第5話 魔力検知

三人が汚れ一つ無い白いパラソルの下に移動し、各々椅子に腰掛けると、間も無くして男性の使用人がカップにお茶を注いだ。

「マファイレグ共和国産のボブリ茶です。」

「香りも柔らかで、味も僕好みです。茶は昔から好きなのでこのような立派なものを頂けて嬉しい限りです」

(食レポの入門書買っておいて良かった……実際紅茶好きではあるから下手なことはいってないと思うな)

実際気難しそうなヘイリゲンも口を挟んでいないため、好感が下がることはないだろう。

やはり、茶は上手いとユーセングリスが感嘆を溢し、少し真面目な顔をして懍世に尋ねた。

「懍世殿、貴方は茶に詳しいように感じます。古くからの言い伝えられで、高度な召喚魔法で召喚された者は皆異国から来ているとのことですが、何処の御出身で?」

「日本という名の国からです。僕はマファイレグ共和国という場所……単語はここに来るまで聞いたことありませんので、恐らく言い伝えられは本当かと。ただ、茶やスーツなど僕の生まれ故郷と共通するものはあります」

「成る程……それは興味深い。では懍世殿、これを読んでくれますか?」

皮で作られたと思われる分厚い紙を渡される。そこには、懍世にとって到底文字とはいえない記号のような何かが連ねられていた。

「___いえ、僕にはさっぱり」

「そうですか。では、何故私たちはこうして意志疎通を図れているのでしょう」

「それは確かに___」

言葉が詰まった。

異世界ファンタジーを主題とした作品は沢山読んできたが、日本の書物ということや、作り物という面から疑問にはしていなかった。

ただ、これが現実となれば話は別だ。

ユーセングリスは微かに笑う。

「恐らくですが、それは懍世殿、貴方に魔法の才、言うなれば魔力があるからです」

「まっ、魔法!?」

魔法という言葉を聞いた瞬間、懍世の心は今まで史上最大の興奮を迎えていたのだった。

「ユーセングリス様、魔力量感知機と適性属性判別機、魔力濃度検知機の使用許可を」

「ああ。許可する」

ヘイリゲンが席を外す。

何度も妄想した自分の強く願っていた夢が、欲望が、その一つが今ここで叶うのだ。トラウマ級の死に方をしたとはいえ、こうなってしまえば、話は別だ。

「おおっ……!」

「その様子だと、懍世殿の故郷でも魔法は存在していたという解釈でよろしいでしょうか?」

「ああ、いや、厳密に言うと、魔法や魔力という単語は一般的に使われる言語の一貫として用いられてきましたが、この世界のように具現化ができるどころか詠唱を唱えても魔方陣すら出てきませんでした。ですので、自分の世界では幻、架空の物として魔法という言葉が使われています。だからこそ、夢なんですよ!!」

満面の笑みで答える懍世に彼は少し驚く。

ユーセングリスとしては、不明瞭かつ伝説とまで記されている勇者が元いた世界の文化を知りたかった。だからこそ、目の前にいる勇者の少年から出る嘘偽りの無い純粋無垢な架空上のはずの世界の具体的すぎる内容に彼自身も童心に還って心が踊っている。

「……ははっ。私もここまで関心を持つのはいつ振りか。懍世殿の説明からして、つまりあちらの世界では存在はしていないが魔法という言葉としての概念はあった訳か」

「はい。あとですね、過去に詩人や執筆家が書いた物語の中にも多数魔法の存在が描かれています。僕は無謀ながらもそれらに憧れていたのです。夢がこんなにも簡単に叶ってしまうなんて、幸せですよ!」

とはいえ、あんな恐ろしく命を落としてまでのリスクの範疇を越えた行為をしてそれは簡単と言えるのかと問われたら、手も足も出ないが、結果論でいいのだ。

やがて、ヘイリゲンと使用人が例の機器を持って戻ってきた。使用人がガラガラと引く大きな荷台に乗った三台のカラクリがお目当ての物なのだろう。懍世はこれまでになく目を輝かす。

ヘイリゲンが彼を脇目でありえないというどこか蔑んだ表情をしていたが、そんなことはどうでもよかった。

「過度に緊張していると思えば今度は何だ。一々五月蝿い挙動の奴だな。まあいい。一先ずここに指を置け」

「はい!どんなのが起こるかな……」

「ユーセングリス様、私としてはこのような者が勇者で先行きが心配でしかならないのですが……」

「そうか?非常に愛らしくずっと見ていられるがな」

彼の言われるがままに懍世が右手の人差し指を金属製の箱のような形をしたそれの窪みに押し当てた。懍世の指を機械が認知したのか、箱の内部で何やら動く音が鳴り___突如、箱から三人の覆う程の巨大な魔法陣が出現した。

「おおっ!これはすごい!」

「いや、まだだ」

と、魔法陣の中心部から青白い光が空を目掛けるかのように発射された。光は城の最上部までで途絶えており、一種の怪奇現象と言われても納得してしまうような今までならあり得ない情景が視界に映っていた。

「これはすごい……」

「フーヴェリア王国にある国立セリテリィ学園24期生主席フォンティーヌ·シュガレッサの入学時の魔力量が3112。彼は……それを越える3444。これは希望があるといって良いでしょう」

どのような仕組みでカラクリの側面に数値が表示されているのかは不明であるが、中々に楽しめた。

やたらと専門的な横文字が彼の口から連ねられていくが、とどのつまり、結構良かったということだろう。

「やった!凄いんだ!」

「なっ、おい待て!判断するまでまだ早いぞ。残りの二つもさっさと終わらせろ」

次に使うのは属性判別機という木の土台に大きな無色透明の球が埋められている。

「その魔石に片手を触れろ。球の色の変化によってお前の持つ魔力の属性が分かる。透明なままなら、どの属性にも属さない空っぽの魔力の持ち主ということになるが、十中八九それはないだろう」

これまた暫くすると球が反応を起こし___緑と黒い不思議な光が球から放たれていた。

「緑色は風魔法___もう一つはなんだ?」

ヘイリゲンが唸った。

黒い光など生まれてこのかた初めて見たが……なんというか、禍々しいの一言に尽きる。

「これは闇魔法。あまり解明されてない珍しい属性だ。懍世殿はトリッキーな魔術師としての素質がおありなようで」

懍世の真ん丸の目が溢れんばかりに大きくなった。

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