第11話 巨大リンゴの試食
「なっ、なっ、なーーーーっ!!??」
俺達が収穫した一抱え以上あるリンゴを見ていると、タゴが叫び声を上げながら走って来た。
「し、信じらんねぇべー! こっただ立派なリンゴ収穫しちまうなんて、凄いだ!!」
「あ、タゴさん。これは貰って行っていいんですよね?」
「…………冗談だったべども、言っちまったからなぁ。いいべ、これ一つだけならな」
「やったーー!!」
メテオラが大きなリンゴを抱きしめたままピョンピョンと跳んで喜んでいる。微笑ましいな。
「だども、一つお願ぇがあるだ。もう一つ収穫してくんねぇかな。追加報酬も払うで」
「一つでいいんですか?」
「あんま取っど、それが当たり前だと思われるがらな。程々が一番いいべ」
「……成る程。よし、メテオラ。もうひと仕事だ!」
「はい!」
こうして同じ要領でもう一度リンゴを収穫して、俺達の初仕事は終わった。
帰りの馬車では、俺の『変身』について色々聞かれた。この時に解った事だが、『ソロモン・ドライバー』に触れるのは俺だけだった。
神の手が入った『神器』だからか、俺にしか触れないらしい。
そしてギルドでは、俺がタゴから貰った追加報酬を認める書類を出した事で、受付のお姉さんが驚いていた。
「リンゴの木から直接収穫したの!? ……って、そうよね。大きなリンゴを持ってるもの。ええーー!!」
ちなみにこのお姉さんの名前はキータと言うらしい。二十代前半くらいの凛々しい感じのお姉さんだ。
「ねぇ、そのリンゴ、ギルドに売ってくれない? 相場よりは高く買うわよ?」
「ええ!?」
キータにそんな事を言われ、俺の顔を見るメテオラ。その顔には売っちゃうの? と書いてあるが、当然だが俺に売る気は無かった。これは食べるのだ!
「売りません。食べますので」
「えっ!? 食べるの!? これ、売ったら凄い値段になっちゃうのよ?」
そう言いながらも、キータは羨ましそうにリンゴを見るので、おれはコッソリと『森の木漏れ日』まで来てくれればご馳走すると伝えて、帰路についた。
「注目されてますね?」
「そりゃそうだろ」
街中を歩けば、皆が俺達に注目していた。正確に言えばメテオラが抱える巨大なリンゴにだ。
それはそうだろう。収穫出来たとしても貴族の元に直行するリンゴだ。見た事がある人は少数の筈だ。知っている様な雰囲気を出すのは皆冒険者であり、おそらくあの依頼を受けた事がある人達なのだろう。
注目されたくなければマジックバッグに仕舞ってしまえば良いのだが、メテオラが嫌がるのだ。自分達の力で初めて手にした獲物なので、自分で持ち運びたいと言っていた。
メテオラは大きなリンゴを抱えながら、何度も深呼吸をしてリンゴの香りを楽しんでいるのだ。もうずっと上機嫌である。
そして『森の木漏れ日』に着いてからも大騒ぎだった。女将さんとルルカは初めて見る巨大リンゴに目を丸くして驚き、存在を知っていた旦那さんは震える手でリンゴに触っていた。
「なんだいこれ!? 凄いねぇ!!」
「ルルカこんな大きいリンゴはじめてーー! ルルカより大きいよ!! ねぇメテオラお兄ちゃん! このリンゴ美味しいの?」
「それはどうかな。まだ食べた事ないから」
「じゃあ食べてみよーー?」
「こ、こらルルカ! これは凄く高価なリンゴなんだぞ!」
無邪気なルルカを旦那さんは止めたが、その必要はない。何故なら、俺達は最初から食べる気なのだから。
「じゃあ旦那さん。取りあえずは味見って事で、少し切って貰えますか?」
「…………へぇ?」
「先ずはそのまま食べてみましょう!」
「ええーーーーっ!!??」
包丁を入れたら売れなくなる! とビビリまくる旦那さんだったが、俺がリンゴに包丁を突き立ててからは肝が座ったらしく、取り敢えず一切れの半分程を剥いてくれた。
これだけで普通のリンゴ何個分にもなるし、包丁を入れた事で溢れ出したリンゴのジュースは、大鍋で受け止めねばならない程に溢れ出た。
リンゴの欠片は角切りにして大皿に盛ったのだが、ここに居合わせた人と、野次馬として店を覗いていた人達とで分けたら、あっという間に皿は空になった。
そして全員に行き渡った所で、皆が一斉にリンゴを口に入れた。
「「「うっまーーーーい!!!」」」
「なんだこれ! すげぇ甘い!」
「めちゃくちゃ瑞々しいぞ!?」
「こんなリンゴは初めて食べたわい!」
「きゃーー! これおいしぃーー!!」
大盛況である。しかし、確かに旨いのだ。甘いのはもちろん、俺の知っているリンゴとは違う。何と言うか『え? この一欠片にこんなに水分があったの?』って感じで、噛む度に口から果汁が溢れそうになるのだ。
「凄いですねこれ! 凄く美味しいです!」
「ねーーっ! ルルカこんなリンゴはじめて食べたの!」
「おお。これ搾ったりしたらかなりの量のジュースになるよな? 果汁がすげぇ!」
「はーー! こりゃ確かに高い訳だね! こんだけのもんなら、金貨が何枚も吹き飛ぶってのも納得さ!」
「…………!!!!」
俺達が感想を言い合う中、旦那さんだけは無言のままでリンゴを咀嚼し、その味を噛み締めていた。…………泣いてるな、そこまでか。
「あーっ! もう食べてるんですか!?」
宿の入り口から叫んだのはキータさんだった。……もう来たのか、ギルドの仕事があるからもっと遅くなるかと思ってたのに。
「ああ、キータさん。まだいっぱいあるんで大丈夫ですよ。旦那さんにも、これからリンゴを使った料理を作って貰おうかと思ってますし」
「!!?? …………こ、これを使った料理を?」
「ええ。…………ダメですか?」
フリーズする旦那さんに、ダメかなと思う俺だったが、旦那さんに変わって女将さんが引き受けてくれた。
「任しときな! ただ、ウチの人だけじゃ手に余るね。ちょっと誰か! 周りの宿屋や食堂から料理人集めとくれ!」
その女将さんの一言で、その場に集まっていた野次馬が飛び出して行った。
そして他の人達は何も言われる前に、近くの家や店からテーブルや椅子を持ち出して、宿の近くの広場に並べ始めた。
…………何か大事になって来てるが、大丈夫だよなこれ? いや、言い出したのはおれだけども。
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