第5話 俺は悪くねぇ!!~(自称)天才イケメン王子の断末魔~
「王子、ネトリック王子!お部屋から出てきてくださいませんか?!」
ドアの外からは心配し俺の名前を呼ぶ従者の声が聞こえるが、無視する。
――――どうしてこうなった。
……部屋の隅で小便を漏らしてガタガタ震えながら、俺はなぜこんな事になってしまったのかと思い返していた。
最低最悪の勇者、エリオットのクズ野郎が魔王にとどめを刺さずにあろうことか人類を裏切り、掌を返して敵前逃亡をしやがってからまだ30日もたっていない。
だが既に魔王軍は王都近くまで進行してきており、それだけでなく近隣諸国までもが連合を組んでいるばかりか教会も最終的に連合軍に加わって王国かそれ以外かという状態での戦いになってしまっていた。
特に騙されて戦争に加担させられていた、王国王族許すまじと近隣諸国の怒りはすさまじく、最低でも王国の王族は血族根絶やしにせよ!と息巻いている。
さらに王国内でも、王族に近い貴族派はこちらについているが、愚かにも王族に逆らうクーデター派もでて王国内すら真っ二つに分かれている。王都も今では随分と物騒になっているという話だし、王城の王族以外全部敵だよこれじゃあ!!
まるで、世界中が罪のない俺をいじめているみたいだ。酷い、ひどすぎる……!!
俺がいったい何をしたっていうんだ!!バカな女達を俺のいいなりにしてヤリまくって、平民上がりの勇者を始末させるように言った事がそんなに悪い事かよ?!きちんと王族らしい懐の広さで魔王を殺してから始末しろっていう配慮もみせたんだぞ?!?!?!わけわかんねえよ!!!!
金と地位と美しい顔を使って人の婚約者とか人妻とか誰かに恋する女を寝取って無責任にヤリ捨てたり托卵するのは俺の健全な趣味で、それだって誰にも迷惑かける事じゃない。
なんなら尊い王族の血を継ぐ者が増えるから国にとっても有益だからむしろ褒められてしかるべきっ!ぐらいの事なのに。
それに王族は王国で一番偉いのだから邪魔になったら適当に理由をつけて始末したり領地没収したりだって出来るのだ、パパだってそうしてる。
だから俺が理不尽に責められたり叱られる筋合いだってない筈!!
魔族の娘を攫って売り飛ばしていたのだって、そのお陰で随分儲かったんだし誰も損してないじゃん!何が悪いんだよ!!
「俺は悪くねぇ!!」
込みあがる怒りに、床を殴りつけたら手が痛かった。これも勇者のあのド外道のせいだ!!!ちくしょおおおおおお!!
……勇者パーティーを篭絡しながら勇者を始末すように示唆していた俺の映像は国内外にバラまかれまくって広く伝わっていて、最初は見たことのない道具だったからトリックだ、魔王軍が魔法で騙そうとしていると喧伝し誤魔化そうとした。
そのお陰で一旦は事実を有耶無耶にしながら魔王軍の迎撃に勇者パーティーの女3人を向かわせることが出来た。
だが元勇者パーティーを含めた王国軍主力部隊は壊滅し、ヒルデは戦死、マルールとセシリアは消息不明になったようだ。
暗殺に失敗するだけでも使えない癖に恥の上塗りをかさねるどうしようもないバカ女どもがよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!思い出すだけで腹が立つ、殴りながらブチ犯してやりたい位だが死んじまってるのがなお腹が立つ!!くそっ、くそっ!!
おまけにあの道具を作ったというドワーフ工廠から勇者パーティのトールが開発した新しい技術であることと同時に映像が真実であると追加の証拠と共に名乗り出たおかげで映像はフェイクで誤魔化すこともできなくなった結果が今の状況だ。
そもそも、勇者パーティーが女3人で全員寝取ったと思ったら、追加の仲間が増えるというのがおかしいのだ。途中で旅に加わったトールという戦士に関しては出身国も何もかもわからなかったし、セシリアの訴えもあったので俺の天才的なプリンス頭脳で華麗に謀殺することにした。幸いにも策は成功し戦いの中でどさくさにまぎれて再起不能にすることはできた。生き延びてしまったのは惜しいが、戦闘力を奪えたのなら恐れることはない、そのはずだった。
何もかも完璧に、事はエレガントに運んでいた筈なのに、どうして……どうしてこんな事に……。
絶望の中で、ふと思い出した。王城には最終兵器があるではないか!王国に伝わる最後の切り札、あれを使えばいいんだ!!
俺は天才的なプリンス頭脳のひらめきに感謝し立ち上がると、漏らした小便で気持ち悪くなった服を着替えて王城の地下へと急いだ。王家の血を引くものしか入れない隠し扉の奥には、巨大な魔導具の装置がある。
これは王城に危険が迫ったときに使う最強の防御壁で、王都に住む人間の生命力をマナに変換して魔法の防御壁を発生させる装置だ。幸い、王城には非常食を含めて10年分近い食料はあるし水もあるし中庭では食材を育てていたりする。
そうだ、簡単な事だったんだ!!俺さえ助かればいいんだ!!どうせ国民なんて国がなければなんともならない取るに足らない命なんだから兵士として肉の壁になって死ぬのも魔法の障壁に命を吸われて死ぬのも変わらないだろうし。
むしろ尊い俺の命を救うために死ぬのだから喜んで命を差し出すだろう。
「さぁ、魔法の障壁☆起動!!ヤッターこれで俺の勝ちだぁ、ワハハハハ!!」
装置のレバーを引くと、ゴウンゴウンという音の後に地響きが鳴った。城の中が騒がしいが無視して俺は軽くなった足取りで王の間にいくと、皆がバルコニーから王都の様子を見ていた。王城をすっぽりと囲うように薄い赤色をした障壁が産まれている。よしよし!王城の魔法障壁は発動しているぞー!!
都市をみている衛兵たちは、バタバタと倒れていく王都の住人を心配しているようだ。どうやた自分たちの家族の心配をしているらしい。そんなのどうでもいいだろ、それよりこの城が完璧で安全になった事を喜べばいいのに。これで俺は安全だ!!
「ネトリック、お前まさか王城の魔法障壁を起動したのか?!」
「パパ!そうだよ、これで王城は安全だよ!!」
国王でもあるパパが震える声で話しかけてきたので安心させるように笑顔で返すと、怒りの表情と共に怒鳴ってきた。
「なんという事をするのだバカ者!!あの装置は一度起動してしまったら範囲内、王都の人間の命を吸い尽くして魔法障壁にしてしまうものだ。安易に起動してはならんものなんだぞ!!」
「なんでぇ?!だってそうでもしないと王城が攻められちゃうじゃないか!そうしたら俺もパパも殺されちゃうじゃないか?!」
「当たり前だ!!ワシもお前も、弟や妹も含めて王族の首を差し出す前提で停戦の話をすすめておるところなのだ。
お前は確かに才気に溢れていたが、お前に万事を任せすぎたワシに責任がある。魔王軍にも、他国にも、溜飲を下げてもらうには王族の首を差し出すしかない。王家はここで断絶だ。
最早王国の分割解体も免れんが、こと此処に至ってはせめて国民の命と安全を保障してもらうよう嘆願するしか我々にできる事はあるまい。王都に暮らしていただけの国民には罪はないからな」
「はぁ?!なんで虫けら以下の命の価値しかない国民なんかのために俺が首を差し出さなきゃいけないんだよ!!!―――ふざけんなお前が死ね!!」
俺はパパ―――いや暗愚の国王の首を即座にはね、そして悲鳴を上げる従者や衛兵たちに宣誓した。
「王は俺が討った!!これからは俺が国王だ!!これからお前達にはこの絶対安全な魔法障壁の中で暮らしてもらう!!」
だが俺のそんな素晴らしい宣誓を邪魔するかのように、魔法の障壁に“ナニカ”がぶつかった振動で城が揺れた。
驚き窓の外を見ると、大鷹の背に乗った片眼鏡の男が障壁の外から両手をこちらに突き出し、何かを障壁にぶつけている。ぶつけているのか衝撃波か?人間じゃない、魔族か!
「あ、あれは魔王十将のインパクターだ!!」
兵士の一人が叫ぶが、まさか、インパクターだとぉ?!トールと決着がついてから戦線には参加していなかったはずなのに、そいつがどうしてこんなところに?!
「魔族がわざわざ何をしに来た!貴様は戦列を離れたんじゃなかったのか!!」
人ごみをかき分け、バルコニーから身を乗り出しながらインパクターに叫ぶ。
「良く聞けネトリック。ワシが戦線を離れておったのは、ワシとトールの勝負に水を差した者を調べておったからだ」
……まずい。こいつ、俺がやったことに気づいているのか。まさか、俺を始末しに……?!
「ハァ、ハァ、だが衝撃波ごときで王都数万の命を吸った魔法の障壁が破られるはずが―――」
「五月蠅い、魔王十将を舐めるなぁ!!」
魔法の障壁にバキバキとひびが入る。嘘でしょお?!王都の数万の命を吸ったはずなのに!?!?!?魔王十将は化け物かよぉ!!
「ワシは決して王都の人間を救うためでも、勇者の報復に手を貸しにきたわけではない。だがな、戦いの趨勢というものはお前のような愚か者に好きにさせるものではない!戦士と戦士が、魔王十将と勇者達が死力を尽くして戦った先でなければならなかったのだ!違うか、違うか、違うかぁーっ!!」
インパクターの叫びと同時に、ガラスが割れるような音が響いた。……折角起動した王城を護る魔法の障壁が砕け散っていく。
「―――じき魔王軍の主力も、近隣諸国もこの都市にたどり着く。楽には死ねんだろうな」
最後の切り札、防御を破壊して、丸裸にして……ここで俺に手を下さないというのは、惨い拷問の末に死ねというのか。それとも、俺は直接手に駆ける価値もないというのか?!ふざけるなぁ!!だが、そんなインパクターの言葉に愕然としていたその隙を突かれて兵士に組み伏せられてしまった。
「この逆賊を捕らえろぉ!!」
「父殺しは例え王子だとしても許されぬ!!」
城の兵士たちが俺を捕まえて自由を奪う。し、しまった!!インパクターに気を取られすぎて無防備だった!!
「この無礼者めらがぁ、この卑怯者らがぁ、おれは王子だ、プリンスだぞぉ!!はなせ、はなしぇええええええええええええええええ!!」
縛り上げられる俺を見下ろしていたインパクターは、懐から葉巻を取り出し口にくわえたあと、俺を一瞥してから飛び去って行った。
「俺が、俺が、終わる?こんなところで?!俺は世界を手に入れる英雄っ!のはずでしょお?!い、いやだ!処刑なんていやだ!いやだ、ヤダヤダヤダ、ヤダアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!死にたくない、ちにたくないよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
ブッチチブチブリュリュと糞尿を漏らす音を聞きながら、俺は喉の奥から悲痛な叫びを絞り出すしかなかった。
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