第3話 もしかして、もしかするらしい

 王侯貴族と一部優秀な平民にも開かれている王立学園は、平民にとっては上質の教育が受けられる場所であり、将来の職のための人脈作りの場でもある。

 貴族にとっても人脈作りはもちろん大事であるし、学園はデビュタント前の社交の場なので名目上「学生は平等」とはなっていますが、これはあくまでも「ミスをしても、大目に見てあげるよ」でしかないので勘違いしてはいけないのです。


 ご招待を受けたお昼、珍しくアリアンローズ様とファナ様は別々に用事があるようで、途中でお別れして先に一人でカフェの特別室へと向かっていた。

 初めて入る個室の特別室は、解放的で明るく、そして一目で高級品と分かる上品な家具で彩られていた。

 そして、そこに既にいらした令嬢方が物凄く美しく、輝くばかりの美しさとはこう言うことを言うんだなと理解できる。


「やあ、君がグラース男爵令嬢かな?

 私はティティリエ、こんな格好をしているが、一応これでも伯爵令嬢だ。よろしく」

「こちらこそ!ご、ご招待に預かりました、グラース男爵家長女のリリアナです!」

「そんな緊張しなくていいよ、さあおいで」


 そう言って迎え入れてくれたのは長いストレートの銀髪を無造作にリボンで結い、騎士のような服装をした令嬢だった。

 正直、心の中ではなんて素敵!下手な殿方よりずっと格好良い!と大騒ぎだったから、なんとか表面上の冷静を保つのに必死だった。

 エスコートまで優雅で、まさに王子様!


 エスコート先に待っていた令嬢がまた、もう語彙力のない私ではお姫様のように美しいとしか表現できない、華奢で可憐な方だった。


「ごきげんよう、私はライラック公爵家の長女ミリアネアよ。

 アリア様からあなたのお話しを聞いて、今日お会いできるのを楽しみにしてましたのよ」

「お目にかかれて光栄でございます!アリアンローズ様にはいつも優しくしていただいております」


 緊張で固くなりつつもカーテシーをなんとかする私に、ミリアネア様は「そんなに固くならないで」とすぐ席へと行かせてくださった。

 金細工のように艶やかな金の髪は複雑に編み込まれスッキリとハーフアップにされ、同じく金のまつ毛に囲まれた瞳は淡いアクアマリンで、本当に妖精では?と思うくらいに美しい。


「ふふ、そんなに見つめられては照れてしまいますわ」

「し、失礼しました!本当にお美しくて・・・」

「君はアリアに聞いていた通り素直な子なのだな」

「ああああ、ありがとうございますっ」


 緊張でどもる私をお2人とも優しく見守ってくださって、本当に高位の方々なのにお優しい!!と感動しているとアリアンローズ様がファナ様と共にもうお1人、理知的な黒髪をシンプルにポニーテールにした令嬢と3人で合流された。


「ごきげんよう、みなさま。

 遅くなって申し訳ありませんわ、途中で面倒な人に捕まってしまいまして・・・。

 やっと逃げてきましたのよ」

「本当に、何だったのでしょうねあの方は」


 普段おっとりしているファナ様もお怒りのようで吃驚していると、黒髪美人な令嬢が私に微笑んでくれる。


「おふたりとも、一旦それは置いておきましょう。

 リリアナ様、とお呼びしてもいいかしら?私はファールス伯爵家の長女フランルージュと申します。

 どうぞフランルージュと呼んでくださいね?」

「光栄です!グラース男爵家長女のリリアナです。

 もちろん、リリアナとお呼びいただけると嬉しいです。」

「ふふ、元気で可愛らしいお方ね」

「そうでしょう~ リリアナ様は本当に素直で、頑張り屋さんですのよ」


 何故か自慢げに言うアリアンローズ様が可愛いので、よし!

 しかし、何とも豪華で奇麗で、学園でも有名な令嬢方が勢揃いしている!・・・ここに私が居てもいいのだろうかと不安になっていると、ミリアネア様と目が合い、にっこりと微笑まれる。

 美人は正義なのでいいかな!と思ってしまう自分の単純さが呪わしい。


「さあ、みんな揃ったのでランチをいただきましょう」


 ミリアネア様の合図と共に複数の侍女たちが出来立ての料理を各人の前に準備をしていく。流石高位貴族の令嬢方が揃う場だけあってカトラリーからしてランクが違う。

 お料理も豪勢だが、ランチであり令嬢用なのでそれぞれは小さめで食べやすいように心配りがされている。味も最高だ!

 アリアンローズ様やファナ様も美味しいとそれぞれに食事を進める中、ミリアネア様がふいに声をかけてきた。


「食べながら、少しお話しさせていただくわね。

 実は今日リリアナ様をご招待したのは、単にお会いしたいのもあったのだけどあなたにお聞きしたいことがあったの」

「はい、なんでしょうか?」

「・・・少し、聞きにくいのですが、リリアナ様に婚約者はいらっしゃいませんよね?」

「ええ、両親から特に政略を必要としていないし私に任せると言われてます」


 ミリアネア様が「やはり」と零すと、他のみなさまも頷いていて、何か不味いのか?!と焦りだした時に扉の方から言い合う声が聞こえてきた。

 不穏な空気に誰もが動けないでいると、部屋へと続く扉がバーン!と言う音を立てて無理やり開かれ、複数の男性が踏み込んできた!


「きゃあ!」と小さく悲鳴を上げた令嬢たちを無視してその男性はこちらを見て凄い形相で怒鳴り始める。


「やはり貴様が無理やり囲っていたのだな、ミリアネア!」

「まあまあ、突然なんですの?第二王子殿下ともあろうお方が令嬢同士の交流に乱入されるだなんて・・・。

 とてもとても、紳士がされる行動とは思えませんわ」

「また貴様は口の減らない!

 貴様が下位貴族の令嬢を虐げているとの噂を聞き、私自ら確認しに来ただけだ!

 そこな令嬢、もう我慢は必要ない私と共に行くぞ」


 そう言って、私に手を差し出してくる、第二王子殿下と呼ばれた男性。

 は?この人は何を言っているのだろうか??と動けないでいると、「さあ」と更に催促される。


「えっ、私ですか?!人違いかと思うのですが・・・」

「何、恐れることはない。この私が守ってやるから」

「いえ、あの、私は好んでこの場で、こちらの皆様と交流させていただいていますので!」

「可哀そうに、脅されているんだね」


 そう言って横から割り込んできたのは青い髪の青年だった。服装から、この方も高位貴族の方だろうし、青の髪と言うとミリアネア様のご実家と双璧をなす公爵家の方のような、悪い予感。

 と言うか、この方々人の話しを聞きませんね?お偉い方々でも、それはどうなんだろうと思っているとアリアンローズ様が立ち上がった。


「ルシアン様、わたくしの友人に失礼ですわよ」

「貴女も、下位貴族を虐める傲慢な高位貴族令嬢の一人だと言われてる自覚を持って欲しいのだが」

「事実無根の噂ですわねぇ。ちゃんと事実確認はされてますの?」

「君がここで彼女たちを告発すれば全て解決さ」

「告発・・・?え、何を?

 皆様が美しすぎて目に毒だとか?」

「ぷっ。リリアナ様、ありがたいが彼らはどうしても私たちが君を虐めてるとしたいようだよ?」

「えええええー!!ありえないです!

 ・・・・・・ありえないです!!皆様本当に優しいし、お美しいし、可愛いし!

 ご尊顔を拝見させていただけるだけで幸せなのに!例え他の方々に妬まれようとも、羨まれようとも苦にならないくらい!」


 そう言い切った私をアリアンローズ様は、よしよしと頭を撫でて下さり、ファナ様は手を取って「ずっと仲良くしましょうね」と笑いかけて下さる。


「ご本人はああ仰っていますわ?

 それで、あなた様方は私どものお昼を台無しにしてくださった訳ですが、いかがなさいますの?」


 そう冷たくフランルージュ様が仰ると、第二王子殿下は舌打ちして謝罪もなく「行くぞ」と去って行かれた。

 ミリアネア様始め、私以外の令嬢方はそれはもう怒り心頭だったのできっとそれぞれの実家から各家と王家に抗議のお手紙が届くことだろう。しかし、第二王子殿下・・・態度悪過ぎでは?王族ですよね?


 その日、色々ありすぎたせいか、夜になって私は熱を出してしまった。幸いにして週末前だったので週末はベッドで過ごすことになり、前世の記憶を思い出した。

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