第2話 転生したらしい
思い返してみると自分が転生者かも、と気付いたのは幼い頃。
何となく違和感を感じる事が多かった、という記憶。例えば、道を走る馬車を見て、何故「馬車」なのだろうかとか。
そして自分の髪を見ると儚くも美しい花を思い出すくらい。
後からあれは満開の桜並木だとちゃんと思い出したけれども、私はこの国で生まれ、男爵家とは言え貴族として育った。
アルステア王国の王都にほど近い、小さな領地を持つグラース男爵家の長女リリアナ。
それが今生の私。
母に激似の私は母と同じゆるく波打つピンクプロンドの髪と、唯一父の血を感じる父と同じ空色の瞳。
3歳上の兄も同じくピンクプロンドだけど、顔立ちは父に似てスッキリとした美男子だ。
しかし、何故乙女ゲームのヒロインって髪ピンクなんだろうか・・・ この国、この世界には確かに様々な髪色の人が居るけれども、ピンクはやはり珍しい。いや、本当に、とてもとても珍しいんだ。
母の血筋だと思うけど、ピンクブロンドは祖母と母くらいで、祖母の前も曾祖母1人なんだそうだ。母は私と兄2人もピンクブロンドが生まれたので凄く珍しい事だと幼い頃に教えてもらった記憶がある。
なにはともあれ特に困る事も不安もなく、私は男爵令嬢として過不足なく成長して順調に王立学園と入学した。
学園は6年制なので兄は4学年に居て、新1年で必要な情報も教えてもらっていたので私は意気揚々として学園の門を潜ったのだが、この時点でもこの世界が乙女ゲームの世界だとは全く気付いてなかった。
幸い私の入試成績は悪くなかったので伯爵家や侯爵家の方々も居る上位クラスに入る事になった。入学式が終わり、クラスに着くと既に何人も来ていたが、知り合いがいないため尻込みしていたところ、奇麗なオレンジの髪をツインテールにしている令嬢が声をかけてくださった。
「少しよろしくて?もしかして、あなたはグラース男爵家の方?」
「は、はい!グラース男爵家の長女リリアナと申します!」
「ふふっ そんな緊張しなくていいのよ?私はマリーナ侯爵家の次女アリアンローズよ。
王宮であなたのお兄様とお話することがあったから、もしかして?と思って声をかけたの。
これから、同じクラスだから仲良くしてね?」
「光栄です、ぜひよろしくお願いします」
「んもう、硬いわ。でも、初対面だもの、少しずつ慣れてね?
そしてこちらがファナ様よ」
「メディル子爵家の三女ファナです。よろしくね」
「メディル子爵・・・!あの広範囲結界を開発された?」
「ええ、あれはお父様とお姉様の傑作だったわ。あなたも魔術好き?好きならぜひ今度お話ししましょう」
こうして、アリアンローズ様とファナ様に出会った。お二人とも華があり、特にアリアンローズ様は侯爵家の令嬢なので失礼があってはいけないと緊張していた私に気さくに話しかけて下さり、ランチや放課後にカフェやショッピングに誘ってくださる。
流行に敏く、むしろ十代のファッションリーダーであるアリアンローズ様はあまり高価ではないが可愛いアクセサリーやお洒落に詳しく、非常にお世話になっている。
「リリアナ様にはこういうのが似合うわ」と一緒に行ったブティックでお薦めされたドレスは薄い黄色のオーガンジーを重ねた柔らかい印象が物凄く可愛かった。
アリアンローズ様曰く、オレンジの彼女の髪も私のピンクブロンドも髪色が鮮やかなので、ドレスは抑えめにすると全体バランスが良くなるのだと。その日はファナ様と3人で色違いで、差し色を同じにしたドレスを購入したので、今度お茶会に来ていくのが楽しみになった。
ファナ様は魔法研究で有名な子爵家の令嬢で、お父君が爵位に興味がなく爵位が上がると面倒だと陞爵を断られているような方だ。ファナ様自身はおっとりされているが、とても優秀でやはり魔法学では色々教えて下さる。
ファナ様曰く、私の母の家系は魔力が多い事で有名で、私自身もかなり多い方との事で折角ならその魔力を活かしましょう、と様々な魔法を教えていただいた。その過程で判明したのだけど、どうも私は普通なら幼少期より受ける魔力制御と魔力成長の訓練を受けていないことが分かった。
折角なので試してみる事になり、放課後に魔法の演習所にファナ様と集まる事になった。
この世界には魔法があり、平民にも多少なりとも魔力があり生活魔法と呼ばれる小さな火を起こしたり、濡れたものを乾かす魔法などは一般的に知られている。同時に「魔道具」と呼ばれる魔力を通すと使えるランプや水道、洗濯に冷蔵庫などが一般的に普及していて、上下水道もあるため前世の記憶が多少ある私でも不便なく生活できている。
また、王侯貴族は平民よりも強い魔力を持つことが多く、国の防衛やさまざまな研究を行っている。そのため、貴族の常識として幼い頃より魔力制御と魔力成長の訓練をするとの事なのだけど・・・。
言われてみれば、兄がそんな感じの動作していた繰り返していたのを見たことがある気がする。それならば、両親が知らなかったことはないと思う。何か理由があるとは思うけど、今は分からないので、ファナ様の言う通り意識を集中してみる。
「まずは知覚するところからですので、手のひらに力を入れるように集中して見て下さい」
「手に力を・・・ こう、でしょうか?」
「そうです、筋力ではなく、気持ちを集中するように」
ファナ様の声のままに気持ちが手のひらに集中し、温かさとは違う不思議な感覚が生まれ、花のような香りがしたような気がする。
「上手く、できたでしょうか?」
ファナ様の方を見ると、目を見開いて吃驚されていた。
「ええ、とてもお上手ですわ。でも、一気にやりすぎるのは良くありませんし、今日はここまでにいたしましょう?
それと、ご帰宅されましたらご両親に今まで訓練されていない理由をお伺いした方がいいかと思いますわ」
確かに、気になるので聞いてみよう、と心に決めて演習所をでたのだけれど、終わり間際のファナ様の態度が気にかかった。何かを抑えるような、我慢しているような、そんな雰囲気を感じたのだけど何かあったのだろうか・・・。
魔力制御の訓練をファナ様と試した後、帰宅して母や兄、父が揃った夕食の席で魔力制御について聞いてみた所、物凄い勢いでどこまでできたのか異常はないか事細かに聞かれた後、母の家系の特性で下手に始めてはいけないのだと説明された。
兄は幼い内に問題ない事が確認できたので、通常通り貴族として魔力制御や魔力育成の訓練が行われていたとの事だった。
翌日ファナ様にもそのことを報告し、ファナ様もお父様から他家の事情を確認せずに行動するとはなんて危ない事をするのかとお𠮟りを受けたそうだ。私には何もなかったし、気にしないで欲しいとファナ様にお伝えして、今後も今まで通り仲良くして欲しいと伝えると「喜んで」とほころぶような笑顔で答えて下さった。
その後も特に変わりない生活をアリアンローズ様、ファナ様と一緒に過ごしていたある日、見知らぬ男子生徒に声をかけられた。
「あの!君は同じ1年の女生徒だと思うのだけど、あっているだろうか?」
「私ですか?ええ、今年入学しました者です」
「そうか!是非君に頼みたいことがあるのだが、協力してもらえないか?」
「ええと・・・ どんなご用件で?」
「大したことじゃない、さあ頼むよ!」
「いや、あのっ!」
変な人だなと警戒はしていたけれど、手首を捕まれ流石に私も焦る。どうしよう。
「そこで何をなさっていらっしゃいますの?
そこのあなた、確か子爵家の方でしたわよね?わたくしの友人になにか御用?」
「いや、ちょっと頼みたいことが・・・」
「なにか、わたくしの、友人に、御用ですの?」
「くそっ」
男子生徒は私の手を投げ捨てるように放すと、逃げるように去って行った。アリアンローズ様がいらっしゃって良かった・・・!
「アリアンローズさまぁ・・・」
「ご無事で良かったですわ、怖かったですわねぇ」
アリアンローズ様に慰められ、ファナ様とどちらかと行動するようにと約束した。
そして、たまに知らない男子生徒の視線を感じることが増えた頃、アリアンローズ様より親しい上級生のご令嬢方を紹介したいと、ランチのご招待を受ける。
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