つまり高い教養や知識やマナーが求められる可能性がある。
まさか・・・」
「ええ、そのまさか。
あなた達が高位貴族と結びつく可能性があるから、ね」
男爵は爵位としては貴族社会の最下位。
平民が高い実績などで受ける爵位でもあるので、あまり高い教育やマナーは求められない。男爵家の子女は平民へ嫁ぐ事も普通にある。
その男爵家の私やお兄様が高位貴族と婚姻を結ぶのは非常に稀なはずなのだが・・・。乙女ゲームじゃあるま、いや乙女ゲームの世界だったわ、ここ・・・。
「続けるわね?
私やあなた達のこのピンクブロンドの髪はね、ミラナ伯爵家の直系の証でもあるのは知っての通りよ。
そして、高い魔力の保持者である証でもあるの。
リリアナもジャスティンも平均より遥かに高い魔力を持っているでしょう?
これは、伯爵家の祖先に関わるお話なの・・・」
◇ ◇ ◇
お母様の実家である現伯爵当主から10代ほど遡るのだが、当時の伯爵家の嫡男がとある精霊を見初めた。
精霊は伯爵家の領地にある湖に来ていたところ、花の香りに誘われた嫡男と出会い、嫡男に一目惚れだと全力で口説かれ見事婚姻に至った。
当時は珍しいとはいえ、妖精や精霊とはまだ会えた時期だったと言う。その後、密猟されたりなどの事件が起こり、精霊は精霊界へ帰り、妖精たちは隠れ里に隠れたと言う。
閑話休題
その後恙無く伯爵家は平和に暮らし、精霊は嫡男との間に子供を授かった。
その女の子は精霊と同じピンクブロンドの髪をしていて、非常に高い魔力を持っていた。彼女は婿を取り、その後も特に問題は無かったが、5代前の時に生まれたピンクブロンドの令嬢の時に問題が起きた。
令嬢の名をロゼリアリリーと言った。
彼女は王家で主催される子供のお茶会で同じ伯爵家の次男であるウィリアムと言う少年と意気投合した。同じ伯爵家同士、お互いの両親も良き縁だとトントン拍子で婚約は進み、王家に書類も提出し、問題なく承認された。
2人は非常に仲睦まじく、お互い「リリー」「ウィル」と愛称で呼び合い、家を行き来して関係を積み重ねていた。
そして学園に入学するのだが、そこで不幸が始まる。
美しく成長したロゼリアリリーに当時の公爵子息が一目惚れしてしまったのである。
子息から再三婚約を申し込まれるが、既に婚約をしており、家格も違うことからお断りしたものの、子息は納得しなかった。
子息はあらゆる手段を用い、ロゼリアリリーの婚約者の家にも圧力をかけ、脅迫に近い形で無理やり令嬢の婚約を婚約者から破棄させ、令嬢との婚約をもぎ取った。
子息にとっては我が世の春だったのだろうが、令嬢にとっては苦しみでしか無かったが家のため、元婚約者のため、嘆く心を押し殺していた。春のように柔らかだった令嬢の笑みは、どこか寂しさを感じる淑女の笑みに変わったと言う。
一見平穏を取り戻したと思えたある日、異変が起き始めた。
令嬢の周りの男性の態度が豹変したのだった。
婚約者のいるロゼリアリリーに我先にと群れるように囲み、自分なら令嬢を解放してあげられる、などと言う。ロゼリアリリーはこの状況に恐怖し、徐々に体調を崩すようになるが、それに比例して益々多くの男性は彼女に惹かれずにはいられなくなって行った。
同時にロゼリアリリーに多くの男性が言い寄ることに公爵子息は怒り、お前がふしだらな女だからだと罵倒するようになる。
そんな様子が社交の場でも見られ、彼女が何もしていない事は多くの貴族も知っていることだったので同情が集まったが、それもまた公爵子息の怒りに触れロゼリアリリーはひかすらに責められていた。
とうとう王家が調査に乗り出し、精霊の研究者の調査により、精霊には身を守るため無意識に魅了を使うことがあることが分かった。精霊の血を引く令嬢も恐らく魅了の力があるだろうが、望まぬ環境により初めて発揮されたのだろうとも。
また精霊は精神状態が生命に直結する傾向があるため、令嬢の健康が心配されると報告が上がってすぐに、令嬢が倒れたとの報告が上がった。ロゼリアリリーは伯爵家の唯一の跡継ぎでもあるため、伯爵家が王家に仲裁を求めて来て発覚したことだった。
至急令嬢の様子を見るために駆けつけた王宮の医師が目撃したのは、衰弱して起き上がることの出来ない令嬢の頬を叩く公爵子息だった。
婚約者とは言え、病床で身動き出来ない女性に暴力を振るう子息に激怒した医師は子息を追い出し、令嬢の治療と王家への報告も即座に行うと共に、喚き散らし暴れる公爵子息は騎士に拘束され公爵家へと連行された。
これにより令嬢は無事公爵子息有責で婚約破棄でき、魅了の力も収まった頃、元婚約者がのこのこと会いに来た。
疲れ切っていたロゼリアリリーは元婚約者との再婚約を断り、数多の婚約も断り、そのまま女伯爵として爵位を継いだ。女伯爵は数年後にひっそりと結婚し、やはり女児を授かった時に、合わせて王家より告知が行われる。
曰く、伯爵家に生まれるピンクブロンドの令息、令嬢に無理やり婚姻を迫る事を禁ずると。
如何にその美貌、魔力が魅力的であろうとも、魅力的であるからこそ、それを損なうことの無いようにとの判断が下された。
魅了を仮に封じたとしても、本人が衰弱ししてしまっては意味が無いので、それならば本人が危機感を感じていると判断出来た方が周りが対処出来ると。
ただし、魅了の力は魔力に比例して強くなるため、婚約が結ばれ一程度の年齢になるまで魔力制御などの訓練と伯爵家の曰くについて教育はしてはならないと決まった。
これは精霊の研究者であり、女伯爵の夫君から王家に奏上され、アルステア王国内での不文律となった。
◇ ◇ ◇
正直、話が思った以上に重かった。同時に「ああ、だからヒロインはモテるんだ!」と納得もしてしまった。やっぱり乙女ゲームのヒロインにはちゃんと裏があるんだ、知りたくなかったけどね!!
現実逃避をしたかったが、お母様もブランシュ様も逃がしてくれはしなかった。
「リリ、色々ショックでしょうが私が見るに、あなたの魅了の力が発動しているように見えます。
あなたを守るためにも今後の対応をしっかりしましょう?」
「リリアナ、ブランシュ様の言う通りよ。
我が一族の因縁を引き継がせて申し訳ないけど、昔のような騒動は回避しないといけませんわ」
「お母様、ブランシュ様・・・
わ、わかりました。まだ、しっかり状況が把握できていませんが、私もトラブルを起こしたくなんてないですもの!」
お母様、お兄様、ブランシュ様と話し合い、夕方には解散した。お父様にはお母様とお兄様から共有を行うこととなり、病み上がりの私は翌日から学園もあるため早めに寝かされたのだった。
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