第9話 苦い過去

 俺はあの女性を救うべきか迷っていた。

 もしかして彼女が魔物の主の可能性もあるからだ。一人で話していたのも、魔物に話していた可能性もあるからだ。

 異世界にも人に化ける魔物を実際見たことがある。だから疑いたくもなるのだ。


 という考えに至った俺は彼女と魔物が見える距離にまで接近すると、ササッと茂みの中に隠れた。

 小枝がチクチクして痛いがここは我慢だ。

 あの魔物にタコ殴りにされるよりは痛くない。

 そう思えば乗り切れる、はずだ。


 この判断になったのも異世界で経験した苦い思い出があるからこそ。


 過去に俺は人助けと称して、勇者パーティーの皆に止められていたにも関わらず正義感から魔物に襲われているであろう女性を助けようとした。

 しかし何とその女性がみるみる巨大なキングスラスラと呼ばれる液状化の魔物に変化したのだ。そして全身タコ殴りされ意識を失ったことがある。


 そんな苦い経験から俺は慎重にをモットーに今まで生きてきた。

 今ではあのキングスラスラにも感謝している。

 あんな虚しくて恥ずかしい経験をしていなかったら今頃、俺は間違いなく飛び出して、彼女を助けようと呆気ない敗北路線に進んでいただろう。


「いや〜あのタコ殴りは痛かった。素早い怒涛のパンチ、あれはまさしく格闘家だ。それともあのキングスラスラはとっくにそういう大会で優勝してる猛者なのでは!」


 いかんいかん、今はそんなことより観察だ。


――――――――――

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