変身ライダー『ソロモン』！！ ～７２柱の悪魔の鍵を持つヒーロー～

第13話 魔獣キー『オルトロス』

　街から森へ向かう途中の、街道からすら外れた草がまばらに生えただけの荒野で、俺達は依頼の前にちょっと寄り道をしていた。

　今回受けた依頼は薬草の採取だが、別に急ぐ事でも無い。薬草の説明は簡単な物だがして貰ったし、見つけやすい場所も聞いた。そして、そこに出るモンスターの話もだ。

　なにより、この依頼に期限は無い。出来るだけ速く、たくさん欲しいと言うだけだ。

　せっかく時間もあるし、薬草を探す前に新しい鍵を使える様にしておこうと思う。何せケルベロスの時はいきなり戦うハメになってしまったからな。

「…………」

「なんですか？　僕の顔をじっと見て」

「……いや、何でもない」

　あの時、あの『ケルベロス』との戦いは俺にとって悔しさがあった。俺の覚悟の無さと俺の弱さのせいで、相棒だと言ったメテオラに身代わりの様な事をさせてしまった。

　メテオラは気にしていないかも知れないが、あの戦いが終わった時に『怖かった』と涙目で言ったメテオラを、俺は忘れられない。あんなのは二度と御免だ。

「…………『変身』！」

『ゲーートセーーット！！』

　基本形態『ソロモン・フォーム』。まずはこの状態のステータスを見てみると、何となく予想していたが、オール『F』だ。全体的に一段階アップか。

「さて、本題だな。『魔獣キー』を使うぞ。まぁ、戦いにはならないだろうけどな」

「そうなんですか？」

「ああ。テレビの『変身ライダー・ソロモン』ではなって無かったからな。大丈夫なはずだ」

　メテオラにそう答えて、俺は正面に右手を突き出した。そして今回呼び出す『魔獣』の名前を呼ぶ。

「来い！　『オルトロス』！！」

　俺が『魔獣』の名を呼ぶと、突き出した手の前で光が弾け、そこに一本の鍵が浮いていた。それは紫色の鍵で持ち手の部分は三角形。そこには頭が二つある犬『オルトロス』の姿が彫られていた。

「…………本当に戦闘にはならないんですね」

「そう言ったろ」

　まあ、俺も確信は無かったから、戦いになった時の為に『変身』だけはしておいたんだけどな。

「それで、その鍵は『変身』する鍵とは違うんですか？」

「ああ。『魔獣キー』は『変身ライダー・ソロモン』のお助けアイテムだよ。そしてコイツはな、『変身ライダー』には欠かせないアレの鍵だ」

「アレ？」

　魔獣『オルトロス』の鍵を持ってニヤリと笑う俺。その前方に、突然鍵穴が現れた。

　俺は、その鍵穴に魔獣キーを差し込んで右に９０度回した。すると鍵と鍵穴は消えて、その場に大きな扉が出現する。出現した扉はすぐに開き、そこから一台の大型バイクが飛び出して来た！

「おおーー！」

「わぁ！　バイクですね！！」

　紫を地色に、金と銀が入ったその姿は俺がテレビで良く見ていたド派手な姿だ。バイクの前方部分には、金色と銀色の犬の頭が並んで付いている。うん、カッコイイ。

「でっかいですねーー。隼人さん、バイク乗れるんですか？」

「多分な。一応だけど、いつか免許取ろうと思って友達と予習はしてあるんだよ。まぁ、実際に乗った事は無いんだけどな」

「うーーん。僕も乗るとしたら、後ろですかね？」

「いや。コイツにはな、こんな機能もあるんだよ。えっと、確かこれだな」

　俺は目の前にある『変身ライダー・ソロモン』のバイク、その名も『オルトストライカー』の計器の下にある、タッチパネルを操作した。すると、オルトロスの銀の頭が移動し出した。

　バイクの前方、その真ん中に金の頭が配置され、銀の頭はバイクの横まで移動し、さらに横に飛び出すと、何とサイドカーが現れた！

「わあっ！　カッコイイですね！　何ですかこれ！？」

「サイドカーって言うんだよ。メテオラの席はそこな」

「僕の席！」

　俺がサイドカーを紹介すると、メテオラは早速とばかりにそこに乗り込んだ。

「早く！　早く走らせてみましょう、隼人さん！！」

「分かったから落ち着けって」

　そんな事を言いながら、実は俺もかなりワクワクしていた。

　んーー。まさか、人生で初めて乗るバイクが『オルトストライカー』だとは想像もしてなかった。おおっ！　重量感すげぇ！

　この『オルトストライカー』には、さっき消えた『オルトロス』の鍵が差してあったので、俺はそれを回してエンジンをかけた。

　さて、まずはギアを入れないとな。えっと確か、クラッチレバー、チェンジペダル、そしてアクセル。…………おお、動くぞ！　動かせる！！

「動いた！　動きましたよ！！」

「よしよし！　いけるぞコレ！　運転できる！！」

　徐々にギアを上げて、俺達は『オルトストライカー』で荒野を走り回った。

「速いです！　速いですよ！！　凄いですねバイク！　馬車とは全然違う！！」

「そうだろう、そうだろう！！」

　 メテオラも興奮しているが、俺だって凄く楽しい！！　俺達は普通に走らせたり丘を登ったり下がったり、止まってみたりグルグル回ってみたりと、思うさまバイクを楽しんだ。

　そして、結構な時間が過ぎた頃。

「あれ？　……隼人さん！　あそこ！！」

「ん？　冒険者か？　何かこっちに……追われてる！？」

「猪です！　でかい猪が後ろにいます！」

　メテオラの言う通り三人の冒険者が森からコチラ側に走って来ている。その後ろには遠目に見ても冒険者達よりもデカイ猪が土煙を巻き上げながら追って来ている。

「おいおいマジか！？　助けるぞメテオラ！！」

「はい！！」

　俺は『オルトストライカー』の向きを変えて、冒険者達に向かって走り出した。

「あの猪、本当にデカイですよ！　どうするんですか！？」

「任せとけ！　オルトロス！　運転任せるぞ！！」

『ガウッ！！』

　俺は『オルトストライカー』自体に運転を任せて体を起こした。いま流行りの『自動運転』だ！

　そして『デビルキー・ブレード』を呼び出すと、その持ち手の近くの、刃の反対側にある一部を引き上げた。すると、そこに鍵穴が現れる。

「来い！　『ケルベロス』！！」

　俺は『ケルベロス』の鍵を呼び出すと、剣の鍵穴に差し込んで９０度回して収納する。その瞬間、『デビルキー・ブレード』でのみ使える、ケルベロスの『ブレード必殺技』が発動した！！

『デビルズチャーージ！！』

　剣から響いたその声と共に、剣に貫かれる様な形で三つの炎の輪が現れる！！

「皆さん！！　そのまま走り抜けて下さい！！」

「す、すまねぇ！！」

　メテオラが冒険者達に声をかけて、俺達はすれ違う様にその横を抜けた。そして、目の前に迫るのは、バイクに乗った俺達よりもデカイ猪だ！！

「くらえ！！　せいやぁーーーーっ！！ 」

　気合いと共に剣を振り抜くと、炎で出来た大きな犬の頭が三つ飛び出し、大猪の首や腹や脚に牙を突き立てた！！

「ブギイイィィーーーーッ！！？？」

　断末魔の叫びと共に大猪は俺達の横を転がり抜けると、少しの間炎に巻かれる。

　そして炎が消えた後には、絶命した巨大猪が少し焦げた状態で、倒れていた