ワンフレームを君へ □
僕は、色んな人の人生を撮るのが大好きだ。
人の人生には様々な色がある。
その色はその人のオーラというかなんというか。兎に角、形容しにくいものがあるのだ。
そんな人生の一角を僕はワンフレームに収めるのが好きなのだ。
まだまだ高校生だし、所謂オタクという部類にされてもおかしくは無い。
実際僕はオタクちゃんだなんてあだ名を付けられてバカにされている。
オタクっていうのは、人よりその分野に長けた知識を持っている人のことを指すと僕は思っている。だから彼らのノリを見る感じバカにしていると取っているが、実際は褒め言葉にしか過ぎないのではないだろうか。
そんな事はさておき、今日もいい被写体はいないかと探し求めて校舎をいったりきたり。
夕日が傾きかけた頃、沢山の収穫をカメラに収めてほくほくとした気持ちでステップを踏みながら下駄箱に帰ろうとした時、何時もなら閉まっているはずの講堂につながる門が少しだけ開いていた。僕はなにかの糸で手繰り寄せられるかのようにその門をくぐった。
誰も手入れをしないから、草木が生い茂っていてその奥に見えるあの古めかしい建物こそが講堂だ。
演劇部でさえも使っていないと言っていたっけ。
恐る恐る、錆びれた扉を開ける。
壊れた木枠の窓から差し込む自然光がスポットライトのようになって、ステージの中央に降り注ぐ。
僕は息を飲んだ。
美しい人がそこにいたから。
これは撮らなくては。
この瞬間を収めなくちゃ。
そう思って構えようとしたけれど、僕の腕が珍しく言うことを聞いてはくれない。
否、僕は少しだけ見蕩れてしまったのだ。
「きれい…。」
「だぁれ、そこにいる人。」
透き通るような淡い声で僕は我に返った。
「えっと、道に迷ってここまで来てしまって。」
「へぇ…こんなとこ誰も来やしないからなぁ、俺は常連だけど。」
咄嗟についた嘘はどうやらバレなかったらしい。
「で、君はなんて言う名前なの?」
「僕、ですか。」
「当たり前じゃん、俺と君の2人しか居ないのに。」
「僕の名前は、
「俺?おれかぁ、んー、そうだなぁ、ゆうちゃんって呼んで。」
「ゆう、ちゃん。」
「そうそう、それで唯斗は迷ったわけか、なら送って行ってあげようか。」
「ほ、ほんとですか!」
これはチャンスだ、せめて帰り道でも収められますようにっ。
「なーんてね、唯斗が入ってきた扉から出て、真っ直ぐ歩けば元のとこに戻れる筈だから簡単だろ?ほらもう遅くなるし帰りな。」
ゆうちゃんは見た目にそぐわない程の大笑いをしながら僕に帰るように促した。
「でもゆうちゃんは、?」
「んー、俺は後でゆっくり帰るわ、眠いし。」
「また、会えますか…?」
僕はどうしてもゆうちゃんと一緒に居なくちゃいけない気がした。
「どうだか、唯斗の記憶次第だね〜、まぁ気が向くならまた会えるよ。」
そう確証の無いことを言いながらゆうちゃんは
僕を扉まで連れてきてくれた。
「そのカメラ、いいね。」
切なそうに、また何かを望むようにゆうちゃんは僕のカメラを褒めてくれた。
絶対次はゆうちゃんをこのカメラに収めよう。
彼の人生の色はすごく素敵な色だと思うから。
そのワンフレームを君へ渡すんだ。
御茶夢 湊 哨 @minasyo_1110
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