第10話 リンゴの収穫
「いやー、良く来てくれましただ、冒険者の方々。オラはここの農園の管理しとりますタゴと言いますだ」
麦わら帽子を被った人の良さそうなおじさんが、自己紹介してから軽い歓迎の挨拶をしているが、後ろに見える凶悪なリンゴの木のせいで、話が頭に入って来ない。
他の冒険者も、リンゴの木自体は初めて見るのか『えっ? アレからリンゴを収穫するの?』って顔をしている。
目をキラキラとさせて楽しそうにしているのは、メテオラだけだ。
「えー、初めて見るって人もいると思うべが、オラの後ろさ見えてるのがリンゴの木ですだ」
そりゃそうだろう。だってリンゴが生ってるもの、振り回しているもの。俺の知ってるリンゴの木とは違うけど、リンゴの木だって主張が激しいもの。
「ここにはリンゴの木はぜんぶで八本あるだが、全部オラ達が育てた木なんで、野生のリンゴの木よりは、かなり大人しいです」
…………大人しい?
全員が再びリンゴの木を見るが、相も変わらずブンブンとリンゴを振り回しており、荒々しい。あれはとても大人しいヤツの姿ではない。
「あの、大人しい様には、全く見えないんですが?」
冒険者の一人が手を挙げてタゴに聞いた。それは皆が思っている事だった。
「いやぁ、大人しいだよ。野生のリンゴの木はDランクのモンスターだもの、コイツらは精々がFランクだぁ」
リンゴの木ってモンスターだったの!? いや、あの木を見た時から解ってはいたけども!!
「それにだぁ、今から冒険者の方々に収穫してもらうのは。ホレ、あそこさ転がってるリンゴだぁ」
タゴの指差す方を見てみると、荒れ狂うリンゴの木の下に小さなリンゴがいくつも転がっていた。大きさといい形といい、そのリンゴは街で流通しているヤツだった。
俺だけでなく、他の冒険者も今回の依頼内容を把握したらしい。皆、成る程と頷いている。
「えー、リンゴに当たると最悪死ぬ事もあるんで、お気をつけて作業をお願いしますだ。あ、それとリンゴの木の間合いの中に落ちているヤツは、この道具さ使って下さい」
タゴが持ち上げたそれは、竹の棒の先に輪っかと網がついた長い虫取網みたいな道具だった。…………俺の知ってるリンゴの収穫と大分違う!?
「頑張りましょうね! 隼人さん!」
「お、おう!」
メテオラが心底楽しそうだ。笑顔がキラキラしている。この状況の何がそんなに楽しいのか。
ともかく、タゴから背負い篭を受け取ってリンゴの収穫が始まったが、それはもう地味な作業だ。リンゴの木の攻撃に気をつけながら、落ちているリンゴを拾うだけだから当然なのだが。
ちなみにこの落ちているリンゴは、リンゴの木が繰り出す風圧に耐えきれずに落ちた物で、基本的には成長途中なのであまり美味しくないそうだ。
たまにリンゴの木が攻撃に使っている巨大リンゴが落ちる(飛ぶ?)事があるらしいが、それはかなり美味しくて高価だそうな。希少価値も高いので街に並ぶ事は無く、貴族の家に直行だと聞いた。
そして、高ランクの冒険者が野生のリンゴの木を倒して収穫するリンゴは、更に高価だ。何せ、大体のリンゴが戦っている間に傷つく為に納品出来ない。無傷の物があってもデカイので、マジックバッグを使ってもそんなに持って帰れないそうだ。
「他のリンゴに傷さつけずに収穫出来るなら、一個は無償で差し上げますだよーー! ただし、他のリンゴに傷さつけたら、弁償だでなーー! たっはっはっ!!」
冗談なのか、タゴが笑いながらそんな事を言った。
「…………試してみるか」
「何をですか? 隼人さん」
「リンゴだよ。あのデカイやつ、食ってみたくないか?」
「……それは食べたいですけど、難しくないですか? 他のリンゴに傷もつけれないですし」
「そこで作戦だ。あのな…………」
「…………なるほど。それなら多分できますね!」
作戦が決まった所で、俺達はタゴに三分の一程リンゴが入った篭を二つ預けた。
「どしただ? この篭さいっぱいにして貰わねぇと、報酬さ出せねぇど?」
「大丈夫です。それは後でちゃんと収穫しますので」
「潰れちゃうといけないので、ちょっと預かってて下さい」
いぶかしむタゴを尻目に、俺達はリンゴの木の前に立った。
「『変身』!」
『ゲーートセーーット!!』
「来い! 『ケルベロス』!!」
『ゲーートオーープン! ケルベロス・ゲーート!!』
ソロモンに変身した俺は、すぐに『ケルベロス』の鍵も使って『ケルベロス・フォーム』へと変身する。そして、まずステータスカードを確認した。
体力・E
気力・G
魔力・F
力・F
防御・G
速さ・D
耐性・G
運・G
…………やっぱりだ。『ソロモン・フオーム』も変身前よりステータスが高い気はしていたんだ。動きやすさが違ったからな。
そして、鍵を使うと更に変わる訳だ。特に速さが上がっている。これならイケる!!
俺は『ケルベロス・フォーム』の速さを活かし、リンゴの木に突っ込んで行き、襲い掛かるリンゴを避けていく。
リンゴを振り回して襲って来ると言っても、枝のしなりにも限界はある。その動きを読んで躱すのは、さほど難しい事では無かった。まぁ、変身ありきの話だけどな!
そして俺は、リンゴの動きを見極めながら走り続け、ターゲットを絞っていく。
「…………あれに決めた! いくぞメテオラ!!」
「はい!!」
俺はターゲットにしたリンゴの攻撃を避けながら移動し、タイミングを見計らってメテオラに向かって駆け出した!
繰り出されたリンゴは俺を追いかけて飛び、その枝が伸びきった所で飛び込んで来たメテオラが、リンゴを抱きしめる様に押さえつけた!!
「隼人さん! 今です!」
「よっしゃあ! 『デビルキー・ブレード』!!」
俺はリンゴを押さえるメテオラの横を抜けて、リンゴに繋がっている枝を剣で斬り裂いた!!
「うわっ!」
反動でひっくり返ったメテオラが、仰向けに寝転がって止まり、その瞬間、歓声が溢れた!
「うおおぉぉーーーーっ!! やりやがったアイツら!!」
「凄ぇぞお前ら!!」
メテオラの腕の中には真っ赤で大きなリンゴが抱えられており、俺達は体を起こしたメテオラと、笑顔でハイタッチを交わした。
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