青天の霹靂⑴
同日、夕方にEクラスの担任が、後ろに須藤を引き連れてやってきて、クラス選考の結果が言い渡された。
「貴様はクラス選考の結果、Eクラスに決定した。明日より登校し、我がクラスにて能力について最低限の知識と制御する術を身につけろ」
「──言っておくが、この先、貴様の人生に『アザレア』の栄光などないと思え。せいぜい、人様に迷惑を掛けないように慎ましく生きることだ」
自分の人生に栄光なんて望んだことも考えたことすらもなかったが、一方的にオレを否定するEクラスの教師には腹が立った。
そして一緒についてきていた須藤さえ、クラス選考時から、手のひらを返したように、オレに見向きもしなくなったし、この先待ち受ける大事件の場においても須藤が味方をしてくれることはなかった。
"生徒と向き合う"と話しておきながら、"Eクラスの落ちこぼれ"と判断された瞬間にこんな仕打ちを受けては、須藤に対して信用も何もない。
教師二人が帰った後、オレは二人が置いていった資料に目を通した。
資料は学校の校則などが書かれた入校案内と、時間割──ほとんどの時間が能力制御訓練と書かれていた──そして「選考理由書」と書かれた紙切れだった。
………………
選考理由書
あなたは、以下の理由により E クラスとします。
また、同じく以下の理由により、学生生活において教師の許可を得ない能力の発動を禁止します。
1 能力名称
『青天の霹靂』
2 能力詳細
能力者自身の左目を介し、無作為な事象※1を発現させる。発現前の初動として稲妻を発生させることから、能力名称のとおりとした。
3 能力制御
不能
4 能力効果範囲
不明
5 希少性
高い
6 危険度
不明(ただし、クラス選考時の暴走状態から、暫定的に危険度は 相当高い と判断する。)
※1 無作為な事象
上記理由のとおり、現時点でその範囲や効果は不明であり、発動条件、傾向も不明。
無作為な事象として、"禁忌"の発現も予想されるため、能力発現時の事故対応については、教師2名以上で、生徒に対する制圧行為を許可する。
………………
オレは書類を通じて、自分が能力者であることを初めて理解した。
今までは、貧乏な家庭の足しになるくらいの買い手が付くんだ、と漠然とした思いだったが、ようやく理解した。
しかしながら、理解というのは、時には悪となる。
オレの場合、これまで「わからない」という言葉で片付けて、意識すらしていなかった自分のうちに、秘めるものを理解した。
その理解により、能力の発動率を上げてしまった。入学式、クラス選考後の初登校の道すがらから、いつも通り無意識に左目を開けていると"無作為な事象"が発現するようになった。
例えば、オレが行く先を彩るように、道に花が咲いたり、大人1人がすっぽり埋まるくらいの穴が空いたり、久しぶりの青空を見ていると巨大な海水の粒が降ってきて、あたりに塩害を振り撒く結果にもなった。
当然、何かが起こると選考理由書に記載があったとおり教師2名がすっ飛んでくる。そして叱られ、殴られ、「落ちこぼれが」と罵倒され、反省文を書かされる。
そんな毎日が続けば、誰だって嫌になる。
左目を開けないように努力していたけれど、能力研究のためもあってか、瞼を焼くなどして強制的に開かないようにすることはさせてもらえない。
だから、ふとした時には左目を開けてしまう。すると、無作為に周りの人や物を傷つけたり、困らせたりした。
そのせいで、オレはすっかり嫌われ者になってしまった。同じ立場にあるEクラス以外の生徒からは、『アザレア』のお荷物などと言われていた。
しかし、そんなことは──生徒から嫌われるのは別によかった。
お荷物なのは事実だったし、できることなら自分もしっかり能力を制御できるように改善したい。これは、Eクラス全員の目標であった。
ただ、問題は当時のEクラス担任だ。どういう経緯で『アザレア』の職員から学校の教師になったのかは知る由もないが、あの教師は性根が腐っていた。
あれは教師として指導をすることはない。
口から出る言葉は常々「お前たちは落ちこぼれで生きている価値はない」というもの。暴力なんかも日常茶飯事。
能力制御訓練の授業では生徒同士を戦わせて、自分は何もしない。ほとんど能力暴走に近い状態を見て、ゲラゲラと笑っていた。
ただ、『アザレア』の職員なだけあってか、能力を能力で去なすこと、能力暴走のすえ教師自身に危険が及ぶときの回避能力だけは一級品で、一発で暴走し切った生徒を止めることができていた。
その生徒は1ヶ月間の療養ののち、学校を辞めていった。
その生徒の境遇はオレと同じであった。だから学校をやめた後、住む場所もないのにどうしたのかと思っていた時、Eクラス教師が「『アザレア』であのガキの死体を確認したよ」などと、またゲラゲラ笑いながら話したことがあった。
それからは、Eクラス教師からどれほど辛い仕打ち受けても、全員が黙って、我慢しているしかなかった。
逆らってもダメだし、逃げ出してもダメだった。あとは、神に祈るしかない。この教師が、一刻も早く教壇から降りるか、あるいは"地獄へ落ちる"か。
そして、事件は起きた。
悪魔に祈りが届いたのだった。
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