第13話 彼女の正体
「私の名前だけど
求めてもいないのに自己紹介をされた。
今の若い子は察しが悪いのかもしれない。
だったらはっきり伝えた方がいいのか?
「そのあんまりよろしくしたくないんだけど……」
「え……? 今なんて?」
「ち、違う! 今のは言葉のあやで!」
「そうだよね……おかしいと思ったんだよ。急に私の目の前からいなくなっちゃうし、ギルドに行っても個人情報だから教えられないって言われるし。迷惑だよね、私……」
はぁ……俺も女性の扱いにはなれないと。
今までは女性と言っても男っぽい――所謂、ボーイッシュ系の女性としかこんなに長時間話したことがない……いや、そんなのは言い訳に過ぎないか。
でも彼女がこんなにもショックを受けるなんて。
だったらここは少しでも大人の対応を。
「俺の名前は白峰タケル。今日、探索者になったばかりの〈
「茜って呼んで」
「な、なな、なぜ!?」
「やっぱりタケルさんは……私のこと嫌いなんだ」
「茜……ちゃん」
「うん、よろしくねタケルさん! 因みに私、ダンジョン探索系アイドルやってるの」
「ああ道理で……って何、その探索系アイドルって。まあ、それは良いとして噂になってたよ茜ちゃんのこと」
「それってどんな噂?」
言ってもいいものだろうか。
危険な場所にも関わらず探索者を雇おうとしない頭のおかしいアイドルっていうあの噂を。
いや、でも彼女を傷つけるのはよくない。
「いや〜最近ダンジョンで可愛い子がいるって噂だよ」
「それって私のことでしょ!?」
あ〜やっぱりこの娘はそういうタイプの。
「そうそう。君のことだと思うよ」
「茜! 私の名前は茜!」
「ごめん茜ちゃん。つい癖で」
「ふーん、でもタケルさんが助けてくれたのはそんな可愛い美少女が魔物に襲われてたからだよね?」
「ちが…………」
茜ちゃんは顔を歪めている。
違う、そう言い掛けたからだろう。
ここはよく考えて答えた方が良さそうだ。
「『ちが』ってなに?」
「違わないってことだよ。そりゃ可愛い女性が困っていたら助けるに決まってるじゃないか〜あははッ!」
「だよね。そんなタケルさん大好き」
「あはは、おじさんは嬉しいな〜なんて」
「ヤバッ、そろそろ時間なんですけど! タケルさんまた明日ね!」
そう言い残して茜ちゃんは明るい街の中に消えて行った。
また明日って明日も顔を合わせるのか?
これからのダンジョン探索が一筋縄ではいかない、そんな気がするのは俺だけだろうか。
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