0‐5 恋の味付け
俺、舞香、七瀬さんで作った料理は美味しいに違いない。
俺の主観によれば手際が良かったからさすがだなと感じた。
今はテーブルの上に料理が並んでいる。味付けはもちろん抜群だ。俺が保証する。
後は食べるだけだけど相変わらずテレビを遮る舞香がいた。まぁ食事中にテレビはいらない派かな、俺は。多分だけど俺の近くにいないと気が済まないのだろうといつものことのように無言を貫いた。
それよりもテーブルが小さいことに気が付いた俺は舞香と七瀬さんに謝ろうとした。今のテーブル上は話にならないくらいに食器類に埋め尽くされていた。誰がどう見てもきつそうだろう。
「あ~ごめん、テーブルが小さくて」
右手で首筋をかきながら言った。別にこれで面子が保たれた訳じゃない。でもそれでも言わないよりはマシかなと感じていた。
俺の中でテーブルの件について誰よりも早く反応してくれそうなのが舞香だった。今にも舞香の口が動き出そうとしていた。
「大丈夫! 私んちもこんな感じだから! 大智は悪くないから!」
舞香の機転は俺の心にオアシスを与えてくれた。まるでカラカラ砂漠に憩いの場が生まれたようでもあった。
一連の流れにやや嫉妬したのか七瀬さんの表情が怪しくなっていた。まるで雲の影が顔を覆ったようだった。
「私も一人暮らししてたら良かったのかな?」
七瀬さんの嫌味というよりも願望に近いと感じた。なんだかんだで七瀬さんも人が良さそうだ。でもそれなら俺との出会いがないことになるからここはフォローしないとな。
「あー! 一人暮らしも良いけど俺の実家のテーブルも良いぞ! うんうん!」
あのどでかいテーブルは今でも覚えている。今になって思えば大きいとさえ感じる、本当に。
「なにそれ~? 大智って面白いね! 七瀬さんもそう思うでしょ?」
別に面白くした訳じゃないけどまぁ終わり良ければ全て良しか。
それよりも七瀬さんのことが心配だ。嫉妬によるストレスをためてなければ良いけど。
「フフ。本当に! です」
七瀬さんが笑った。なんとか切り抜けられた。舞香の言葉に対して七瀬さんは二重に掛けたんだと俺は感じた。素晴らしい返事に俺は感銘を受けそうだった。
それにしても腹が減った。そろそろ会話が終わりそうだし食べるように促すか、ここは。お腹が鳴る前に俺は言い始めた。
「あ~食べないか、そろそろ」
せっかくの手料理が冷めるのはもったいない。それになによりも誤解なくここまできたんだ。この関係を壊したくはない。
舞香も七瀬さんもこれに賛同して欲しい。それが今の俺の願望であり切実に思うところだった。むしろ食べて美味しかった時の記憶とかを共有したかった。それこそ平和な世の中でできる唯一の楽しみだからだ。
「良いね! さすが大智! 分かってるぅ!」
空気を読んだことを舞香に褒められた。なんだか不思議な気持ちだ。女々しいかも知れないけど俺にとって守らないといけないのは舞香と七瀬さんなんだ。後になって後悔したくないから今を懸命に生きたい。だから俺が強く生きないといけないんだ。
「佐崎さん! 千鶴さん! 私……ここにきて良かったです!」
良かった。一時はどうなるかと思ったけど今は元気そうだ。本当に俺の家族は罪深いよな~って思っている場合なのか。
「うん! 私も会えて良かった! ささ! 食べようよ! みんなでさ! 温かい内に! 冷めちゃうよ? ね?」
舞香が切り持ってくれた。もうここまできたら安心だろう。舞香も七瀬さんも俺も仲が良くなっていた。こんなにも幸せなことはない。なにもないに越したことはない。それが俺のモットーだ。
「みんな! お待たせ! それじゃみんなでぇ?」
いただきます! と三人同時に言った。勢いのままに食べると三人の中で誰よりも美味しいと感じた。なんて至福の時なんだろう、食べるは俺にとって三大の内に入るから。こんなにも愛されていることなんてない。
俺はいつまでもこんな幸せが続きますようにと心に願いひたすらに食べ続けたのだった。この手料理は間違いなく恋の味付けが効いていた。
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