0‐4 三角のあいづち
なんとかマズい状況から一転した。
七瀬さんはソファに座り俺と舞香はカーペットの上で座り込んでいた。正確に言うとなぜかテレビを遮るように舞香はいた。なぜかは分からない。単純に俺の近くにいたかっただけかも知れなかった。
「それで? いちようその七瀬さんは大智の許嫁で良いの?」
少し嫉妬しているのか真顔というよりかはやけ気味に見えた。でもそれでも無言で最後まで本当に聴いてくれた。これは凄く助けられたな。
「そうだ。母さんと父さんの公認を得ていて急に許嫁になった」
もうここまできたら迷惑だなんて言えない。どうかそこのところは是非でも伝えたかった。
「でも追い返すのもあれだから同棲しようと思っている」
無茶なのは百も承知だ。むしろ逆に舞香がきてくれて良かった。ここまできたら愚痴などを聞き入れつつ話を進ませるだけだ。
「私より先に!? ……うーん。でも先を越されちゃった訳か~。そうか~。そうなのか~」
凄いな、怒っても不思議ではないのに。耐えてくれているのは助かる。本当に潔く謝らないといけない場面だ。
「このとおりだ! ごめん! もう仕方がないことなんだ! ここは穏便に済ませて欲しい! 頼む!」
テーブルの上に額を当てる勢いで下げた。こんなにも必死に頼んだことなんて無い。これはもう逃れられない運命なんだ。
「はぁ。分かった」
「有難う!」
「私も同棲する」
「へ?」
顔を下げたままの俺はなにを言われたんだ? 一体? ど、う、せ、い?
「同棲!? な!? なに考えてるんだ!? 舞香!?」
勢いよく顔を上げたものの冷静に考えたら不公平か。いやいや! ないない! あーでも舞香が我慢することになるよな。どうしよう、俺~。
「フフ。だから好きよ、大智のこと」
どんな表情をしていたのだろうか、俺は。ただ言えることは舞香も望むなら同棲でも良いのかも知れない。でもこれ以上に増えるなんてことはあってはならない、絶対に。俺の信頼に関わることになってしまう。
「同棲は――」
「諦めないでください! 確かに恋敵ですけど私の気が引けますから!」
七瀬さんがソファから身を乗り出し意を決したかのように言っていた。え? これってまさか三角のまま同棲するの? 俺達が?
「ううん。だって許嫁には勝てないもん。はぁ。もっと積極性がいるんだったな~。悔しいけど私の負けだ。でもね。婚約を諦めた訳じゃないから大智のことよろしくね、七瀬さん」
そうだよな。許嫁は先手の称号みたいなもんだよな。だからってここで舞香の味方にならないなんて最低すぎる。
「俺も舞香のことが好きだ、本当に抱き締めたくなるくらいに」
これで全てが終わったんじゃない始まったんだ。俺も舞香も七瀬さんもここからなんだ。結婚の為に
「あー私も大智の実家で居候しようかな~。そしたら追いつくかも」
そんなに俺のことを――。本気で実家に居候するのか。母さんも父さんも驚くだろうな。だって報告の前に許嫁がだからな。なんとも因縁があるようだ。
「うん! 決めた! 私も許嫁の公認が欲しいから居候する! って言いたいけど教えてくれないよね。ハハ」
さすがに親が困惑するとは言えず今は耐えるしかない。でもフォローもしないとな、絶対に。
「安心してくれ! いくらでもいてくれて良い! 三角でも恋敵でも協力し合えるはずだから! な! 七瀬さん!」
「そうですよ! 私達なら協力し合えますよ! 絶対に!」
「そう……だよね! 大智がそう言ってくれて七瀬さんもそう言ってくれて凄く嬉しいな! 私!」
舞香が涙声になっている。俺達よりも耐えているな。心を通わせられるなら今すぐにでも使いたい。願望を叶える為には会話が必須だ。
「なんなら一緒に料理を作ろう! うん! そうしよう!」
我ながら良い案を出したと思う。料理なら舞香も得意だしなによりも俺もできる。これならギクシャクすることもなく難なく過ごせるはずだ。
「良いの? ……七瀬さんは?」
「良いに決まってます! お互いに協力し合いましょうよ! 佐崎さんとならできると思いますから!」
「信じて……見ようかな? 二人を」
「ああ! 信じてくれ! 俺も信じるから!」
「信じてください! 私も二人を信じますから!」
「有難う! 信じる! 私!」
「良し! その意気だ! 舞香! 大丈夫だ! 俺がいる!」
こうして俺、舞香、七瀬さんによる三角のあいづちは終わり新しい形の生活が今から始まろうとしていた。
果たして俺、舞香、七瀬さんは無事に生活していけるのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます